リサーチ

2022.08.24

働き方の自由度とパフォーマンス

自由な働き方でパフォーマンスも向上する?

2020年からのコロナ禍以降、ワーカーの働き方は大きく変化した。半強制的なテレワークを経て、現在では場所や時間を固定しない働き方を奨励する企業も多く見られるが、働き方の自由度とパフォーマンスとの関連はあるのか。コクヨが実施したアンケート調査の結果をもとに、働く場づくりに携わってきた井上竜一が解説する。

コロナ禍を経て
働き方とパフォーマンスに変化あり

コロナ禍を経て、多くの人のワークスタイルは激変したと言われていますれに伴って、働き方の自由度やパフォーマンスにも変化があったと推測できます。
そこで、ワーカーの働き方やパフォーマンスがどのように変化したかを質問しました。

ワーカーの半数以上に 働き方・働くことへの意識に変化があった

まずは予備調査として、コロナ禍前と現在とで「働き方や働くことへの意識に変化はありましたか?」と質問を投げかけました。
その結果、54.5%のワーカーは「変化があった」と回答。やはりコロナ禍は、多くの人の行動や意識に変化をもたらしたようです。

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なお、事前に行った調査の回答を企業規模別に分析したところ、500~1000人規模の企業では「行動・意識に変化があった」と回答した人が69.4%と最も多いのが印象的でした。社員500~1000人の企業は中規模ながら、ある程度の資本力は備えているケースが多く、ワークスタイルを柔軟に変更しやすいと推測できます。だからこそ、働き方の変化を実感するワーカーが多いのかもしれません。

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組織のパフォーマンスが大きく低下

ここからは、「コロナ禍前後で行動・意識に変化があった」と回答した人に対象を絞って質問しています。

働き方の自由度とパフォーマンスの関係の前提として、非常に気になったことがありました。それは、コロナ禍前に比べて、全体として「パフォーマンスが下がった」と感じている人が多いことです。
この結果をさらに詳しく見ていくと、ワーカー個人のパフォーマンスはあまり変化していませんが、組織のパフォーマンスが大きく低下したことがわかります。
個人と組織ではパフォーマンスの判断軸を違う項目で測っているため、いちがいに「組織パフォーマンスが課題」とは言い切れません。それでもこの調査結果は、私たちがこの2年ほど感じてきた「チームのコミュニケーションが難しい」といった感覚を裏づけるデータの1つと言えるのではないでしょうか。

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「働き方の自由度」と「パフォーマンス」の相関関係

ここからは、本題である「働き方の自由度」と「パフォーマンス」の関係について、より具体的に分析していきます。


分析方法

今回は、「コロナ禍前後で行動・意識に変化があった」と回答した人に対して、ここ2~3年で「働き方」と「働くことへの意識」がどのように変化したか詳細な質問を実施。その回答を、「働き方の自由度」を計るものと「パフォーマンス」を計るものに分類して集計し、散布図を作成しました。
散布図によって相関係数(相関関係の深さを示す指数)と近似曲線が得られるので、この2要素をもとに「働き方の自由度とパフォーマンスに相関関係はあるか」を判断しています。

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「働き方の自由度」と「パフォーマンス」には一定の相関関係がある

この記事のメインテーマである「働き方の自由度」と「パフォーマンス」については、相関係数(相関関係の強さを示す指数)が0.41で、一定の相関関係があることがわかりました。働き方の自由度を上げるだけでパフォーマンスが上がるとは限りませんが、生産性アップのための一要素として考える必要がありそうです。

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パフォーマンスを上げる要素・下げる要素

「働き方の自由度」と一口に言っても、実はさまざまな要素があります。パフォーマンスにプラスに働く要素とそうでない要素を探ってみました。

「場・時間」の自由度

「場・時間の自由度」とは、「好きな時間に働ける」「場所を選んで仕事ができる」といった意味です。調査結果を見ると相関係数は0.26と低く、相関関係が弱いことがわかりました。
近年は多くの企業が、サテライトオフィスの設置やコワーキングも利用、定時制からABWへの切り替えをおこない、場・時間の自由度を高めようと取り組んでいます。
しかし今回の調査からは、そのような施策だけではパフォーマンス向上にはつながらないことが見えてきました。

