レポート

2021.11.05

社員の個性を掛け合わせ企業競争力を高める本社移転!

WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS vol.1

2021年9月16日・17日にコクヨが開催した『WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS』から、古河電気工業株式会社の河井健一氏と柴田無我氏が登壇した「社員の個性を掛け合わせ企業競争力を高める本社移転!」のセミナーの様子をレポート。同社が本社移転でチャレンジした働き方改革の取り組みや、オフィス移転の本質についてコクヨのコンサルタント吉田が話を聞いた。

登壇者

■柴田無我氏(古河電気工業株式会社 ビジネス基盤変革本部 人材・組織開発部)
■河井健一氏(古河電気工業株式会社 リスクマネジメント本部 総務部本社移転フォローチームチーム長)

モデレーター:吉田大地(コクヨ株式会社 ワークスタイルコンサルタント)




「新しい働き方」実現に向けた本社オフィス移転
経営と社員で現状に対する課題意識が一致

古河電工株式会社は光ファイバーや電線、ワイヤーハーネスなどを製造している、創業135年以上の歴史ある非鉄金属メーカーであり、従業員数は単体で4,084名、グループ全体では48,449人(※配信時点)。今回の本社オフィス移転の対象者も約750名というかなり大がかりなプロジェクトとなった。

吉田:「2年8か月かけて準備され、2021年7月に新オフィスに移転されましたが、今回の本社移転にはどのようなねらいがあったのですか」

河井:「このオフィス移転プロジェクトは、これまで進めてきた働き方改革を一気に加速させ、新しい働き方を実現する場を創り上げることをねらいとしていました」

吉田:「プロジェクトを進めるにあたって、社内で感じられていた課題にはどんなものがあったのでしょうか」

柴田:「本社移転プロジェクト始動にあたって、従業員と経営それぞれにアンケートやワークショップ等を通じて現在感じている課題をヒヤリングしたところ、奇しくも経営と従業員で『部門間にカベを感じる』といった共通の課題認識を持っていることがわかりました」

吉田:「会社全体で同じ課題を感じていたということですね。先ほど『新しい働き方』というキーワードが出てきましたが、現状の課題認識の目線がそろったところで、新しい働き方を表すコンセプトをつくられたと聞きました。このコンセプトに込められた思いを教えてください」

柴田:「コンセプトは『MIX! OWN COLORS~新しい色で共に未来を描こう~』です。お互いを尊重し合うことで個性を発揮する、あるいはカラー・多様性を取り戻して、多様性を掛け合わせながら新しい価値をアジャイルに生み出していこう、という意味を込めました。ワークショップで『これまでの働き方』と『これからの働き方』を整理し、ありたい姿を実現するための行動と具体的な要件を導き出し、それをコンセプトに落とし込んでいきました」

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吉田:「私もワークショップに参加させていただきましたが、最初は戸惑っていた社員の皆さんもだんだん新オフィスに対する期待感が高まって前のめりになっていく様子が見て取れました。またこういった議論をグラフィックレコーディングで鮮度高く可視化しながら議論していったのもよかったのかなと思います」

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オフィス移転成功のための7つの分科会を設置
ほぼすべてをボトムアップで決めていく

『MIX! OWN COLORS』を実現する場としての新オフィスは2.4フロア、約6720平米を使ったオフィスは中階段でシームレスにつながっている。オフィス全体にさまざまな機能を用意し、働く人が目的に合わせて働く場所を選ぶABWを導入。
15の機能別の執務スペースはデザインだけでなく机やイスなど什器までこだわって違いを出し、例えば集中して作業する場所にはしっかりとしたイスを設置し、立ち話や軽い打ち合わせがしやすいタッチダウン型のイスを用意するなど選択肢に柔軟性を持たせている。他にも来客エリアや多目的スペースなど社内外の交流ができる場もゾーニングされている。

吉田:「かなり大がかりな本社移転プロジェクトでしたが、どのような体制で推進されたのでしょうか」

河井:「担当役員をプロジェクトオーナーとし、人事と総務がPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)として全体を取りまとめ、コクヨ様にはコンサルタントで参画いただきました。
さらに本社移転を成功に導くためには7つのKSF(Key Success Factor=重要成功要因)があると考え、目的別に7つの分科会で活動してもらいました。例えば時間創出するための書類削減分科会やICT化分科会、働き方や空間をデザインするWS&オフィスデザイン分科会などです」

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河井:「プロジェクトを進めるうえで、経営がプロジェクトメンバーを信じて任せるスタンスで背中を押してくれたので、ほとんどがボトムアップで決まっていきました。
例えば受付のデザインやコンセプトを社長にプレゼンした時に『これはすごい、本当に任せてよかった!』という言葉をもらいました。経営と直接対話することはめったにない良い機会ですので、メンバーがより一層熱意を持って取り組むことにつながりましたね」

吉田:「まず良かった点から紹介いただきましたが、やはり苦労したこともあったかと思います。プロジェクトの中で苦労した点と、それをどう乗り越えたのか教えてください」

柴田:「新しいことばかりで前例のない中での意思決定に難しさを常に感じていました。コクヨ様のアドバイスや他社事例も参考にしながら決めていく中で、経営層が任せてくれていなければチャレンジやブレイクスルーは生まれなかったと思います。
また、プロジェクトメンバーは業務発令されていないにもかかわらず、会社をもっと良くしていきたいというパッションとモチベーションを持って主体的・創造的に動いてくれましたね」




本社移転プロジェクト推進中に迎えたコロナ禍
アフターコロナを見据えて柔軟な見直し

吉田:「プロジェクトを進めていく途中で新型コロナウイルスの感染拡大となりましたが、どのような影響がありましたか」

河井:「まず出社率が低い時で10%台まで低下し、運用を適用させながらリモートワークでも業務は十分回せるということを実感しました。そんな中で改めて、アフターコロナも見据えた『本社のあり方』や『働き方』として見直すべき部分がないか再度検討し、見直しや変更を加えました」

