リサーチ

2022.04.06

ポストコロナ期におけるオフィスでの働き方

テレワークを経てワーカーのオフィスニーズが変化

コロナの感染拡大から約2年。日本ではワクチンの3回目接種率が3割に達しています(2022年3月15日時点)。長期間のテレワークを経て、ワーカーは現在、オフィスでどのように働きたいと考えているのか。コクヨの調査によって明らかになった、今後のオフィスワークに求められる要素について考察する。

コロナの感染拡大によって出社意識と行動に変化

まずは事前調査として、「感染拡大前と現在で、オフィスに出社する際の意識や仕事内容に変化の有無」をたずねてみました。
その結果、テレワーク経験のあるワーカーは、4割が「とても変わったと感じる」、3割が「少し変わったと感じる」と回答。一方で、テレワーク経験なしのワーカーのうち約5割は「全く変わっていない」と回答しています。やはり、テレワークは出社意識や仕事内容に大きな影響を与えたことがわかります。

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ここからは「テレワーク経験あり」ワーカーに限定して、意識や行動の変化、今後希望するオフィスでの働き方を尋ねてみました。

オフィス業務時の行動が具体的にどう変化したかを尋ねると、「オンライン会議の頻度」は、約9割の人が「増えた」と回答。逆に「会議のために大勢で個室に集まること」は、9割弱が「減った」答えています。「オフィスでの部署外の人とのコミュニケーション」や「顧客に直接会う機会」に関しても「減った」と感じているワーカーが多く、オフィスにおいて直接コミュニケーションをとる機会が減少していることがうかがえます。

なお、「集中したいときにはオフィス以外の場所を選択する」行動が増えたワーカーや、「仕事中の仕事外の会話」が減ったワーカーが多くみられることから、より効率的な働き方を重視する傾向も読み取れます。しかし、効率のみを追求した働き方やコミュニケーション不足が今後も続くとなると、ワーカー同士の信頼関係構築が難しくなり、組織力の低下が懸念されます。

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ポストコロナのオフィスに求められる機能

ポストコロナのオフィスに求めるスペースや設備、コミュニケーションのあり方について質問したところ、テレワークの経験を経たうえでワーカーがオフィスに期待するニーズが見えてきました。

オンライン会議や集中作業を
快適におこなうためのスペース・設備

今回のアンケート調査の対象がテレワーク経験者であり、同僚と話す機会が限られているため、調査前は「ミーティングスペースなどコミュニケーションが取れる場所のニーズが高いのではないか」と予測していました。
しかし、オフィスに設置されているスペースに関する希望を尋ねてみると、「1人で集中できるスペース」や「周りの視線を気にせず休憩できるスペース」、「オンライン会議用の遮音性の高いスペース」を現状より増やしてほしい、という声が多く集まりました。一方で、「オープンなミーティングスペース」を求める人は意外に少ないのが印象的でした。

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設備に関しても、「オンライン会議の集音マイクやスピーカー」や「大型ディスプレイ」、「仕事用のデスクの広さ」を求める声が目立ちました。

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これらの結果から、ワーカーがオフィスに期待するのは「自分にとって快適に働けるスペースや設備」と考えられます。テレワーク期間中、自宅で作業やオンライン会議を行う中で、「生活音に邪魔されて会議がやりづらい」、「デスクが狭くて資料を広げられない」、「ノートパソコンだとディスプレイが見づらい」といった課題に直面したと予想されます。これらを解決するための機能をオフィスに求めているのではないでしょうか。


ウェルビーイングを担保する空間

ワーカーがオンライン会議のためのスペースや設備を求めている理由として、当然ながら「オンライン会議の開催数が増えたこと」も挙げられます。実際、「会議はどこで開催されていますか?」と質問したところ、「オンライン上で」と回答した人が6割、「オープンスペースで」と答えた人が2割弱に上りました。
人事面談や商品開発など秘匿性の高い内容に関する会議以外は、オンラインやオープンスペースでの開催に移行したと考えられます。

