レポート

2021.11.05

コロナ禍だからこそ経営が取り組んだ共創企業戦略!

WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS vol.2

2021年9月16日・17日にコクヨが開催した『WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS』から、都築電気株式会社の尾山氏と田代氏が登壇した「コロナ禍だからこそ経営が取り組んだ共創企業戦略!」のセミナーの様子をレポート。今年89周年を迎える老舗ICT企業である同社のオフィスリニューアルについてコクヨのコンサルタント曽根原がその戦略や想いについて話を聞いた。

登壇者

■尾山和久氏(都築電気株式会社 取締役執行役員常務 管理本部長)
■田代ゆり氏(都築電気株式会社 総務部)

モデレーター:曽根原士郎(コクヨ株式会社 ワークスタイルコンサルタント)




新価値創造の原点となる「プライスレスな満足」を
生みだすオフィスを10年後に活躍する若手社員が実現

曽根原:「新型コロナウイルス感染拡大を逆手に取り、新たなワークスタイル創出と大胆なセンターオフィス見直しを実行された戦略・想い・意思決定プロセスについてお聞かせください」

尾山:「このオフィスリニューアル計画は、我々の中期経営計画にある『お客様のDX対応や競争力強化を実現するイノベーション・サービス・プロバイダー』をめざすため、社員の新しい働き方を支援・実現する場と位置づけました。
経営からは大切にしたい意識・行動として『創造力・挑戦力』『行動力』『チームワーク』『人間力』を重視したいという意思が示され、その実現を10年後に活躍する若手社員に任せました。そこで若手社員を中心にオフィスに求めることを検討した結果、『互いに気づき・ひらめきを高める場所』『オープン・フラットな意識を育む環境』『信頼関係の確認・距離感の維持の場所』といったキーワードが出て、これがリニューアル計画の柱になりました」

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曽根原:「トップダウンで進めるのではなく、若手社員に任せたわけですね。とはいえ、新型コロナウイルス感染拡大の影響は出社率等にも大きな影響が出たのではないでしょうか。経営の立場としてはオフィスの位置づけやあり方を今後こうしていきたい、といった想いもあったのではないかと思いますが」

尾山:「出社率は2021年4月で35%、8月には22%まで下がりました。この出社率に『オフィス面積はどれだけ必要なのか?』という声も上がりましたが、まずは改めてセンターオフィスの目的を再定義することが大切だろうと。そこで改めて議論した結果、従業員の満足度の追求が新価値創造の原点であり、そのためには『地位財』と『非地位財』のバランス、特に『非地位財』のプライスレスな満足は持続性が高いですから、当社としてもここに投資することで従業員満足度を高めたいと考えました」

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曽根原:「『地位財』というのは年収や肩書など他人との比較によって満足が得られる財で、『非地位財』は健康や自由、環境など他人との比較とは関係なく得られる財のことですね」

尾山:「昨年経済産業省が公表したレポートで『従業員のエンゲージメント向上は業績にプラスの影響をもたらす』ことや『従業員がやりがいや働きがいを感じて主体的に仕事に取り組める環境を作ることが重要』であるという提言がありましたが、まさにそれを実現するオフィスをつくることをめざしたともいえます」

曽根原:「やりがいを感じながら主体的に仕事に取り組めるような環境をつくることで、プライスレスな満足度を高めるということですね。具体的にはどのような環境の実現をめざしたのですか」

尾山:「従来のように決まった場所で決まった時間に漫然と仕事をするのではイノベーションは生まれません。この仕事はどのスペースで行うと最高のパフォーマンスを発揮できるかと自律的に考えて選べるようになることをめざし、ワークシーンごとに空間分類を行いました。
例えば定型効率型の仕事に取り組む場合、まず個人で集中して『作業』した後、社内で意思決定をする『調整』のプロセスがあり、最終的にお客様との『商談』へと移ります。
また課題解決型の業務ですと、まずアイデアをめぐらせ、チームでミーティングなどの『討議』を経てお客様に『提案』するといった行動を取りますよね。それぞれのシーンでどういう空間が必要になるかを検討しました」

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曽根原:「コロナ禍の状況変化を踏まえ、対向島型の決まった場所で決まった仕事を繰り返すのではなく、全席フリーアドレスにして機能別の場所をつくることで、社員一人ひとりに、どこでこの仕事に取り組めば生産性や創造性が高まるのか、を自律的に考えようというメッセージをオフィスに落とし込んだわけですね」




DXソリューションを体感できるライブオフィスの導入で
挑戦と創造力を見える化

曽根原:「今回のオフィスリニューアルではライブオフィスも導入されましたが、これはどのようなねらいがあったのでしょうか」

尾山:「ライブオフィスで当社のDXの取り組みを実際に目で見て触って体感していただくことで、社内外に向けて当社の挑戦と創造力を見える化すること、また体験していただいた反応をもとに課題を洗い出し、より進化させていくという2つのねらいがあります。
例えばウォークスルー型の無人店舗では、実際に社員やお客様に無人決裁を体験していただくことができますし、DX体験空間ではAIによる物体認識を体験できるスペースも用意しています」

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曽根原:「社員のエンゲージメントを高めるプライスレスな価値を感じられる空間を提供すること、DXソリューションを体験し、お客様の新たなアイデアの創出を支援すること。この2つをめざしたオフィスリニューアルということですね」




