リサーチ

2022.05.25

従業員の「働きがい」を高める組織のあり方

自社への「愛着」がフックになる

リモートワークを導入する企業が増えてきた今、「オフィスに出社しないワーカーが増えると、自社に対する帰属意識(思い入れや貢献したい意識)が薄れるのではないか」という懸念も一部でみられる。今後ますますワークスタイルの多様化が予測される中で、さまざまな環境のもとで働くワーカーが「この会社で働いてよかった」という「働きがい」を感じ、帰属意識を持てるように、企業が取り組むべきことは何か。コクヨが実施した調査をもとに考察する。

「愛着」が「働きがい」を高める

自社への帰属意識は、「愛着」「忠誠」「功利」という3種類が存在することが、社会心理学者の田尾雅夫氏をはじめさまざまな研究者の発表によって明らかになっています。

愛着:「会社が好きだ」という思い入れによる結びつき
忠誠:「会社に尽くすべき」という忠誠心による結びつき
功利:「会社を辞めると損をする」という損得勘定による結びつき

多くのワーカーは3種類の帰属意識を同時に持っており、人によってそれぞれの意識の強弱は異なります。

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さらに、3種のうちどの帰属意識を強く抱いているワーカーの「働きがい」が高いかを分析したところ、「愛着」と「働きがい」の相関度が最も高いとわかりました。つまり、ワーカーの「働きがい」を高めるには、自社への「愛着」が高まるような取り組みが効果的ということになります。
そして今回の調査から、この自社への「愛着」を高めるために必要な要素も見えてきました。

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自社への「愛着」を強める3つの要素

自社への「愛着」が強いワーカーがどんな「ワーク・エクスペリエンス(仕事における体験)」を得ているのかを調べたところ、「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」、「成長環境」、「上司関係」が上位3つに挙がりました。

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1.MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)

「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」とは、「どのような組織でありたいのか」「社会にどのようなインパクトを与えたいか」といった組織の思想を指します。MVVを言語化して社内外に発信し、それに沿った組織活動を実行することによって、ワーカーは自社に「愛着」を持つと考えられます。


2.成長環境

「成長環境」とは、ワーカーが仕事の内容や進め方において自主的に挑戦ができる環境や、専門性を深めたり拡げたりできる学びの機会を指します。このような環境や機会を組織から提供されていることを感じられれば、ワーカーは「この会社でよかった」という「愛着」を持ちやすくなるでしょう。


3.上司関係

ここでいう「上司関係」とは、上司と働くことでモチベーションが高まる体験を指します。業務やスキルのアドバイスだけでなく、一緒に働くことでやる気が出たり、ロールモデルとして将来の希望を感じられたり、場合によってはメンタル不調などを一早く察知して早めのケアができるなど情緒的なサポートも重要だといえます。


ワーカーも望む「成長環境」と「上司環境」

一方で、「もっと増やしたいワーク・エクスペリエンス」を質問したところ、トップは「場の選択」(場所を自由に選んで働きたい)だったものの、自社への「愛着」と相関が高い「成長環境」や「上司関係」も上位に挙がりました。つまり、これらは「愛着を高めやすいにも関わらず、体験量が不足している」体験といえます。
従業員の「愛着」を高めたい企業は、従業員自身も求めている成長環境やマネジメントの仕組みを優先順位高く整えるとよいでしょう。

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リモートワーク頻度によって
自社への「愛着」のあり方が異なる

コロナ禍以降、多くの人がリモートワークを実践するようになり、「オフィスから離れて働く機会が増えることによって、自社への『愛着』が下がるのではないか」と危惧する企業も少なくありません。そこで、リモートワーカーがどのようなワーク・エクスペリエンスから「愛着」を感じるのか、そしてそれはリモートワークをしないワーカーと異なるのか検証してみました。
具体的には、リモートワークの頻度でワーカーを3タイプにわけて、どのようなワーク・エクスペリエンスが「愛着」につながるかを各タイプごとに集計しています。

