リサーチ

2022.01.20

変わる「地方での就業」「地方進出」への意識

コロナ禍で見直される「働く場所」

テレワークの普及や大企業の本社機能の地方への移転など、コロナ禍を契機に人々の働き方や働く場所への考え方に変化が起こっている。「地方で働く」「企業拠点を地方に置く」ことについてはどうだろうか。『企業の地方進出に関する調査』の結果から現状や課題を考察する。
※『企業の地方進出に関する調査』は、高知県が2021年9月に東京都・大阪府・愛知県の 20~60代の経営層(会社経営者・役員)男女 200 名、従業員男女200名の合計400 名を対象に実施。

2021年9月時点で半数近くが
リモートワークを実施

高知県が実施した『企業の地方進出に関する調査』が調査対象としたのは、東京、大阪、愛知の計3都府県に在住の経営層(会社経営者・役員)200名と従業員200名の計400名。

まず、リモートワークに対する考えや実施状況を見ると、新型コロナウイルス感染症の流行が本格化する2020年2月以前は「リモートワークはできないと思っていた」という人が70.0%に上っていた。
しかし、2021年9月の調査時点で、半数近い44.3%がリモートワークを実施しており (※1)、コロナ禍がリモートワークの普及に与えた影響の大きさがうかがえる。

※1 内訳:「コロナ前(2020年2月以前)はしていて、現在もしている」10.3%、「コロナ前はしていないが、現在はしている」34.0%

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コロナ禍を経て、従業員の約2人に1人が
地方移住・地方勤務に対してポジティブな気持ちに

コロナ禍が続くなかで、「地方で働くこと」への意識に変化は生まれているのだろうか。調査によると、「コロナ禍(2020年3月以降)で、地方に住むことや働くことに対してポジティブな気持ちになりましたか」という質問に「そう思う」「どちらかと言うとそう思う」のいずれかを回答した人の割合は、従業員で45.0%、経営層で35.5%。従業員においてはおよそ2人に1人が地方移住や地方勤務に対してポジティブな気持ちになったことになる。

また、コロナ禍を契機にリモートワークを実施している人(「コロナ前はしていないが、現在はしている」回答者136人)においては、38.2%が「働く環境を変えて地方で働きたいと思うか?」という質問に対して「そう思う」「どちらかと言うとそう思う」のいずれかを回答。およそ3人に1人以上が地方で働きたい意向をもっているようだ。

4_res_224_02.jpg 従業員で「ポジティブな気持ちになった」と回答した人たちが挙げた理由の上位3つは、次のとおり(n=「そう思う」「どちらかと言うとそう思う」回答者計60名、複数回答)。

1位 自然に囲まれた土地で働き(住み)たいから 52.2%
2位 物価が安い場所でお金に余裕をもって働き(住み)たいから 50.0%
3位 食べ物がおいしい場所で働き(住み)たいから 45.6%

自然、物価安、おいしい食材は、いずれも都市圏で得づらいもの。リモートワークが普及して出社可能な距離でなくとも働ける可能性が出てきたことで、都市圏にはない魅力をもつ地方を、働く場や生活拠点として前向きにとらえている人が一定数出てきているようだ。




具体的に計画している人は5%に留まる

調査結果から、従業員にとって「地方で働くこと」、経営層にとって「企業拠点を地方に置くこと」は、コロナ前に比べると選択肢としての存在感が増していることがうかがえる。ただ、実際の行動となると、事情は変わってくるようだ。

というのは、コロナ禍を経て地方で働くことにポジティブな気持ちになったと回答した経営層・従業員計161名に対して「現在、どの程度地方で働く計画を立てているか」と尋ねた結果では、「具体的に立てている」のは5.0%に留まっていた。「漠然と立てている」と回答した人(23.6%)を加えても28.6%で、実現に向けて計画を立てている人はまだまだ少ない。

また今回の調査において、地方で働くことにポジティブな気持ちを持った人が想定する「地方で働く」のイメージは、「勤務先はそのままで、リモートワークをする」か「勤務先の地方移転についていく」のいずれかと考えられる。しかし、どちらも、勤務先の都合が大きく影響し、個人の力だけでは実現できないため、「地方で働くことにポジティブなイメージはあるけれど、実際にやるとなると現実的ではない」という判断になっている可能性がある。




経営層がネックと見ているのは
「費用対効果」「経費削減効果」

経営層においては、よりシビアに現実を見ている様子がうかがえる。35.5%が地方で働くことや地方に住むことにポジティブな気持ちになってはいたが、その割合は従業員に比べて低い。そして、別の質問「地方進出を検討する際にネックになっているもの(複数回答)」では「費用対効果が読めない」(48.5%)、「地方に進出しても、思ったほど経費を削減できない」(22.5%)が1位、2位に入っている。

4_res_224_03.jpg リモートワークの普及で都市圏に拠点を置く必要性が薄れているという向きもあるが、だからといって地方に移転・進出するメリットがどれだけあるかを見極められるだけの情報や材料がなく、とくにコスト面の不安が大きいというのが実際のところのようだ。

なお、経営層が「地方の移転先・進出先に求める選定条件」として挙げた項目の上位は以下のとおり(複数回答)。

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意識に変化は起こっているが
実現には課題が

調査結果から、リモートワークの普及により、働き方の選択肢として「地方で働く」や「企業拠点を地方に置く」の存在感が増していることはうかがえる。ただ先述したように、従業員においても、経営層においても、実行に移せるだけのメリットはまだ見えない、というのが実際のところのようだ。

従業員にとっては、勤務先とのリモートワークや働き方に関する調整がかなうのかどうか、経営者にとっては、地方進出した場合にコストメリットがあるのか、営業販路拡大や人材確保がかなうのか、といったところが地方移住・地方進出のカギになりそうだ。 企業の地方進出に対しては、調査元の高知県のように、補助金など各種支援制度を用意して移転や拠点設立を支援する自治体も出てきているので、それらを活用するのも一つの方法だろう。

【出典】高知県『企業の地方進出に関する調査』


作成/MANA-Biz編集部