リサーチ

2022.04.18

ワーカーの貢献意識と自己成長実感を育てるには?

「ほめる」と「サポートし合う」が自社へのエンゲージメントを伸ばす

現在、これまでの日本特有の働き方の一つとして取り上げられる年功序列、終身雇用制が崩れ始めているが、今後ますます崩壊は加速し、より人的流動が盛んになると予想される。社員の定着度を上げるには、ワーカーが自社に対してエンゲージメントを感じる環境や仕組みをつくっていく必要がある。そのカギとなる二大要素が「成長実感(自分が成長していると感じること)」と「貢献意識(会社の成長に自分が役立っているという意識)」だ。ワーカーは、自社でどのように自己成長を果たし、貢献意識を高めているのか。コクヨの調査結果をもとに考察する。

ワーカーの成長実感

「仕事をしていて、自分が成長していると感じることはありますか?」という質問を投げたところ、「いつも感じる」と「ときどき感じる」と回答した人の合計が約6割に上りました。年代別に見ると、特に部署のリーダーなど新たな役割を担う機会が増える30代は、成長実感を持っている人が約7割と高めです。

自分の成長を実感する理由を聞いてみると、多くの人が「ビジネススキルや知識が増えたから」や「管理側に昇格したから」、「新しい仕事にチャレンジしているため」などを理由として挙げています。やはり、スキル・経験値の蓄積や新しい業務への挑戦は、ワーカーの成長実感につながりやすいようです。

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成長実感を阻む要因

しかし、成長実感を抱いている人が多い一方で、「以前はとても感じていたが、今は感じない」と「以前はときどき感じていたが、今は感じない」の合計が約3割みられるのは気になるところです。
ワーカーの成長実感に大きく影響すると考えられることの中に、「ほめられる経験」と「他人をサポートする経験」があります。この2つの要素についてワーカーに質問すると、成長している実感をもてない人が一定数存在する理由が見えてきました。

未熟なほめる文化

仕事に関して「ほめられた経験」を質問すると、「数字等誰もが一目瞭然でわかる成果を出したとき」や「顧客からほめられたとき」といった目に見えやすい結果に関しては、「自分でも頑張ったと思うし、周りからもほめられたことがある」という回答が5割超みられました。
一方で、「組織の風土や制度、人間関係など、よりよくなると思ったことを進言したとき」や「仕事上で自分がよいと思ったアイデアや意見などを発言したとき」などワーカーが自らの判断で起こしたアクションに関しては、約4割にとどまっています。

自分がよかれと思って行ったことに対してよいリアクションが得られないと、ワーカーは自発的な行動を起こさなくなり、成長実感を得る機会を失うことにつながります。リーダーやマネージャーの役割を担う人には特に、「行動を起こしたこと」自体をほめるよう心がけ、ほめる文化を醸成していくことが求められます。

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サポートし合う意識が薄い

「自分の知識やスキルが同僚の業務に役立つとわかったとき、どのくらいサポートに関与しますか?」という質問をしたところ、全体的に他者への貢献意識は高めでした。「誰に対してサポートするか」に注目すると、「自分より年齢が低い、同じ組織の人」に対してサポートする傾向がみられました。

ただし、自分と距離が遠い人に対しては「困っている同僚からの声掛けを待つ」という回答が多く、自分からは働きかけないのが気になります。サポートの習慣がないと、感謝される経験も減り、成長実感を得にくくなります。先述の「ほめる文化」とあわせて、互いにサポートし合うカルチャーをつくっていくことが必要です。

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自社で活躍する未来を
思い描けない若手も

「10年後に会社の成長に貢献できると思いますか?」という質問に対して、「たくさんできると思う」、「まあできると思う」と回答したワーカーが合計で約6割みられました。半数以上が「会社の成長に貢献できそう」と思っているのは、それだけの人が自社にエンゲージメントを抱いていることでもあり、好ましい結果といえるのではないでしょうか。特に30代のワーカーは、「貢献できると思う」と答えた人が多くみられました。

しかし、年代別に見て気になった点もありました。20代で「10年後は、別の会社・組織で働いていると思う」と回答した人が19.3%と、他世代と比較して高くなっていたことです。 20代といえば、10年後は主力メンバーとして会社に貢献することが期待される年代です。その20代が自社で活躍する未来を思い描けないのは、見過ごせない課題といえます。企業としては、将来も働き続けたいと思ってもらえるよう、自社の魅力を高めていく必要があるかもしれません。

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自社を俯瞰する視点が薄い

「所属する組織、勤務先について、項目別にどれだけ理解しているか」という質問では、顧客や外部パートナーとの会話に出やすい「自社の理念」や「自社名の語源」、また日々の業務で意識する機会が多い「所属組織のミッション」や「所属組織の他メンバーの仕事内容」、「所属組織の今年度の目標とその達成度合い」に関しては非常に理解度が高く、「とても理解している」と「まあ理解している」の合計がいずれも70%超に上りました。

一方で、「自社の株価の動き」や「所属組織以外の人の仕事の進捗状況」、「所属組織以外の組織の業務内容と今年度の目標」については、「あまり理解していない」と「まったく理解していない」の合計が5割を上回っており、自身の業務に直接関係のない項目については理解が及んでいないことがわかります。また、年代別に見ると20代は多くの項目に関する理解度が低めでした。

今回の結果からは、日々の仕事に追われて自社を俯瞰する視点を持てないワーカー像が見えてきます。自社についてより理解することは働きやすさにもつながり、自己成長意識も高まると期待できます。日頃より広い視野をもって業務の全体像から個人のタスクまでのつながりを把握できるような工夫などが必要なのかもしれません。

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まとめ

「私は会社に貢献できている」「仕事を通じて成長できている」といったポジティブな意識は、自身への満足に直結し、ひいては自社へのエンゲージメントにもつながります。ワーカーに長年活躍してもらうには、企業は「ほめる」や「サポートし合う」などの文化を醸成し、ワーカーが自己効力感をもてる環境をつくる必要があります。
またマネジメントの人は、メンバー一人ひとりに自己成長意識を持たせ「自己成長が会社貢献につながる」という気持ちを醸成する、きめ細かいマネジメントを心がけていくことが重要ではないでしょうか。



調査概要

実施日:2021.11.24-26実施

調査対象:社員数500人以上の民間企業に勤めるワーカー

ツール:WEBアンケート

回収数:309件(予備調査:5000件)

協力:マクロミル


【図版出典】Small Survey 第28回「貢献度と自己成長」


河内 律子(Kawachi Ritsuko)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
ワーキングマザーの働き方や学びを中心としたダイバーシティマネジメントについての研究をメインに、「イノベーション」「組織力」「クリエイティブ」をキーワードにしたビジネスマンの学びをリサーチ。その知見を活かし、「ダイバーシティ」をテーマとするビジネス研修を手掛ける。

作成/MANA-Biz編集部