リサーチ

2019.03.18

勤務間インターバル制度で休息時間を確保せよ!

始まったばかりの「休み方」改革

勤務終了後から一定時間以上の休息時間を設ける「勤務間インターバル制度」。働く人の生活時間や睡眠時間を確保するもので、厚生労働省が制度の普及に向けて、助成金の支給など企業への支援を行っている。ワーク・ライフ・バランスの向上や生産性アップなどの導入成果が期待されているが、その取り組みはまだ始まったばかり。制度の概要や見込まれる効果、取組事例などを紹介する。

「勤務間インターバル制度」の導入は、2019年の4月から企業に努力義務が課されるのだが、まだその認知度が高いとはいえない状況だ。厚生労働省は「過労死等の防止のための対策に関する大綱」に基づく数値目標を掲げているが、制度の認知度、導入企業割合ともに現時点では目標値を下回っている。
 
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この制度のポイントは、残業時間の規制からもう一歩踏み込み、働いていない時間、つまり人が生きるために必要な休息や睡眠を確保するための時間的な枠組みを社会的に確保することにある。いわば「休み方改革」の第一歩である。まずは休息時間の量的な確保をしなければ、その先の休息や睡眠の質を考えていくことはできないというわけだ。
 
それでは、必要なインターバルは何時間程度なのだろうか。1993年よりこの制度を推進しているEUでは11時間以上とされているが、日本の「勤務間インターバル制度」には、休息時間についての具体的な数字は明記されておらず、導入する企業が、就業規則などで休息時間を何時間にするか決める必要がある。調査によると、制度を導入している企業が確実に確保したいとする時間は7-8時間がもっとも多く、次いで12時間超との結果が出ている。しかし、8時間のインターバルの場合、9時出社の企業なら前日午前1時まで残業してもクリアできてしまう。これでは実感としてはかなり低い目標のように受け取れる。一方12時間であれば、9時出社のためには前日は21時までに退社しなければならない。長時間労働の是正という観点では、こちらの方が目標としては妥当な印象を受ける。
 
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それでは制度の導入でどのような変化が起こるのだろうか。第一に、休息時間が増えることで労働時間が短縮され、長時間労働の是正につながることが考えられる。そして、十分な休息をとることで労働者の健康状態の改善も見込まれる。こうした変化は企業の生産性にどう影響するのだろうか。
 
そこで、ワーク・ライフ・バランス施策を導入した企業の生産性の推移を見てみよう。ワーク・ライフ・バランス施策とは、法を上回る育児休業制度や介護休業制度、短時間勤務制度やフレックスタイム制度など、勤務間インターバル制度同様、長時間労働の是正に寄与する施策である。ワーク・ライフ・バランス施策導入から3年ほど遅れて全要素生産性(TFP)※1が向上するという結果から、「勤務間インターバル制度」の導入が、生産性向上に寄与する可能性があると考えられる。
 
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次に、労働者の健康状態が改善されることと企業の生産性の関係を見てみよう。経済産業省の健康経営※2優良法人認定企業において、健康経営の取り組み開始から1~2年くらいの遅れで総資産利益率(ROA)が高まっている。また、メンタルヘルスによる休職者比率が上昇した企業では、比率上昇の3年後に利益率の低下が顕著になるという結果もある。これらの結果から社員の健康状態の改善が、企業の生産性や業績を増加させる傾向があることがわかる。
 
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実際の企業での取り組み例としては、PC画面にポップアップで「定時になりました」「22時を過ぎました」などのメッセージを表示して退社を促したり、前日に残業してインターバル時間が翌日の始業時刻に食い込んだ場合は出社時間を後ろ倒しするなどが挙げられる。また、インターバル時間を最低8時間、努力目標10時間の二段階に分けるなど、制度を緩やかに現場に浸透させていく工夫をしている企業もある。
 
調査結果からわかるように、取り組みの成果は数年後に現れる傾向があるため、運用方法を改善しながら長期にわたって取り組んでいくことが重要だ。働く人が「休み方」のコツをつかめれば、長時間労働になりがちなテレワークや業務過多に陥りがちな副業の運用方法も見えてくるのではないだろうか。「勤務間インターバル制度」は、働き方改革の推進には欠かせない視点の一つといえよう。
 
 
※1 TFP:全要素生産性(Total Factor Productivity)。労働生産性と資本生産性のトータルの生産性を表す指標。
※2 健康経営:従業員の健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること。
 
 
【出典】

 

作成/MANA-Biz編集部