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2023.11.01

ワークとライフ両方を充実させる、マルチハビテーションとは?

知っておきたいトレンドワード26:マルチハビテーション

「豊かな暮らしとは何か」を見つめ直し、休日は家族や大切な人と自然豊かな環境で暮らしたいという人が増えたことで、注目を集めるようになった「マルチハビテーション」。パンデミックやテレワークの普及、空き家問題の深刻化などもあって、今後ますます浸透すると予測されている。別荘やワーケーションとの違いや、メリット・デメリット、今後の展望を解説する。

マルチハビテーションとは

マルチハビテーションとは「複数の」を意味する「マルチ」と「住居」を意味する「ハビテーション」を組み合わせた造語であり、多拠点居住や複数拠点、デュアラーともいいます。

複数の住まいを行き来しながら自分たちの価値観に合った生活を実現するライフスタイルのことを示します。普段は都会で仕事をしながら、休日は自然豊かな環境で趣味を楽しみたい、将来地方に移住を考えていて、まずは休日だけ過ごしながらその土地に親しむなど、目的は様々です。

別荘との違いは、別荘が特定シーズンに保養目的で利用するものであるのに対して、マルチハビテーションでは毎週末など頻繁に利用することが多いという点があります。また、別荘は所有物であるのに対して、マルチハビテーションでは賃貸やサブスクリプション型の拠点などに滞在する場合も含めるという違いもあります。

ワーケーションもマルチハビテーションの一つです。ホテルやリゾート地など非日常の土地で仕事を行うことで、生産性や心の健康を高め、より良いワーク&ライフスタイルを実施するというワークスタイルです。


マルチハビテーションが注目されるようになった背景として、週末だけでも自然豊かな環境で暮らしたいという価値観の広がりや、地方の過疎化・空き家問題の深刻化に伴う自治体の誘致施策、多拠点居住プラットフォーム事業者の台頭、テレワークの普及などが挙げられます。




マルチハビテーションのメリット・デメリット

マルチハビテーションを取り入れる上で想定されるメリットとデメリットについて紹介します。

マルチハビテーションのメリット

まず大きなメリットとして考えられるのは、仕事とプライベートのメリハリをつけられるため、しっかりリフレッシュできること。平日は仕事のための拠点で集中して取り組み、週末は自然豊かな場所で趣味を楽しんだり家族とリラックスすることで、交感神経と副交感神経のバランスが取りやすくなり、アイデアも出やすくなるでしょう。

また、拠点の移動によって自然と行動範囲が広がるため、思いがけない人や情報に出会うチャンスが増えることも期待できます。「都会で刺激を受けながら仕事に取り組みたい」という思いと、「自然の中で子育てをしたい」「地域の活性化に貢献したい」といった思いを両立させることができるライフスタイルともいえるでしょう。

いずれ地方に移住したいと考えている人にとっても、いきなり会社を辞めて移住するより、まずはマルチハビテーションで徐々に土地に馴染んでいく方が安心して意志決定できるというメリットもあります。


マルチハビテーションのデメリット

一方デメリットとして考えられるのは、第一にコスト面です。拠点間の移動に費用と時間がかかることや、初期投資に加えて維持費、光熱費がそれぞれかかるため、生活費がかさむことが挙げられます。移動の頻度や距離によっては、ストレスや疲労で仕事に支障をきたす場合や、タイムマネジメントが複雑になることも想定されます。

また、子どもを自然の中でのびのび過ごさせたいと地方にも拠点を持ったとしても、ある程度成長して週末に学校や習い事等の予定が入ったり、友達との約束を優先するようになると、こうしたライフスタイルを継続することが難しくなるかもしれません。さらに所得税や住民税の納税先、不動産の税務処理などが複雑になる場合も考えられます。




マルチハビテーションの始め方と今後の展望

マルチハビテーションを始めるには、遠すぎて足が遠のくことを避けるためにも、まずは片道2時間程度までが目安です。移動に無理がないか、環境になじめそうかなどを見極めるためにも、サブスクリプションやシェアハウス、賃貸を利用するところから始めるといいでしょう。不動産を購入する場合はしっかり資金計画を立て、維持費や生活費も計算したうえで、無理のない範囲で検討しましょう。

今後も地域の過疎化や空き家問題の深刻化が進むと同時に、価値観の多様化で自然回帰の志向は定着すると見られています。定住や所有を前提としない価値観は今後ますます一般化すると思われます。アフターコロナは一部テレワークからの揺り戻しがあるものの、日中オフィスで仕事をしている分、週末は郊外でのんびり過ごしたいというニーズはなくならないでしょう。

「消費トレンド総覧2030」のレポート内で、マルチハビテーション市場は37.5兆円に達すると予測されています。一部の地方自治体では、マルチハビテーションに補助金を出すところも。
過疎化や空き家問題が今後ますます深刻になると、一時的にでも地域に人が住んでくれるように誘致する自治体が増えるかもしれません。そうなるとマルチハビテーション向けの住宅など新しいサービスや商品が開発されることも期待されます。
どこにいてもシームレスに仕事ができる環境は年々充実していっています。マルチハビテーションは今後ますます注目されるライフスタイルといえそうです。



作成/MANA-Biz編集部