ワークスタイルコンセプト「SODA!」の実現に向け
オフィスの抜本的改革に着手

続いて都築電気の田代氏が、テレワーク環境下にあっても若手中心に急ピッチで進めたリニューアルについて、具体的な推進方法や工夫、苦労について語った。

田代:「19名の若手社員とこれからの働き方についてワークショップを行い、ワークスタイルコンセプトを『SODA!』に決めました。これは当社の経営理念である『7ACTIONS』と連動して『そうだ!集まろう』『そうだ!向き合おう』などのかけ声とともに、泡のように活気あふれるアイデアが次々と湧いてくる場所をイメージしています。
『SODA!』の実現に向けて新しいオフィス構築に取り組んだのですが、今までの都築気機の文化も働き方も大きく変えなければならなかったので結構大変でした」

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曽根原:「以前はかなり雑然としたオフィスではありましたよね。ここからどのように変化させていかれたのでしょうか」

田代:「大きな変化のポイントは次の3点です。1つ目は『全社員フリーアドレス導入』。そのために席数は1464席から570席と61%削減しました。
2つ目は『ABW環境と共創空間の新設』です。こもってしまいやすく稼働効率が悪い個室の会議室は57%削減し、代わりに自由に使えるコラボレーションエリアを新設しました。
3つ目はどこでも働ける環境にするための『電子承認システム導入と紙ゼロ推進』で、電子契約や電子押印に移行することで書類を保管していた共有のキャビネットは約76%削減しました。個人の机や引き出しもなくなったので書類の削減率はもっと高いと思います」

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曽根原:「実際2フロア削減されたわけですよね。それだけの大がかりなリニューアルを成功させることができた要因は何だったのでしょうか」

田代:「社員の協力と意識改革が成功要因だと思います。最初はもちろん批判や不安の声も多く挙がりましたが、会社が本気でプライスレスな価値の提供に取り組もうとしていることが伝わっていくにつれて、少しずつ意識が変わっていったように感じました。
具体的にはweb説明会に加えて社内イントラで進捗や協力してほしい作業内容などを定期的に発信し、オフィスや働き方に関する個別相談やディスカッションを重ねていきました。テレワーク勤務の中約3か月で自席の荷物を片づけてもらい、最終的には4トントラック4~5台分の荷物を廃棄しました」

曽根原:「かなり思い切ったオフィス構築だったと私も感じています。大きく変わったオフィスを見て、社員の皆さんの反応はいかがでしたか?」

田代:「『都築じゃないみたい』という驚きの声とともに、『このオフィスでできる働き方に変えていこう』と早速意識や行動の変化が見られています。場所が変わるとこんなに人の気持ちも変わるのだと実感しています」




地域貢献や従業員の家族への貢献、多拠点への横展開など
プライスレスな従業員満足のための活動を継続

曽根原:「今後はどのような展開を考えられていますか?」

尾山:「まずはライブオフィスで多くのお客様に当社の取り組みと挑戦を知っていただき、さらなる新価値創造に取り組みたいと考えています。もう1つはサステナビリティの観点で、新型コロナウイルス感染症の状況がもう少し落ち着いてきたら地域貢献や従業員の家族への貢献として『ファミリーDAY』などのイベントの実施も検討したいですね。
また、今回は本社のリニューアルでしたが、リニューアルで作成したコンセプトブックを元に多拠点への横展開も進めていきたいと構想中です」

田代:「オフィスづくりに終わりはないといいますが、『SODA!』がたくさん生まれるように目的を持ってオフィスに来てもらい、使ってみての意見も踏まえてリニューアルは続けていきたいと思っています」

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曽根原:「変化を捉えて圧倒的なスピードでここまで進めてこられた都築電気様の挑戦はまだまだ続くということですね。最後にセミナー視聴者から『今回のオフィスリニューアルの投資対効果や効果測定はどのように見ていく予定なのか』という質問がきていますが、この点についてはいかがでしょうか」

田代:「まず新しいオフィスでの働き方の変化について社員に向けてアンケートを実施するのと同時に、社員位置情報のログを分析して社員の行動分析や部門を越えた偶発的なコミュニケーションが生まれているのか、といった検証も行いたいと考えています」

曽根原:「出社率や位置情報、部門を越えた社員同士の交流が生まれているかなど、データを分析しながら現状を把握するところからですね。確かに新しい取り組みに対して現在の状況が示す数字がどうなのかを判断するために参考にすべき過去データはありませんので、今から取得して傾向を見ていく必要があります。経営指標をつくるうえでも重要な視点となるかと思います」

尾山:「我々はICTの会社であり、データ分析をしてどう次の未来に生かして展開していくか検討するというのがビジネスモデルですので、しっかり実践していきたいと思っています」

曽根原:「本日は貴重なお話ありがとうございました。最後に、都築電気様新オフィスは最先端のDX体感空間兼ライブオフィスでもあります。ご関心いただけました皆さまは、是非お気軽にご来場ください。」



【図版出典】「コロナ禍だからこそ経営が取り組んだ共創企業戦略! 新たな組織競争力を生み出すための働き方と共創・イノベーションへの挑戦」セミナー投影資料

文/中原絵里子