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フラットな組織風土づくりとイノベーション創出につながる「リバースメンタリング」とは?
トレンドワード:リバースメンタリング

変化の激しい時代、旧来の価値観では対応が難しい経営課題が増えている。若手の柔軟な発想やデジタルリテラシーを活かし、ベテランのリスキリングにもつながる人材育成の手法として、リバースメンタリングが注目されている。そのメリットや導入のポイント、事例などについて解説していく。
リバースメンタリングとは
リバースメンタリングは、上司や先輩社員がメンター(相談役)となる一般的なメンタリングとは逆(リバース)の、部下が上司に助言する教育支援の仕組みのこと。1990年代後半にゼネラル・エレクトリック社のジャック・ウェルチ氏が、現場の若手社員をメンターとして最先端のICTの動向や使い方を学ぶ仕組みを導入したことが発祥と言われています。 リバースメンタリングの内容は、ICTなどの新しい技術やスキルのほか、SNSやスマートフォンアプリの活用、若い世代の持つ価値観やセンスなどを事業に活かすなど、多岐にわたります。「ベテラン社員よりも若手社員の方が詳しい」テーマが対象となります。
リバースメンタリングを取り入れる目的とメリット リバースメンタリングを導入することでどのようなメリットが期待できるのか、組織・若手社員・ベテラン社員それぞれの立場で見ていきます。
組織のメリット
ベテラン社員に対して若手社員がメンターとして自由に意見を述べたり、アドバイスをするシーンが増えることで、オープンでフラットな組織風土醸成が期待されます。また、そうした世代を超えた人間関係の形成によって組織が活性化し、イノベーションの土台づくりの役割を果たすことも考えられます。若手社員のメリット
メンター役の若手社員にとってのメリットとして、人に教えることで理解が深まり、新たな学びや発見になることが挙げられます。また、ベテラン社員から直接頼られたり褒められる機会が増えることで、期待やチーム貢献を感じられ、大きな成功体験になることも。さらに経営幹部との関わりを通して経営戦略への理解が深まって視座が上がったり、キャリアのロールモデルが見つかる場合もあるようです。ベテラン社員のメリット
教わる側のベテラン社員は、デジタルリテラシーの獲得や、新しい価値観に触れて視野や知見を広げることができます。また、若手メンバーから教わる機会を持つことで、マネジメントスキルの向上や上司としての成長、働き方改革や新規事業などの施策や企画の立案につながる可能性も。リバースメンタリング導入のポイント
リバースメンタリングの導入が効果的な組織として、年功序列型や平均年齢が高いチームなど、縦の人間関係が硬直化しやすい組織が挙げられます。他にも、ダイバーシティの推進や、若い世代ならではの価値観やトレンド等を事業に活かせる組織作りにも、リバースメンタリングの導入は効果的です。 リバースメンタリングを導入する際のポイントとして、次の3点が挙げられます。
目的とルールを明確化する
まずリバースメンタリングを導入する目的を明確にする必要があります。例えば次世代リーダー育成のためか、DX推進のためかによっても、やり方や人選は変わってきます。目的に合わせて期間や頻度、KPIや効果測定方法などを決めてから開始するとよいでしょう。メンターとしての活動は評価対象になるのか、何を評価基準とするかなどもあらかじめ明確にしておく必要があります。また、ただの意見交換で終わらせないよう、実施報告会の場を持つなどアウトプットの機会をつくるとよいでしょう。心理的負担がかからないよう準備する
若手は教えることが重要な役割であること、ベテラン社員は若手からのフィードバックをポジティブに受け止める姿勢で臨むといったマインドセットが重要です。また、メンター側の心理的抵抗感や負担を考慮し、必要に応じて直属の上司や先輩は避けるなど、極力ストレスのかからない組み合わせを検討するとよいでしょう。事前にコミュニケーションに関する研修やオリエンテーションを実施する、若手社員からあらかじめ要望を聞いておく、困った時の相談先を決めておくことも効果的です。リバースメンタリングの活用事例
リバースメンタリングを効果的に活用している企業の事例を紹介します。
P&G
P&Gは日本で初めてリバースメンタリングを導入した企業だと言われています。子どもがいない管理職が今後の労働環境や人事福利厚生制度を検討するため、若手に相談し、アドバイスをもらうことを目的として取り入れられました。仕事と子育ての両立に関するリアルな悩みなど、多様な状況にある若手を理解し、適切で柔軟な対応をとるために活用されています。NEC
NECでは若手が挑戦し、デジタルツールを通じて主役になる体験を積む機会にするため、「役員が新入社員から学ぶ」リバースメンタリング型の研修を実施。若手の柔軟な発想やデジタルリテラシーを活かしつつ、年齢に関係なく挑戦できる機会をつくる仕組みを考えるきっかけになるなど、経営幹部のマインドセットの変革にもつながっています。資生堂
資生堂は2017年からリバースメンタリングを導入しています。役員や部門長などメンティーの参加は原則義務、メンターは希望者を公募する形で実施。メンターはITやデジタル知識だけでなく、美容やファッションのトレンドなどの最新知識を教え、メンティーは必要に応じて経験に基づくフィードバックを行うなど、オープンでフラットな対話を行います。新規事業に関する議論も行うなど、立場の異なる社員同士の率直な意見交換がD&Iやイノベーションの創出にも寄与しています。まとめ
リバースメンタリングは人事育成の方法の一つであり、リスキリングや新しい価値観の獲得だけでなく、D&Iやフラットな組織風土づくりにも貢献するなど、さまざまな効果が期待できます。世代や部門を超えたコミュニケーションがイノベーションの創出や、若手社員の組織へのエンゲージメントや競争力を高める可能性も。 人手不足の深刻化が懸念されるなか、人材育成と定着率の向上のための取り組みはますます重要になります。若手がチャレンジできる機会と立場の異なる相手の意見を尊重する組織風土をつくるための方法として、リバースメンタリングに期待が寄せられています。