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「仕事の進め方・情報アクセス」の自由度

「仕事の進め方・情報アクセスの自由度」は、「仕事を自分の裁量で進めることができる」「さまざまなデバイスから情報にアクセスできる」ことを指します。情報アクセスの自由度は、DXの進み具合とも関わってきます。調査結果を見ると相関係数は0.43で、「場・時間の自由度」に比べて高い相関関係があることがわかります。

ただ、グラフをじっくり眺めると、全体的なパフォーマンスの指標である切片の数値が-3.7と低いのが気になります。この結果は、仕事の進め方や情報アクセスの自由度を高めたことでパフォーマンスが下がった人も少なくないことを示しています。

仕事の進め方や情報アクセスの自由度に配慮することは重要ですが、例えば入社して間もない人に「自由に仕事を進めていいよ」と任せても、パフォーマンス向上にはつながらないでしょう。ワーカー1人ひとりの希望や仕事歴に沿って、管理側がきめ細かいフォローを加えながら自由度を高めていくことが重要だと考えられます。

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自席(固定席)のあり・なし

コロナ禍以降、オフィス縮小を視野に入れてフリーアドレスを検討する企業が多くみられます。一方で、「自席がなくなると会社への帰属意識が薄れ、パフォーマンスが低下するのではないか」という懸念から、フリーアドレス化に踏み切れないケースも多いようです。
そこで、「自席のあり・なし」とパフォーマンスとの間に相関関係があるのかを、「コロナ禍を経て自席がなくなった人」と「自席が変わらずある人」と比較する形で調べてみました。具体的には、効率・創造性・エンゲージメント、チーム力・コミュニケーションという5項目について、パフォーマンスの変化を比べました。

その結果、自席がなくなった人の方が全体的にパフォーマンスが高く、特に「効率」の項目では明らかな差が見られました。

意外だったのは、「エンゲージメント」の項目です。自席がなくなった人のエンゲージメントはこの2~3年でほとんど変わらない一方で、自席が変わらずある人はエンゲージメントが大きく下がっています。つまり、「自席がなくなると自社への帰属意識が薄れるのではないか」という予測とは逆の結果が出たのです。

この結果からは、「オフィスのリニューアルによって設備が充実し、自席はなくなったが快適に働けるようになった」といった要因が推測できますが、個々の企業・ワーカーの事情にもよるので断言はできません。ただ、いずれにしても、エンゲージメント低下を避けるためにフリーアドレスを見合わせる必要はなさそうです。

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まとめ

今回の調査からは、働き方の自由度とパフォーマンスには一定の相関関係があることがわかりました。同時に、コロナ禍を経て組織パフォーマンスの低下が改善されていない現実も見えてきました。組織のパフォーマンスを計る項目をピックアップしてみると、チーム力やコミュニケーションに関する質問に否定的な回答をした人が非常に目立ちます。

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これらの結果からは、「働き方の自由度アップは重要だが、同時にチーム力向上やコミュニケーションの質・量を増やすことにも取り組む必要がある」という方向性が浮かび上がってきます。また、フリーアドレスの方がエンゲージメントが向上していることなどをふまえると、オフィス空間とそこでの働き方を見直すことがパフォーマンス向上につながることが明らかになりました。
パフォーマンスの向上にはさまざまな要素が絡み合っていることから、一面的に良し悪しを判断するのではなく、それぞれのデメリットを他の施策で保管しながら、最適なカタチを見つけていくことが求められそうです。



調査概要

実施日:2022.4.13 -15実施

調査対象:社員数500人以上の民間企業に勤めるワーカー

ツール:WEBアンケート

回収数:309件(予備調査:2,820件)

協力:マクロミル


【図版出典】Small Survey 第36回「働き方の自由度とパフォーマンス」

井上 竜一(Inoue Ryuichi)

コクヨ株式会社スペースソリューション本部/グループマネージャー
1987年にコクヨへ入社。国誉中国北京オフィス設計施工部などを経て現職。富士通川崎工場・汐留本社やコクヨ大阪ショールームをはじめ、多数のオフィスやショールームの設計・施工を手がけ、空間構築を通じて多様な企業のワークスタイル変革を支援している。

作成/MANA-Biz編集部