1.フルリモートワーカー:在宅勤務が週5日以上
2.ハイブリッドワーカー:在宅勤務が週1~4日
3.オフィス中心ワーカー:在宅勤務が週1日未満

先述した「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」「成長環境」「上司関係」はいずれのタイプにおいても「愛着」と相関が強く、全ワーカーに共通して「愛着」を高めやすい体験といえます。一方、それ以外の点で、リモートワークの頻度によって傾向の違いがみられました。

リモートワーカーは「相互刺激」「助け合い」「心理的安全性」から「愛着」を感じる

「愛着」と相関関係の高いワーク・エクスペリエンスの上位5つをみると、オフィス中心ワーカーの場合「給与」や「相談」が並びます。言い換えると、経済的・心理的に安心して日々を過ごせる環境を組織から与えられると「愛着」が高まるといえそうです。
一方、フルリモートワーカーの場合は、「心理的安全性」や「助け合い」が、並んでいます。ハイブリッドワーカーの場合は、「相互刺激」や「助け合い」が「愛着」の向上に寄与しやすいという結果になりました。
つまり、これらリモートワークを行うワーカーは、チーム内で互いに刺激や学びを与えあって協働できる環境から自社に「愛着」を抱きやすいと考えられます。リモートワークによって仲間と直接顔を合わせる機会が減る中で、互いの活躍や考え方を知れ、困りごとに反応しやすいチーム環境を整えることがワーカーと組織のつながりを強固にするでしょう。


リモートワークを推進するなら雑談とフィードバックを再設計しよう

続いて、「もっと増やしたいワーク・エクスペリエンス」についてリモートワーク頻度別に見てみましょう。上位5つを比較すると、ハイブリッドワーカーは全体平均と似ていますが、オフィス中心ワーカーとフルリモートワーカーで顕著な違いがみられます。

オフィス中心ワーカーの場合は「ひとり集中」や「社外との人脈拡張」が上位に位置していますが、フルリモートワーカーの場合は「インフォーマルな交流」「社内での人脈拡張」「フィードバック」が求められている点が特徴的です。
前者は普段からオフィスで仲間と顔を合わせる機会が多いため、ひとりの時間や社外交流の時間を確保したい意図がみられます。一方後者は在宅勤務でひとりの時間を確保しやすい反面、交流の機会が減るため、仲間との何気ない会話や細やかなフィードバックを求めていると考えられます。

リモ―トワークを推進する際は、オフィス内外で出会いの機会や仲間同士の仕事に触れる機会を意識的に設計するとよいでしょう。



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まとめ

今回の調査では、「自社への愛着を感じやすい体験」や「もっと増やしたい体験」について分析を行いました。そして全ワーカーに共通する体験を見出した一方で、リモートワークの頻度によってそれぞれの体験に違いがあることもわかりました。つまり、働き方を変えるのであれば、従来の体験を継続して感じられるか考えるより、新しい働き方に適した体験を再設計する必要があるといえます。例えば、オフィス中心の働き方では経済的な安心が「愛着」に寄与しやすいですが、リモートワークに移行する場合チームでの相互刺激から「愛着」を感じやすいため、これらの体験を優先的に強化することが効果的となるのです。
このように働き方に合わせて「愛着」を感じやすい体験を増やすことで、組織全体の「働きがい」も高まっていきます。企業は、従業員一人ひとりがどのような働き方を望んでいるのか、そしてその働き方ではどのような体験が求められるのか、を見つめなおすことで、「愛着」や「働きがい」を持って働くワーカーを増やしていけるのではないでしょうか。



調査概要

実施日:2022.2.10-14実施

調査対象:社員数500人以上の民間企業に勤めるワーカー

ツール:WEBアンケート

回収数:309件

協力:マクロミル


【図版出典】Small Survey 第32回「従業員の「働きがい」を高める組織のあり方」


田中 康寛(Tanaka Yasuhiro)

コクヨ株式会社 ワークスタイル研究所 / ワークスタイルコンサルタント
2013年コクヨ株式会社入社。オフィス家具の商品企画・マーケティングを担当した後、2016年より働き方の研究・コンサルティング活動に従事。国内外のワークスタイルリサーチ、働く人の価値観調査などに携わっている。

作成/MANA-Biz編集部