コロナ禍前は、多くのオフィスで会議室不足が課題に挙がっていました。しかし今回の結果を見ると、ポストコロナにおいては個室会議室を別の用途に利用する流れが生まれると予測できます。

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個室会議室の利用率が今後低下すると仮定し、ワーカーに「会議室を別の目的で再利用するとしたら、どんな施設にリニューアルしてほしいですか?」と質問すると、「仮眠室」と「自習室」を希望する声がそれぞれ3割みられました。

「就業中に仮眠をとってリフレッシュしたい」「空き時間に自身のキャリアにつながる勉強がしたい」といったニーズは、いずれも社員のウェルビーイング(心身の健康や幸福)に関連する内容といえます。テレワークを通じて自分のペースで働く快適さに気づいたワーカーは、オフィスでも心身の健康を守りながら仕事をしたいと感じているのかもしれません。

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仕事外の気軽なコミュニケーション

「オフィスにおいて、コミュニケーションのためのスペースを求める声は少ない」という調査結果をご紹介しましたが、オフィスでのコミュニケーション機会について質問したところ、「ワーカーはまったくコミュニケーションを求めていないわけではない」という傾向が浮かび上がりました。
同僚・部署外の人・外部パートナーや顧客・上司とコミュニケーションを増やしたいかどうかを聞いてみると、「同僚や部署外の人との機会を増やしたい」という声が多くみられたのです。

先述の「オフィス業務時に減った行動」として「同僚との仕事外の会話」「部署外の人との会話」を挙げた人が多かったことから、仕事に直接関連しないコミュニケーションが減っていることは明らかです。同僚や部署外メンバーとのコミュニケーションを求める人が多いのは、テレワークによって雑談が減った現状を寂しく感じているワーカーが多いことの現れだと考えられます。

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多様な働き方の継続が求められている

今後の不測の事態に向けて自社がどう備えるべきかを質問したところ、「全社員テレワーク実現に向けたインフラ・制度の整備」や「出社しなくてもよい仕事の仕方の提案」、「よりペーパーレス業務への移行」を挙げる人が目立ちました。

こうしたニーズの背景として、現状のテレワークを「一時的なもの」ととらえて十分にインフラ・制度を整備していない企業があることも推測されます。その現状に対してワーカーは不満や懸念を感じ、テレワークをはじめとした多様な働き方をするためのインフラ・制度を整えるよう望んでいることが読み取れます。

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まとめ

今回の調査から、ワーカーがオフィスに求めているのは集中作業やオンライン会議のための設備、すなわち自分のペースで快適に働ける空間であり、思ったほど対面コミュニケーションが渇望されているわけではないことがわかりました。
これらの結果からは、「仕事に集中できる環境が整ったオフィスで、テレワークの気楽さや心地よさを実現しながら働きたい」というワーカーの本音が読み取れます。言い換えれば、「テレワークで確立したスタイルをオフィスにも持ち込みたい」と感じる人が増えているのかもしれません。

この結果から、今後企業はワーカーにとっての快適さが生産性向上につながるかを検証しながら、ポストコロナのオフィスづくりを考えていく必要がありそうです。



調査概要

実施日:2021.11.10-12実施

調査対象:社員数500人以上の民間企業に勤めるワーカーのうち、テレワーク経験者

ツール:WEBアンケート

回収数:309件(予備調査:5000件)

協力:マクロミル


【図版出典】Small Survey 第27回「ポストコロナ期のオフィスの働き方」


河内 律子(Kawachi Ritsuko)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
ワーキングマザーの働き方や学びを中心としたダイバーシティマネジメントについての研究をメインに、「イノベーション」「組織力」「クリエイティブ」をキーワードにしたビジネスマンの学びをリサーチ。その知見を活かし、「ダイバーシティ」をテーマとするビジネス研修を手掛ける。

作成/MANA-Biz編集部