「まず1つ目は『安全で安心できる場所の確保』。もともとABWの導入に向けて執務スペースはフリーアドレス化を進めていましたが、さらに席数は出社率50%想定とし、ワークポイント間や通路の幅を広げる、対面にならなくてすむようにブーメラン席を採用するなど、ソーシャルディスタンスを確保するよう調整しました」

柴田:「また、テレワークが定着し、オフィスに行かなくても仕事が回ることを実感し始めたからこそ、なぜ本社を移転し、何のために会社に行くのか、あらためてオフィスの意義や役割をコンセプトに立ち返って考えました。
その結果、価値創造の主体である社員同士が対面で交わることで情動が通じ合い『共感』を生みだしやすくなること、これを安全安心に行うことができる場を提供することにオフィスの価値があるという結論になりました。そこで、約半数のテレワーカーともシームレスに繋がるハイブリットな会議がワンタッチでできるミーティングスペースやゆったりとした1on1向けスペースなど、コミュニケーションのためのスペースを拡充しました」

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河井:「さらに、毎日出社せざるを得ない人もいる中で、会社の中でも仕事とリラックスを両立できるように、仮眠スペースや気分転換や雑談ができるリフレッシュスペースなど、身体的・心理的ストレスを減らす場所も充実させました」

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吉田:「会社の中にもスペシャリティのある場所を設けたわけですね。ほぼゾーニングやレイアウトが決まったタイミングでの新型コロナウイルス感染拡大でしたが、その見直しはどのように行われたのでしょうか」

柴田:「コロナ前に、古河電工にはどんな人がいるのか、年齢や性別、職種等を分析して7人のペルソナをつくり、『課題』や『ありたい姿』をふまえてその7人の行動を抽出したうえで、その行動を実現するために必要な機能を検討していました。
そのため、コロナを受けた見直しの際には、アフターコロナを見据えて追加・修正すべき行動を洗い出していけばよかったので、比較的スムーズに対応できたかなと思います」

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個性をかけ合わせる場としての
コラボレーションスペースの設計と浸透

吉田:「本社移転の目的でありコンセプト『MIX! OWN COLORS』に表された『個性をかけ合わせる』を実現するためにはどのような工夫をされたのでしょうか」

柴田:「コンセプトの実現にあたって『関係強化』は欠かせない要素です。人と人が偶発的に出会い、繋がりを強めていくのには段階があると考えて『協働ストーリー』を作成しました」

「最初は弱いつながりでも、少しずつ相手を知り、話すようになっていくにつれて関係性は強くなり、お互いのために自発的に支援し合うようになっていきます。私たちはそんなステップを進めていけるような仕掛けをオフィスに散りばめました。
例えば『部署を知っている』状態になるためのメンバーボードの設置や、『会えば挨拶し、立ち話したくなる』ためにライブラリーやタッチダウン席を設けるなどです」

吉田:「ストーリーがある程度固まってきた段階で、コクヨとしてもそのストーリーを実現するためにはどのような機能が必要で、その位置関係はどうあるべきなのか、設計のデザインや什器面など機能の具体化についてご提案しました。偶発的な出会いを生むものからつながりを強化するものまで、機能を仕掛けとして空間上に散りばめていきました」

柴田:「コラボレーションスペースに『Palette』と名づけたのは、コンセプトである『MIX! OWN COLORS』を体現して個性を混じり合わせる場所にしたいと考えたからです。
また、そういったこの場所に込められた思いを利用する側にも知ってもらい、浸透させるために『協働ストーリー』をイラスト化して掲示したり、使い方が一目でわかるようなピクトグラムを設置したり、オフィスの取扱説明書なども作成しました」

「これからオフィス移転を検討されていらっしゃるのであれば、運用まで含めて検討されることを強くオススメしたいですね」

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吉田:「移転して終わりではなく、浸透させることにも工夫されたのですね。プロジェクトを成功させるにあたって、リーダーとしてどのような工夫をされたのでしょうか」

河井:「できるだけたくさんのオフィスを見せてもらい、オフィスづくりに関わられた方の声を聞くようにしました。
以前コクヨ様のオフィス移転に関するセミナーに登壇されたある企業の担当の方が『誰よりもオフィスづくりに詳しくなるために、40社ほどのオフィスを回った』と話されていたので、自分はそれ以上回ろうと決めて、50社ほどのオフィスにお邪魔しました。
おかげでレイアウトや什器、働き方等、オフィスづくりについては誰に何を聞かれても、納得感と根拠を持って語れるようになったと思います」

吉田:「最後に、セミナー視聴者から『ABWオフィスの中でどこに誰がいるかをどう把握するかが課題になりやすいが、その対策は』という質問がきていますが、いかがでしょうか」

河井:「物理的には柱にアルファベットを入れてチャット等で伝えやすくすることと、ICTの観点では位置情報を把握できるツールを来月導入する予定です」

柴田:「承認行為をする組織長の位置の把握は特に重要なので、役員層の一部の方には固定席かフリーアドレスかを事前に選んでもらうようにしました。承認者にはできるだけ同じ場所にいてほしいという声がある一方、役員や管理職が場所を移動することで若手社員との偶発的なコミュニケーションが生まれるのも重要だと考えています」

吉田:「まさに『混ざり合う』ことで新しい価値の創出につながるかもしれませんね。本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました」



【図版出典】「社員の個性を掛け合わせ企業競争力を高める本社移転! アフターコロナを見据えた「本社のあり方」と「働き方改革」の真相に迫る」セミナー投影資料

文/中原絵里子