リサーチ

2022.08.09

法律で義務化される「合理的配慮の提供」

民間事業者における法的義務化に向けた現状と課題とは

2021年、改正障害者差別解消法が成立し、民間事業者において努力義務とされていた合理的配慮の提供が法的義務となることが決まった(改正法は2024年6月3日までに施行予定)。障害のある人の個々の障害の特性や困りごとに合わせて提供される合理的配慮は、実際にどのくらい提供されているのだろうか?実態や課題を『合理的配慮に関する実態調査』から考察する。
※『合理的配慮に関する実態調査』は、民間事業者による合理的配慮推進委員会(事務局:株式会社ミライロ)が、約1000名の障害のある当事者と、300名の事業者を対象に実施。

障害のある当事者の認知度も低い
合理的配慮の全面義務化

障害者差別解消法では、国や自治体、民間事業者は、障害のある人から合理的配慮を必要としていると伝えられた際には、負担が重すぎない範囲で対応することを義務としている。国・自治体においては法的義務、民間事業者においては努力義務とされていたが、2021年の改正により、事業者においても法的義務となった。

調査において、この変更を「知っている」と回答した障害のある人は25%と、認知度はまだ低い。

4_res_235_01.jpg




5人に2人が仕事や職場において
「合理的配慮が不十分だ」と思ったことがある

一方、日常生活で合理的配慮が不十分だと思う場面を選択する質問では、「仕事や職場において」を選択した人が446人と最も多く、約40%を占めた。次いで、「公共機関を利用する時」(398人、約36%)、「日常のお買い物や飲食など、サービスを利用する時」(280人、約25%)などが続いた。また、「不十分と感じたことはない」と回答した人もおよそ25%近くいた。

4_res_235_02.jpg
仕事や職場において、具体的にどのようなことが不十分だったのだろうか? 調査では、「やさしくゆっくり話してほしいと要望をしても、十分にしてもらえなかった」「ドアなどの開け閉めが難しいので引き戸にしてほしいと申し入れをしたが、対応できなかった」など、多様な声が挙がっていた。

4_res_235_03.jpg
仕事や職場における合理的配慮の提供は、障害者雇用促進法により、国、自治体、民間事業者ともに法的義務とされている。そして、職場においては本人からの申し出の有無にかかわらず、事業主が障害のある従業員の有無や、障害のある従業員の障害の状況、職場で支障となっていることの有無などを確認し、必要な対処や調整をすることとされている。

回答者の5人に2人が仕事や職場において合理的配慮が不十分だと感じているこの結果や、具体的な声などから、事業主から障害のある従業員に対する合理的配慮の意向確認や双方の対話、調整の実行などに課題があることがうかがえる。




約4割が、合理的配慮の
提供がなされていなくても「何もしない」

また、調査では、合理的配慮の提供がなされていないと感じたときに、障害のある人たちがどのようなアクションをとるかについても調査している。

最も多かったのは「何もしない」で約40%にあたる447人が選択。「あきらめている」というコメントも多数あったという。「その場で指摘して対応を求める」(182人、約16%)、「事後に事業者に問い合わせて改善を求める」(175人、約16%)と、事業者に対して何かしらの対応・調整を求める人はそれぞれ2割に満たなかった。

4_res_235_04.jpg



約半数の事業者が、
合理的配慮の提供を求められたことがある

調査では、事業者(官公庁、地方公共団体、民間事業者)に対しても法律の認知度や合理的配慮の提供状況について尋ねている。まず、法律の認知度について、障害者差別解消法そのものへの認知については、民間事業者で「詳しい内容まで知っている」と回答したのは24.8%。「名前は知っているが詳細は知らない」が60.8%だった。

また、改正障害者差別解消法において民間事業者の合理的配慮提供が法的義務になることについては、民間事業者においては「知っている」(51.0%)と「知らない」(49.0%)がおおむね半々だった。

4_res_235_05.jpg
4_res_235_06.jpg
次に、合理的配慮の提供を求められたことが「ある」という事業者は50.5%で、「イベント運営の際の情報保障、事前資料提供、視覚的にわかりやすい資料の提示」「身障者専用駐車場を入口から近くにすること」などが具体例として挙がった。

4_res_235_07.jpg



合理的配慮の提供事例の収集と、
提供方針の策定が今後の課題

調査結果を受けて、調査主体である「民間事業者による合理的配慮推進委員会」は、事業者において、合理的配慮の提供方針を定めるための根拠となる業界内の事例や当事者からの声が十分に行き届いておらず、判断材料が無いままに合理的配慮の提供が義務化されることの不安感があることを指摘している。

委員会が指摘するように、「どこまで合理的配慮を提供すべきか」についての指針となるような当事者の声の収集や、先進事例の整理は今後の課題であろう。

加えて、合理的配慮の提供は民間事業者においても法的義務となることが、障害のある人に対しても、民間事業者に対してもより一層周知されるべきであることも、課題として挙げられる。
また、すでに法的義務とされている職場における合理的配慮の提供について、事業者は「必要な措置が事業主に対して過重な負担を及ぼす場合は、提供義務を負わない」とされているものの、調査で実際に挙がっていた声の中には「過重な負担」にあてはまるとは言えないものもあった。障害のある被雇用者と事業主との対話や事業主の一層の取り組みが求められるところであろう。

合理的配慮は、障害のある人が障害のない人と平等に人権を享受し行使できるよう行われるものであるとされている。そのような社会の実現に向けて、上述した課題の解消を一歩ずつ進めていくことが求められる。

【出典】合理的配慮に関する実態調査調査主体:株式会社ミライロ



作成/MANA-Biz編集部