リサーチ

2022.09.16

「オフィスカイゼン活動」に関する意識

変化にあわせてオフィスをより良く快適にする取り組み

世界的パンデミックを引き起こしたCOVID-19をきっかけにワークスタイルが大きく変化している今、変化に対応させながらオフィス環境をより良く快適にしていくことが求められている。企業はオフィス環境を改善するため、どんな取り組みを実施しているのか。コクヨが実施したアンケートの結果をもとに、ワークスタイルコンサルタントの樋口美由紀が解説する。
※アンケート調査では、「オフィスカイゼン活動」という名称でなくても、オフィス環境をよりよくするための活動が勤務先で実施されている場合は「オフィスカイゼン活動」ととらえて回答していただいた。

オフィスカイゼン活動に対するワーカーの認識

コクヨでは2013年より、オフィスを利用する際に感じる使いにくさや配慮すべきマナーを社員自身が見つけ、みんなで解決していく「オフィスカイゼン活動」に力を入れています。コロナ禍などをきっかけにワークスタイルやオフィスの使い方が大きく変化した今、オフィスカイゼン活動に対してどれだけのワーカーが認知し、どのような認識をもっているかを調査しました。

オフィスカイゼン活動を認知しているワーカーは半数弱

「オフィスカイゼン活動について知っていますか?」という質問に対して、「知っている」と回答した人は45.0%でした。日々利用しているオフィスですが、いつものオフィスを、より快適なオフィスに変えていくオフィスカイゼン活動という取り組みについては、まだあまり知られていない様子がうかがえます。

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活動の重要性を認識し、意欲を示す人が半数以上

活動の重要度について、約7割の人は「重要だと思う」と回答。また、6割弱の人が「活動に取り組んでみたい」と答えています。オフィスカイゼン活動自体を認知している人はまだ半数でしたが、活動の内容を紹介することで、その重要性を認識し、取り組んでみたいと感じる人はより多いことがわかりました。

これらの結果は、オフィスでの働き方に対して日ごろから小さなストレスを感じている人が多いことの表れではないでしょうか。日々オフィスで過ごす中で直面するちょっとした不便・不快があるからこそ、活動を重要だと感じ、自分でもやってみたいと思うのではないか、と推測できます。

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8割のワーカーが「社員1人ひとりが活動に取り組むべき」と認識

活動について、「誰がやるべきだと思いますか?」と質問したところ、約8割の人が「社員1人ひとり」と回答しました。担当者や外部業者に任せるのではなく、自分たち自身で取り組むべきだと考える人が多い結果でした。
この数値から、オフィスカイゼン活動が自分自身に関わるテーマと認識しているワーカーが多いことがうかがえます。

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オフィスカイゼン活動の現状

コクヨのオフィスカイゼン活動は、「オフィスの小さな課題を解決する」ことを目的としており、当初は、オフィス空間や備品の使い方などハード面のカイゼンが活動内容の中心でした。しかし近年は、ワークスタイルの変化や、活動に求められる役割の変容にしたがって、活動内容や目的もさらに進化しつつあります。

オフィスでカイゼンしたいこと

オフィスでカイゼンしたい項目を質問したところ、「知らない社員同士のコミュニケーションが少ない」がトップに挙がりました。
活動が始まった当初、オフィスの課題といえば空間や備品の使い方などハード面に関するものが中心でしたが、現在はコミュニケーションやマナーなどのソフト面に不便・不快を感じる人が増えてきています。

近年はフリーアドレスやABWを実施する企業が増えていますが、こうしたワークスタイルを導入する目的の1つとして、「仕事で接点のない社員同士が会話を持つこと」が挙げられます。部署を超えたコミュニケーションによって新しいビジネスアイデアが生まれ、イノベーションのきっかけになると期待されているためです。
しかし今回のアンケート結果からは、オフィス内では意外にコミュニケーションが生まれていない現状が見えてきました。

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活動を担当する部門

活動をすでに実施している企業に「活動を主に担っているのはどこの部門ですか?」と聞いてみると、54.5%の企業では総務部門が担っていることがわかりました。
ワーカーがオフィスで不便を感じた際は、まず総務担当者に相談するのが一般的です。そのため、「オフィスの困りごとを解決する」がコンセプトのオフィスカイゼン活動を総務部門が担うケースは多いようです。ただし、人事・労務部門が活動を担っている企業が19.6%、経営企画部門が担う企業が13.3%みられるのは注目したいところです。

オフィスカイゼンは、不便・不快をなくすという意味で「マイナスをゼロにする」活動としてのイメージが強かったと思います。しかし今回の調査結果からは、「オフィスカイゼンを通じて社員の働きやすさやエンゲージメントを高める」という目的から人事・労務部門が担ったり、「オフィスの価値を高め経営戦略に取り入れていく」という観点から経営企画部門が活動を主導する企業が出てきていることが推測されます。
「マイナスをゼロに」から、「マイナスをプラスに」というねらいで、オフィスカイゼン活動をよりアクティブに活用する流れは、今後ますます高まると予想できます。

