リサーチ

2021.01.29

5G時代の幕開け

日本企業はグローバルな時代の潮流に乗り遅れている⁈

ボックスグローバル・ジャパン株式会社と、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科クロサカタツヤ特任准教授は、5Gの商用サービス開始に先んじて、2019年9~12月に『5Gを活用した通信キャリアとの事業に関するアンケート』を共同で実施。翌2020年3月に調査結果を発表した。

5G時代の幕開け
通信の進化が革新をおこす可能性

2020年3月、5Gの商用サービスが始まった。5Gとは「超高速化」「超多数同時接続」「超低遅延」の3点を特徴とした、第5世代移動通信システムのことである。超高速化によって4Kや8Kなど高解像度の動画配信が可能になったり、超多数同時接続でIoTがさらに普及したり、超低遅延は自動運転精度の向上や遠隔治療など、テクノロジーの新時代を実現するものとして期待されている。

政府は2020年から日本国内における5Gサービスを順次開始することを受け、仮想空間と現実空間の高度な連携によって、経済発展と社会的課題解決の両立を図る『Society5.0』を提唱した。5Gへの移行は、国家規模の壮大なプロジェクトともいえる。

「スマートフォンで通信する」から「あらゆるものが通信する」時代へ移行すると、社会の様相や事業のあり方が大きく変わり、これまでになかった革新がおこる可能性がある。



5G導入の目的は
事業効率性や生産性アップが主流

『5Gを活かした通信キャリアと事業に関するアンケート』は、以下の条件に該当する120社に調査票を配布し、8業種36社から回収した。

① 5Gを活用した通信キャリアとの共同事業をすでに実施済みの事業者
② 5Gを活用した通信キャリアとの共同事業の実績はないが、参入を検討している事業者

5Gを活用した事業を検討する目的は「サービス高度化」が最多で、74%にのぼっていた。 調査結果の分析にあたって、大きくは「競争重視型」と「イノベーション重視型」に分類することができる。

競争重視型:現業の事業効率性や生産性を重視する「サービス高度化」「コスト削減」「他社差別化」「グローバル展開」を目的とするもの。

イノベーション重視型:新事業の検討やサービスの高度化・高度付加価値などの実現といった"次なる展開"に強い意欲を示した「データ収集」および回答群に含まれない「その他」。

この分類でいうと、5Gを活用した事業検討の目的は「競争重視型」が主流であり、「イノベーション重視型」は1割強に過ぎない。5Gをイノベーションに活かそうという動きは、まだ初期段階であるといえる。

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5G導入に意欲的でも課題は多く
ビジョンや戦略が不明確なケースも

5Gを活用した事業を検討する際の課題には、下図のような回答が得られ、各回答は以下のように分類されている。

事業課題型:事業検討に際しての具体的な課題意識がある(「行政対応」「通信キャリアとの連携」「資金確保」 回答数31)

リテラシー課題型:社内の意識や開発能力に対する課題意識がある(「組織拡充」「社内ルール整備」 回答数20)

戦略課題型:経営戦略との整合性に対する課題意識がある(「ビジョン・戦略」 回答数14)

本調査の対象は、5Gを活用した通信キャリアとの共同事業の参入を既に行っている、または参入を検討している企業なので、技術理解はある程度安定しており、リテラシー面での課題感よりも、具体的な事業開発を想定したうえでの課題感のほうが大きいことが読み取れる。

しかし、事業開発を具体的に想定できる状態にあっても、「組織拡充」や「通信キャリアとの連携」は多くの企業が重大な課題として認識しているし「ビジョン・戦略」が回答総数で2位になっていることは見逃せない。4割近くもの企業が、5Gを活用しようとしながら具体的なビジョンや戦略を持てていないのだ。

技術理解があり、5Gの有用性を認識していても、実際に進めるとなると多方面で課題に直面している企業が多く、明確なビジョンを持つに至っていないケースさえあるのが現状なのかもしれない。

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テクノロジー活用によるイノベーションで
日本企業の未来が拓ける

5G時代がスタートすることによって大きな革新が期待されているが、現状では5Gを活用して現業の事業効率性や生産性アップの飛躍的な前進に対して重点をおく企業が多く、この段階でも課題が山積しているという印象がある。

一方で、調査で「競争重視型」ではなく「イノベーション重視型」に分類された企業が1割強あったように、5Gをイノベーションに活かそうとする企業も少数ながら出てきている。5Gを使った現業の効率・生産性向上にとどまらず、5Gを新たなビジネスプラットフォームとして活用し、新規事業開拓などの可能性を見据えている層だ。

世界的にみると、日本がテクノロジー活用で後れをとっていることは否めない。アメリカや韓国、中国などでは2019年から5Gの商用サービスが始まっており、中国や韓国はネットワーク整備状況や市場規模において、世界を牽引している。一方、日本国内において5Gはまだ始まったばかりで、認知が行き届いていない企業も少なくなく、まだ発展途上の段階にあるといえる。

しかしすでにテクノロジーとイノベーションは密接な関係にあり、企業の継続や発展において、テクノロジーを避けて通ることはできない段階にある。

先行する企業が今対峙している課題は、後続企業がいずれ直面するものだ。グローバル社会で生き残るためにも、今後の日本企業には、先行企業が抱く課題感と、その課題を解決していく過程に学び、5Gを活用して現業を発展させつつ、イノベーションに活かす姿勢が求められてくるだろう。

【出典】ボックスグローバル・ジャパン株式会社/慶應義塾大学 共同研究『5Gを活用した通信キャリアとの事業に関するアンケート』

作成/MANA-Biz編集部