リサーチ

2022.01.27

オフィスの共用空間の今後

「コミュニケーションの場」としてオフィスはより重要に

コロナ禍以降、多くの企業がテレワークを取り入れ、ソロワークを在宅で行うスタイルが定着しつつある。この変化に伴いオフィスの重要な役割がコミュニケーションの場になるなかで、あらためて注目したいのが共用スペースだ。コクヨが実施した調査結果をもとに、共用スペースの活用状況や今後の役割を考察する。

共用スペースの種類

オフィスに設置されている共用スペースを挙げてもらったところ、いずれの企業規模でも「給湯スペース」と「個室の会議室」「オープンなミーティングスペース(着席型)」を挙げる人が目立ちました。

従業員100~500人未満の企業と比較すると、従業員500人以上の企業は、すべてのスペースの設置率が高いことがわかります。企業規模が大きくなるほどオフィスの床面積も大きくなると考えられるため、社内の共用スペースも充実しているのは妥当といえます。

特に「セミナー・研修ルーム」と「リラックススペース」は、従業員500人以上の企業にのみ設置されている傾向が読み取れました。「セミナー・研修ルーム」の設置率が高いのは、従業員が多くなることによって自社で研修を実施する機会が増えるためだと考えられます。「リラックススペース」に関しては、従業員のウェルビーイング向上施策の一環と推測できます。

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よく利用される共用スペース

よく利用する共用スペースについては、6~7割のワーカーが「個室の会議室」と「オープンなミーティングスペース(着席型)」を「よく利用している」と回答しています。この結果から6~7割のワーカーは恒常的に会議が発生していることが想定できます。

コロナの影響でオフィスを「コミュニケーションのための場」ととらえる傾向が高まっていることをふまえると、今後も「個室の会議室」と「オープンなミーティングスペース(着席型)」のニーズは高まると予想されます。

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共用スペースへの満足度

共用スペースの満足度を尋ねたところ、いずれのスペースに関しても「とても満足」と「まあ満足」と回答した人の合計が6割を上回る結果となり、ワーカーが比較的心地よく共用スペースを活用している状況が見て取れます。
特に満足度が高かったのは「個室の会議室」と「オープンなミーティングスペース(着席型)」で、これらの空間は利用頻度も高かったことから「ユーザーの目的にフィットする快適な空間」として機能していると言えそうです。

満足・不満足の理由についても聞いてみると、満足の理由は「スペースの広さが十分」と「利用しやすい場所にある」と答えた人が目立ちました。逆に不満足の要因は「利用しやすい場所にない」と答える人が多く、アクセスのしやすさが満足度に大きく関わってくることがわかります。
また、特定の場所に対する不満足な点として、「個室の会議室の予約がスムーズにいかない」や「ランチスペースは特定の人がいつも使っているので使いにくい」という声が挙がっています。共用スペースだからこそ、より多くの従業員が心地よく利用できる運用が求められます。

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共用スペースのよくある課題

共用スペースに関しての満足度は、いずれの施設も6割以上と高めです。しかし、「利用しにくい」「使いたくない」といった声も少なくありません。今回の調査結果から、共用スペースにおける課題が見えてきました。


運用ルールが守られない

共用スペースの運用ルールが守られているかどうかを質問したところ、「リラックススペース」や「ランチスペース」「給湯スペース」をはじめすべての場所について、「利用ルールがあるが、あまり守られていない」と回答した人が1~2割みられました。ルールが守られない場合、後に使う人が不快な思いをすることにもなり、利用率低下につながります。

ルールが守られていない一因として考えられるのが、「ルール設定に無理がある」ことです。運用ルールが明確で守りやすいものでないと実際に運用しにくく、混乱をきたしやすくなります。今後、スペースによっては、一度設定したルールを見直す機会をつくることも必要になりそうです。

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使ってもらえない

「共用スペースを利用したくない」と思う理由をスペース別に挙げてもらうと、「個室の会議室」については、「前の人が使った痕跡が残っているとき(資料やゴミ、ホワイトボードに文字が残っている)」と回答した人が目立ちました。
特に、個室の会議室利用をためらう理由としてこの項目を挙げた人が多く、個室という閉鎖空間では特に清潔を保つことの重要性がわかります。

「オープンなミーティングスペース(着席型)」の利用をためらう要因としては、「社長や役員など経営層がいるとき」や「上司がいるとき」と答えた人が一定数みられました。オープンなミーティングスペースでは比較的フランクな議題が扱われることも多いため、「立場が上の人に聞かれたくない」という心理が働くこともありそうです。

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これからの働き方に合わせて

オフィスに求められるスペースとは

共用スペースの中で、「今後重要になる/不要になるスペース」を予測してもらったところ、「今後重要になる」と回答した人が多かったスペースは、「オープンなミーティングスペース(着席型)」(47.4%)と「個室の会議室」(41.0%)でした。今後のオフィスを「コミュニケーションの場」ととらえる人が多いことが、この結果からもわかります。フリーアンサーでは、「リモートワークで希薄になった関係性を、フェイス・トゥ・フェイスコミュニケーションで深めるため」といった内容が目立ちました。

逆に「不要になるスペース」としては、「展示スペース」や「セミナー・研修ルーム」が上位にみられ、その理由として「セミナーや研修はオンラインで代替できるから」「展示スペースをわざわざ設けなくても、自社のHPに沿革などが掲載されているから」といった声が上がっていました。また、テレワークの定着にともない、従業員がオフィスで過ごす時間が減ると予想されることから、「給湯スペース」や「ランチスペース」を不要だと考えた人も多くみられました。

興味深いのが、不要になるスペースとして「自席」を挙げた人が一定数いたことです。今後のオフィスでは、出社する従業員数がコロナ前と比べて増えることはないのでは、と予測されています。また、「オフィスでの仕事=会議などのコミュニケーション」ととらえる人も増えています。「自席は不要になるのではないか」と考えるワーカーが少なからずみられたのは、オフィスの役割変化を見越したうえでの回答といえそうです。

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まとめ

コロナ禍や働き方改革をきっかけとしたワークスタイルの変化に合わせて、オフィスにおける会議室やミーティングスペースなどコミュニケーションのための共用スペースは、これまで以上に重要な役割を果たすと予想されます。一方で今回の調査からは、ワーカーのオフィス滞在時間減少に伴って役割を終えていくスペースもありそうだ、とわかりました。また、共用スペースの現状をみると、ルールが徹底されていないなどの課題も少なからずみられるようです。

今後はオフィスで過ごす時間が減ると予想されるからこそ、ワーカー同士が充実したコミュニケーションの時間を持てるように、共用スペースの使いやすさや機能充実、運用ルールの整備が求められています。


調査概要

実施日:2021.9.24-27実施

調査対象:社員数500人以上の民間企業に勤めるワーカー

ツール:WEBアンケート

回収数:283件(予備調査10,000件)

【図版出典】Small Survey「 オフィスの共有空間の課題とこれから」


河内 律子(Kawachi Ritsuko)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
ワーキングマザーの働き方や学びを中心としたダイバーシティマネジメントについての研究をメインに、「イノベーション」「組織力」「クリエイティブ」をキーワードにしたビジネスマンの学びをリサーチ。その知見を活かし、「ダイバーシティ」をテーマとするビジネス研修を手掛ける。