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オフィスカイゼン活動の課題

近年は「オフィスをよりよく使いたい」という思いがワーカーの間で高まってきたと考えられ、オフィスカイゼン活動の重要性は少しずつ認識されつつあります。しかし、本格的な拡がりを見せるまでには、いくつかの課題がみられます。

自社の活動状況に対する認知度が低い

「あなたの会社では、オフィスカイゼン活動をおこなっていますか?」と質問したところ、「すでに実施している」という回答が約4割みられ、すでに活動が複数の企業に取り入れられていることがわかりました。ただ、気になったのが「実施しているかどうかわからない」と答えた人が23.3%いたことです。つまり、4人に1人が自社で活動が実施されているかどうか把握していないことになります。

前述したように、「オフィスカイゼン活動に取り組んでみたいと思いますか?」という質問に対して、6割弱の人が「活動に取り組んでみたい」と答えています。また、ほかの質問からも、多くの人がオフィスでの不便・不快を何かしら感じていることは見て取れます。

にも関わらず自社で活動がおこなわれているかを知らない人が一定数みられるのは、社員1人ひとりが自分の思いをまだ行動に移せていないことが原因だと考えられます。小さな困りごとを抱えていても、活動が自社でおこなわれているかどうかを確認したり、もし実施されていなければ自分から働きかたりするまでは、まだ関心が高まってはいないといえそうです。
だからこそ、すでにオフィスカイゼン活動を実施している企業の担当部門は、社内に向けて活動内容を積極的に発信し、社員の参加を促すことが求められます。また活動はこれからという企業も、社員が無理なく参加できる仕組みを構築することが重要です。

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活動が業務として評価されない

オフィスカイゼン活動は、1回やって終わりではありません。継続的に実施してこそ、快適なオフィスが維持されるようになり、ワーカーの働きやすさやそれに伴う業務の生産性向上に繋がっていきます。

しかし、私自身がコクヨで活動に携わったり、お客様の事例を拝見したりする中でも、活動を継続的に実施するのは簡単ではないと実感します。そこで、継続実施の障害となる要素を挙げてもらいました。
最も多かったのは「現業が忙しくて時間がつくれない」ですが、さらに注目したいのは「業務として評価してもらえない」という項目です。業務として位置づけられていないと、堂々と活動を行うことに気が引けてしまうケースも見られ、活動が停滞しがちです。業務として評価してもらえなければ、ワーカーは「自分がやるべきことではない」「現業が忙しくて時間がつくれない」と考え、活動を自分事としてとらえにくくなってしまいます。

オフィスカイゼン活動を継続する際は、活動を業務として評価し、就業時間内に取り組むよう制度設計をおこなうことが重要です。部署ごとのリーダーも活動内容を理解し、メンバーに積極的な参加を働きかけることが望まれます。

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まとめ

オフィスは完成している空間ではなく、そこで働く人や働き方の変化にあわせて、常に変化させ、アップデートさせていくことが重要です。
オフィスカイゼン活動を、継続していくことで、オフィス価値や業務生産性の向上を後押しし、ひいては企業成長を促します。
また、継続的におこなうためには、「楽しく取り組むこと」が大切です。気づいたカイゼン課題について社員間で気軽にアイデアを出し合い、1つずつ成果を出していくことで達成感を感じ、「自分たちの働き方を少しずつでもよくしていこう」と前向きに活動できるようになるのではないでしょうか?
このような「楽しさ」を担保するために、担当部門は活動が業務として認識されるよう体制を整えたり、カイゼンした項目を社内サイトで発信するなどして、社員のモチベーションを上げることも重要です。

コクヨは2013年以来、自社でオフィスカイゼン活動を継続し、お客さまにもサービスメニューとして活動をご提案しています。今後も、多くの皆さまがオフィスをよりよく進化させていけるよう、お手伝いさせていただきたいと願っています。



調査概要

実施日:2022.2.25 -28実施

調査対象:社員数500人以上の民間企業に勤めるワーカー

ツール:WEBアンケート

回収数:309件(予備調査:4263件)

協力:マクロミル


【図版出典】Small Survey 第34回「オフィスカイゼン活動に関する意識」

樋口 美由紀(Higuchi Miyuki)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント/THE CAMPUSオフィスカイゼン委員会ファシリテーター
総合商社、教育企業において顧客向けサービス事業に従事後、コクヨ入社。経験を活かし「人に寄り添い成長を支援する事業」として幼児教育事業を新規に立ち上げ、教育プログラム開発や人材育成、顧客対応などに携わる。その後「ダイバーシティ」「ウェルビーイング」をテーマに、人生100年時代の企業とワーカーのよりよいあり方をリサーチ。現在、2021年2月に品川に新しくオープンしたコクヨのニューオフィス「THE CAMPUS」にてオフィスカイゼン委員会ファシリテーターとして、オフィスカイゼン活動にも携わっている。


作成/MANA-Biz編集部