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2023.12.15

社会課題解決と経済的インパクトが期待される最新技術

知っておきたいトレンドワード27:ディープテック

政府は2022年を「スタートアップ創出元年」とし、スタートアップへの投資額を5か年で10倍にする方針を打ち出した。その中でも1000億円ととりわけ大きな予算が確保され、科学的な発見や革新的な技術によって世界に大きな影響を与える取り組みとして注目されているのがディープテックだ。今回はディープテックの具体例や注目される背景、ディープテック成功に必要なことについて解説する。

ディープテックとは

ディープテックとは、科学的な発見や革新的な技術に基づき、事業化・社会実装を実現できれば社会に大きなインパクトを与えられる技術のこと。研究機関等で長期間にわたって開発されてきた「深いところに眠っている技術」や「世の中に深く根ざした問題を解決できる技術」などを意味する造語です。

成果の獲得までに高いスキルと長い時間を要するのに加えて、不確実性が高い、非常に多額の資金が必要、多くの場合研究段階で具体的な製品・サービスが見えていない、事業化・社会実装に際して既存のビジネスモデルを適応できない、といった特徴があります。
革新的な技術なだけに、どのような社会課題解決に活かせるのかすぐにイメージすることは難しい側面があります。一方で成功した場合のインパクトが非常に大きく、破壊的なソリューションとなり得る可能性を秘めているとも言えます。

実はかつて日本がディープテックで世界を席巻した時代もありました。VHSやNAND型フラッシュメモリ、コンパクトディスク、ウォークマンなど、70年代から80年代にかけて世界中の人々のライフスタイルに革命を起こしたとも言えるディープテックの成功例は枚挙に暇がないほど。
しかしこうした日本が得意とするハードウエアによるプラットフォームの時代から、インターネットを始めとするIT技術に移ったため、日本の存在感は薄れていってしまいました。




最新ディープテックの具体例

それでは現状注目されている最新のディープテックにはどのようなものがあるか、具体例を挙げていきます。
代表的なものに人工知能(AI)があります。機械学習や深層学習などの技術を用いて人間と同等以上の知能を実現する技術です。ほかに量子コンピューティングなどの次世代コンピューティング、合成生物学などのバイオテクノロジー、各種宇宙技術、クリーン電力や代替エネルギー、核融合などの新エネルギーなどが挙げられます。

すでに研究や開発が進みつつあるものも多いですが、課題解決につながる実用に向けてまだまだ可能性が秘められている分野といえます。これらの技術や分野の発展により、医療や製造業、金融、農業、環境、災害対策など、さまざまな分野での活用が期待されます。




ディープテックが期待される背景

ディープテック企業に対する投資は世界的に積極的に行われており、ディープテック企業への投資は2015-2018年の3年間で22%も増加しています。日本でも「スタートアップ育成5か年計画」など国がスタートアップの支援に力を入れ始めており、なかでも「ディープテック・スタートアップ支援事業」は1000億円と大きな予算が充てられています。

その背景として、カーボンニュートラルや資源循環などの社会課題解決や、社会実装によって市場を創造し、グローバルに経営資源を獲得することへの期待などがあります。それだけディープテックは差別化された高度な科学技術であり、SDGs達成や破壊的イノベーションの創造など、社会が大きく変わる可能性を秘めているからこそ、期待が寄せられていると言えそうです。




ディープテック成功のために必要なこと

日本でディープテック領域での開発や起業を成功させるために必要なものとして、一つには「ディープテック・エコシステム」の形成が考えられます。

ディープテック・エコシステムは、担い手であるディープテック・スタートアップ、技術シーズを生む大学などの公的研究機関や事業会社の研究部門、資金を提供するVC・CVCなどの投資家、社会実装の際に連携先となる事業会社、弁護士や弁理士などの知財関連の専門家、研究開発設備を提供するインキュベーション施設事業者など、さまざまな主体によって形成される必要があります。
具体的に必要となるものとして、開発のスピード、資金供給、失敗を怖れず挑戦するための風土づくり、検査設備と精度の高い評価の仕組み、オープンイノベーションなどが考えられます。
近年ディープテック企業を発掘するためのコンテストなども開催され始めています。今どのようなイノベーションの種が生まれつつあるのか、早い段階で認知され、支援を受けることも重要です。また、ディープテックの担い手と支え手それぞれが持続可能であるためには、エコシステム内の連携を促す仕組みが求められます。




日本でのディープテック事例

日本企業でもディープテックに取り組み、一定の成果を得ている企業はあります。取り組み事例を紹介します。

株式会社ユーグレナ

株式会社ユーグレナは、ミドリムシを活用したバイオテクノロジーの企業です。ミドリムシは、タンパク質や脂質、ビタミンなどの栄養素を豊富に含む微細藻類で、ミドリムシを活用した食品・サプリメントだけでなく、バイオ燃料や飼料、肥料、バイオマスプラスチックなど、多岐にわたった研究が進められています。


Synspective

株式会社Synspectiveは、自然災害の被害を抑制する小型SAR衛星の開発・運用を行っています。SAR衛星はマイクロ波を用いて地表を観測する衛星で、夜間や悪天候でも観測できることや、数ミリ単位で高低を測定できるのが特徴です。土木工事における事故防止や地震時の災害を抑える対策を打てるようになるほか、洪水時にどこが水没や浸水の可能性が高いかなどを観測して被害の低減に役立てることが期待されています。




作成/MANA-Biz編集部