2021.11.15

【株式会社ミライロ】多様な働き方を許容する場づくり(1)

障害者雇用と環境整備

Profile

プロフィール

株式会社ミライロ

代表取締役社長 垣内俊哉氏

1989年に愛知県安城市で生まれ、岐阜県中津川市で育つ。生まれつき骨が脆く折れやすいため、車いすで生活を送る。自身の経験に基づくビジネスプランを考案し、国内で13の賞を獲得。障害を価値に変える「バリアバリュー」を提唱し、大学在学中に株式会社ミライロを設立した。 高齢者や障害者など誰もが快適なユニバーサルデザインの事業を開始、障害のある当事者視点を取り入れた設計監修・製品開発・教育研修を提供する。社会性と経済性を両立する取り組みの実積をもとに、国内のみならずアメリカ・フランス・エクアドル・オーストリアなど海外における登壇や、メディア出演も多数。テレビ東京「ガイアの夜明け」、NHK総合「おはよう日本」コメンテーター出演など。

※「障害」の表記について

視覚障害のある方に向けた音声ブラウザやスクリーンリーダーを使用した場合に正確な読み上げが行われるよう、「障がい/障碍」ではなく 従来の「障害」表記で統一しています。

Interview

インタビュー

——— 2018年4月に障害者の法定雇用率が引き上げとなり、今後も更なる引き上げを控えている状況です。障害者雇用をめぐる状況の変化について、どのように感じていらっしゃいますか。

垣内氏
私が生まれた平成元年の時点で、障害のある方で働いていた人は19万5千人でしたが、現在はその4.2倍の82万1千人。これは比較的増加率が高いと見受けますが、実際には日本の中央省庁で働いている障害者の割合は職員全体の2.31%(2019年6月時点)です。一方でアメリカは14.4%ですから、単純計算で言えば6倍の開きがあります。この差はどこから生まれているかと言うと、根本は「教育」の不足にあります。現在大学に通っている障害者は3万3千人ですが、これは大学生全体の僅か1%です。障害のある方は決して少なくないはずなのに、全体の学生数から見れば障害のある方がみな高等教育を受けているとは言えない状況です。これでは、大学を卒業した障害者を採用したくともその機会が無いに等しいのです。特に、一般的に名の知られている大学に通っている障害者は大手企業に採用し尽されており、国や自治体、中小企業が雇用したくとも求めている人材と出会えない。ですから障害者雇用の根本的な課題解決は教育水準の向上にあると考えています。

また一方で、障害のある方は離職率が非常に高いという事実があります。統計上、10人採用しても半年で3~4人が辞め、1年後には5~6人が辞めてしまう。これはなぜかというと、障害者の就労意欲が低いからです。その理由は、お金を稼いでも使える場所が少ないから。飲食店や買い物できる場所、旅行先が果たしてどれだけバリアフリーかというとまだまだ未整備な場所も多い。稼いでも使える場所がないのだから稼ぐ意味がないと思ってしまっているのです。もっと彼らが外出や買い物、食事、そして旅行へ行きたいと思える社会にしていかなければ、就労は当然進んでいかないと考えます。教育水準の向上と平行して、社会全体の意識向上と環境整備を図っていかなければならないのです。

——— 環境整備ということですが、障害者雇用のまさにその現場であるオフィス環境についてお伺いします。障害者雇用を推進していくにあたり、必要な視点は何でしょうか。

垣内氏
障害者雇用における環境整備の意義は、効率、安全、そして社会性であると考えています。まず効率に関しては、弊社も視覚障害、聴覚障害、そして車いすユーザーの社員が働いていますが、彼らがパフォーマンスを発揮するにはある程度の工夫をしておかなければなりません。彼らに戦力となってもらうにはオフィス環境にも一定の投資が必要です。狭いオフィスで移動するたびに、周囲に声をかけて手を止めさせるということは、職員全体の業務効率にも影響が出る。今、国と地方公共団体の法定雇用率が2.5%です。50人いれば1人、100人いれば2~3人はいるという状況ですが、今後更に障害のある職員が増えていった際、全体の業務効率を良くしていくためにもユニバーサルデザインに配慮された家具・ツール等の工夫は必要です。

2つ目の安全、これは災害対策を指します。東日本大震災では多くの方が亡くなりましたが、残念ながら障害者で亡くなった方の人数は健常者の2.5倍に上ります。なぜかというと逃げ切れなかったから、あるいは周囲のサポートを受けることができなかったからです。だからこそ、有事の際に彼らが避難できる環境を整備していかなければならないし、また周囲の人間がすぐさまサポートできるように研修をしておく必要があると考えています。ハード(設備)もハート(意識)も変えていかなければならない。それがひいては効率化にもつながります。

3つ目の社会性、これは障害者雇用というひとつの社会的役割を果たしていく必要性についてです。障害者が日本の全人口に占める割合は7%を超え、936万6千人と言われています。しかしこのうち就労しているのは10%にも満たない82万1千人です。今日本が直面している働き手不足の状況下において、障害者雇用の可能性にもっと目を向けるべきです。そのためにもユニバーサルデザインの環境整備を進めていかなければならないと考えています。

先ほど中央省庁の障害者雇用率について言及しましたが、ここにも変化の兆しはあります。障害者雇用を進めているある省庁では、既にバリアフリーへの改修を行い、次のステップとして職員に向けたユニバーサルマナー研修の実施を計画しています。まさにハードとハートを変えていくことで、現在は離職率も下がり、安定した障害者雇用が継続できています。中央省庁の建物は古いものが多く、バリアフリーには課題があります。しかし、そうした環境下で取り組むからこそ、それでもできたということが示せたら、企業にとってはすごくよい事例となるでしょう。

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