リサーチ

2022.02.10

働き方の変化と2030年のワークスタイル予測

未来の働き方に希望を抱くワーカーは少数派?

ワーカーの働き方は、iPhoneが登場した2007年頃から大きく変わり、コロナ禍の2020年からワークスタイルの変化はさらに加速している。では、約10年後となる2030年、私たちはどのように生活し、どのような働き方をしているのだろうか。コクヨの調査によって明らかになった、ワーカーが予測・期待する働き方について考察する。

コロナによって働き方改革が加速

まずはコロナ禍が働き方改革の推進スピードに及ぼした影響を知るために、「あなたの勤務先で、コロナ感染拡大前と現在で、働き方改革の推進スピードや積極性に違いを感じますか?」という質問を投げてみました。すると、「以前は感じなかったが、現在は積極的に推進」と「以前から推進されていたが、現在はより積極的」「変化はなく推進」と答えた人の合計が約7割に上りました。

コロナ禍によって、多くの企業ではテレワークの導入を求められました。その結果、「従業員がテレワークをするならペーパーレスを進めなければ」といったように、半強制的に働き方を変革せざるを得ず、働き方改革が推進されたと考えられます。

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「ワークライフバランス」から「多様な働き方」へ

ワーカーの回答から、企業が推進する働き方改革の内容自体も変化したことが明らかになりました。
コロナ禍以前は「有給休暇取得の促進」や「残業削減の施策発信の強化」「フレックスタイム制度実施・推進強化」などワークライフバランスの実現に関わる施策が多くみられましたが、現在では「在宅勤務制度の実施・推進強化」や「自宅以外労働の容認(制度拡大)」など多様な働き方の実現に関連する施策を挙げた人が目立ちました。

コロナ禍を経て、テレワークなど多様な働き方が拡がってきていることから、企業としてもこの流れを後押ししようとしていることがわかります。

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一方で、ワーカー自身にも「どんな働き方の変化を期待しますか?」と質問したところ、「在宅勤務制度の実施・推進強化」や「有給休暇取得の促進」「フレックスタイム制度の実施・推進強化」などが並びました。これらの回答からは、自身の状況に応じて柔軟に働き方を変えられる環境をワーカーが望んでいることが見えてきます。

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ワーカーが求める2030年の働き方

働き方の急激な変化の中でリモートワークというより柔軟な働き方を経験したことで、「今後、働き方をもっと自由に設計したい」と考える人が多いと予測し、10年後にどのような働き方を実現したいかを尋ねてみました。

働く場

「10年後にどのような場所で働きたいですか?」という質問に対して、「オフィスはなく、各自自由な場所で働く」と答えた人は約1割にとどまりました。つまり、9割の人はオフィスの必要性を感じていることになります。

コロナ禍の現状では、オフィスに出社せずテレワークをしているワーカーが一定数いますが、その中には「自宅だと業務に集中できない」「設備や什器、備品が不足しており業務効率が悪い」「コミュニケーションに課題がある」と感じる人も少なくないと推察できます。

オフィス以外の場所で働く際の課題を実感したことにより、「オフィスで働く頻度が減っても、やはりないと困る」と価値を改めて認めた人も多いのではないでしょうか。

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また、「10年後は、どのような人と空間を共にして働きたいですか?」と聞いてみると、47.9%が「同じ会社の人であれば、部署・組織を問わず空間を共有」と答えており、フリーアドレスの働き方を希望する人が多いことがわかりました。

一方で、社外の人や他世代と交流できる空間で働きたいという声は、全体の4分の1にとどまりました。近年はコワーキングスペースなどが増え、社外の人と同じ空間で働く機会も増えていると思いますが、だからといって交流したり一緒にプロジェクトに取り組めているわけではないため、空間を共にするプラスイメージがもてないのかもしれません。

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働き方

10年後の仕事とプライベートの距離感について質問したところ、「仕事とプライベートはしっかり分けたい」という声が58.3%を占め、「その時の都合で仕事とプライベートの優先順位が変わるようにしていきたい」という意見は11.0%と少数派でした。この結果からは、「オンとオフをしっかり切り替える働き方」を希望する人が多いことが見えてきます。

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興味深かったのが、「10年後にどのような働き方を実現したいですか?」という問いに対する回答です。「働く時間は個人の都合で自由に決定したい」という人は3割しかみられず、開始・終業時間や1日・1か月の労働時間を組織に決めてもらいたい人が多かったのです。

先述したように、働き方への希望として在宅勤務制度やフレックスタイム制の実施・推進強化を挙げる人は多かったものの、大枠の設定は組織に委ねたい人が過半数ということになります。働き方が柔軟になることは、一方で自律性が求められ、自分の働き方に責任をもって行動し、決定する必要がありますが、それは時に大きな負担にもなります。リモートワークによって働き方を自身で決める機会が増えたことへの反動から、「自分で決めるのは面倒」といった決断疲れを感じている人もいるのではないでしょうか。

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プライベート

「働き方改革が進み、時間・場所の自由度が増した場合に、やりたいことは?」という質問に対しては、「趣味の時間を増やしたい」や「長期休みをとりたい」と並んで、「副業にチャレンジしてみたい」という項目を選んだ人が多く、全体のうち38.5%に上りました。この数値は、「仕事に関連したスキルをもっと身につけたい」に比べて19.1ポイントも高く、ただスキルアップするだけでなく、自身の可能性を探る新たなチャレンジを希望する人が多いことがうかがえます。

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まとめ

今回の調査のまとめとして、「10年後の未来は、現状と比べてどのくらい明るいと予測しますか?」という質問も投げたのですが、43.7%の人が「現状と変わらない」と回答しています。

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直近の約2年はコロナ禍によって半強制的に働き方の変化を迫られ、心身共にストレスフルな日々を送った人が多いはずです。それでも、10年後の未来も「現状と同じ」と予測する人が4割超みられたということは、未来を肯定的に捉えていないワーカーが多いと懸念されます。

ここまでの結果を概観すると、ワーカーが未来の働き方に期待するのは、「企業が設定した枠内での自由」だと言えそうです。未来に明るい材料を見いだせないからこそ、現在とまったく違うワークスタイルを期待する人は少なく、「今より少し働き方の自由度を上げたい」という希望にとどまっているのかもしれません。



調査概要

実施日:2021.10.13-15実施

調査対象:社員数500人以上の民間企業に勤めるワーカー

ツール:WEBアンケート

回収数:309件

【図版出典】Small Survey「働き方の方向性と2030年(10年後)の働き方予測」


河内 律子(Kawachi Ritsuko)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
ワーキングマザーの働き方や学びを中心としたダイバーシティマネジメントについての研究をメインに、「イノベーション」「組織力」「クリエイティブ」をキーワードにしたビジネスマンの学びをリサーチ。その知見を活かし、「ダイバーシティ」をテーマとするビジネス研修を手掛ける。

作成/MANA-Biz編集部