リサーチ

2020.11.25

IT化が加速する時代に求められる「文章力」

メール、チャット…文字のコミュニケーションがビジネスの主体に?

ビジネスパーソンに求められる能力の一つとして“文章力”が注目されている。公益財団法人 日本漢字能力検定協会は2020年1月、全国の人事部人材育成担当者550人を対象に、『社員の文章力に関する意識調査』を実施した。

ビジネスシーンでは、企画書や報告書の作成など、文章を書く機会が少なくない。『社員の文章力に関する意識調査』において、「ビジネスにおいて文章力は必要だと思いますか?」という質問に「はい」と回答した人は、96.4%にのぼっていた。

その理由としてトップに挙がったのは「生産性向上」。次いで、「暗黙値の形式知化(マニュアルの作成など)」、「異業種・組織間連携(合意形成)」だった。個々の文章力を高めることでわかりやすいマニュアルが整備されたり、情報共有が円滑になったりして、それが結果的に生産性アップにつながることも考えられるだろう。

近年は労働力不足や働き方改革の推進にともなって、業務効率アップや生産性向上が企業の必須課題になっており、文章力はその観点からも重要性が増しているといえる。

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勤め先で社員の昇格・昇給に「文章力が影響する」と答えた人は66.3%。昇格・昇給のどちらにも影響するという企業が最も多く、全く影響しない(いずれもあてはまらない)という回答は33.6%に留まった。

昇格時に企画書や論文等の文章を提出する必要がある企業は39.1%にのぼった。係長以上の昇格から、文章提出を課している企業が過半数を超える。

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新しい働き方としてテレワークが推進されれば、これまで以上に、メールやチャットなど文字によるコミュニケーションの重要性が増す。そして、対面のように微妙なニュアンスや表情が伝わらない文字のコミュニケーションでは、正確かつ簡潔に内容を伝えるための文章力が重要になる。

実際に、新型コロナウイルス感染拡大の影響下でテレワークを経験し、文字が主体のコミュニケーションに戸惑った企業やビジネスパーソンも少なくなかったのではないだろうか。

調査が行われた2020年1月時点で、テレワークを導入している企業は回答者全体の21.3%に留まっていたが、テレワーク導入にあたっての社内外のコミュニケーションに関する不安や課題には、下図のような内容が挙げられていた。

導入していない企業の不安要素と、導入企業が感じている課題の両方で、「情報伝達や意思決定の遅れ」がトップ、次点は「メールや文章等による社員同士のミス・コミュニケーション」。取引先とのコミュニケーションよりも社員同士のコミュニケーションに対する不安や課題感が大きく、毎日対面でやり取りしていたものが文字になることによる弊害を、多くのビジネスパーソンが懸念しているようだ。

メールやチャットなどでは周囲の目がないため、ハラスメントのリスクが高まる、マナーが軽視されるなどの懸念があるほか、経営者や管理職では、社内政治的な危機感を抱く人も少なくないと聞く。

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調査からは、文章力はビジネスパーソンに不可欠なスキルとみなされ、多くの企業で昇格や昇給にも影響していることがわかった。また、生産性向上や新しい働き方を実現するためにも、文章力は重視されており、その傾向は今後ますます高まっていくと考えられる。

新型コロナウイルスが収束した後の社会では、感染拡大防止対策で多くの企業がテレワークを経験したことを契機として、働き方改革が急速に進む可能性があり、社内会議だけではなく採用面接や商談などもオンライン化が進むと推察される。音声や動画を使わずに済む場面では、メールやチャットなどが多用されることが推察され、文章によるコミュニケーションは今後ビジネスにおけるコミュニケーションの主体にもなり得る。

これからの時代、企業には社員の文章力向上のために研修を実施するなどの積極的な対応、個々のビジネスパーソンには、社会人の必須スキルとしてオンラインコミュニケーションのマナーや文章力を身につけていく意識が求められてくるだろう。


【出典】公益財団法人 日本漢字能力検定協会 人材育成担当者を対象とした『社員の文章力に関する意識調査


作成/MANA-Biz編集部