リサーチ

2022.02.22

経験者が感じるフリーアドレス導入後の課題と解決のポイント

導入しただけではコミュニケーションは低下する⁉

働き方改革の一つの手段としてフリーアドレスを導入する企業が増えている一方で、コミュニケーション不足による組織力低下に対する懸念の声も多いいが、導入後の実情はどうなのか。コクヨが実施したフリーアドレス未経験者と経験者への調査結果をもとに考察する。

フリーアドレスとは

フリーアドレスとは業務内容や気分に合わせて自由に席を選ぶスタイルのこと。新型コロナウイルス感染拡大の影響で働き方が急速に変化し、多くの企業で出社率が大幅に下がったことは、オフィスの役割が見直されるきっかけになりました。オフィスで仕事をする価値を最大限高めるための一つの手段としてフリーアドレスに注目が集まっています。フリーアドレスには、エリアを限定せずに席を選ぶ完全フリーアドレスと、部単位、ユニット単位など特定範囲で実施されるグループアドレスの大きく2種類があります。



フリーアドレスの実施状況

フリーアドレスの実施状況についての調査結果から、フリーアドレスとグループアドレスを実施済み、または導入予定を合わせて約38%、固定席が約62%で、企業規模が小さくなるほど固定席の割合が増える傾向が見られました。

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【図版出典】Small Survey「フリーアドレスの採用実態とそれぞれのワークスタイルの満足度」




フリーアドレスへの期待とメリット

企業サイドからは、スペースの有効活用や業務効率化、部署間コミュニケーションの活性化といった狙いを持って導入することが多いフリーアドレスですが、ワーカーが期待することやメリットにはどのようなものがあるのか、フリーアドレス未経験の固定席ワーカーと導入済のフリーアドレスワーカーそれぞれに聞いてみました。


フリーアドレス未経験者が期待すること

固定席ワーカーが考えるフリーアドレスの利点として「気分によって働く場所を変えられる」(50.5%)「社内の人脈が増える」(35%)「会いたくない人と距離をおける」(28.2%)が上位に挙がっています。裏返せば現状の固定席での気分転換や人脈の固定化に対する課題意識が表れているのかもしれません。



フリーアドレス経験者が感じるメリット

フリーアドレスワーカーが感じる利点には「気分に合わせて働く場所を変えられる」(33%)「周りを気にせず自分のペースで仕事ができる」(27.2%)「空いている席で打ち合わせができる」(26.2%)がトップ3に挙がりました。業務やスペースの効率化は固定席ワーカーの期待値よりも高く出ており、実際にやってみて実感できるメリットだといえそうです。一方「社内の人脈が広がる」「他部署の人との会話が増える」といった部門を超えたコミュニケーションの活性化については、固定席ワーカーの期待が高いのに対し、フリーアドレスワーカーの実際の感覚との間にはギャップがあるのが実情のようです。

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フリーアドレスへの不安と課題

一方フリーアドレスに対する不安や課題をワーカーはどのような点に感じているのか。こちらも、固定席ワーカーとフリーアドレスワーカーそれぞれに聞いてみました。


フリーアドレス未経験者が感じる不安

固定席ワーカーが不安を感じる点として「荷物を持っての移動が大変」(43.7%)「就業時の片付けが大変」(31.1%)「話したい人を探すのに時間がかかる」(30.1%)など、フリーアドレスによって増えるであろう手間や煩雑な作業に対して抵抗感を抱いていることが見えてきます。この、「フリーアドレスは面倒なことが増える」というイメージが、固定席ワーカーの8割以上は現状に満足、という数字にも表れているのかもしれません。

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【図版出典】Small Survey「フリーアドレスの採用実態とそれぞれのワークスタイルの満足度」



フリーアドレス経験者が感じる課題

一方フリーアドレスワーカーが感じる課題として、「話したい人を探すのに時間がかかる」(29.1%)「出社時、席を探すのに時間がかかる」(29.1%)「同じ部署の人との会話が減る」(25.2%)などは固定席ワーカーの不安とほぼ同じ割合と、やはりここでもコミュニケーションへの課題感が気になります。

4_res_227_04.png 具体的に誰とのコミュニケーションが課題になっているのか、次の「今後コミュニケーションの頻度をより高めたいと思う人」という質問から見えてきます。フリーアドレスワーカーは「同じ部署の人」(54.0%)「上司」(37.9%)の割合が高く、固定席であれば近くにいるので自然とコミュニケーションが取れていた人との情報共有する機会を逸してしまっていることが窺えます。

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コミュニケーション活性化に必要な仕掛けと重要ポイント

では期待にも課題にもあがってくるコミュニケーションの活性化としてどのような仕掛けが効果的か、調査結果からいくつかの重要ポイントが見えてきました。


留まる

コミュニケーションを取るためには相手と同じ場所に一定時間留まることが必要です。例えば「コピー機付近」「休憩室」「食堂」などは順番待ちなど手持ち無沙汰な時間があるため、何気ない雑談が生まれることが多いようです。



きっかけ

話しかけるきっかけが多い場所の一例として「オープンミーティングエリア」や「カフェスペース」「休憩室」があがっています。ここでは普段離れた場所で仕事をする相手と直接顔を合わせる機会が生まれやすく、また話している内容の深刻さや会議や会話の終わりそうなタイミングなども伝わってくるので、声をかけやすいことが理由として考えられます。



目的

その場所を訪れる共通の目的があることで会話が生まれやすい代表的なスペースとして「タバコ部屋」があります。集まる人が同じ顔ぶれになりやすく、定期的に同じ目的で訪れ、比較的肩書きも気になりにくい場所であることも、仲間意識が生まれやすく、気軽に雑談しやすい理由なのでしょう。同じように「オープンミーティングエリア」や「給湯スペース」も訪れる目的が共通で、執務スペースよりフランクに話しやすい雰囲気なこともあり、コミュニケーションが活性化しやすいようです。

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運用

コミュニケーションの活性化に必要なスペースや仕掛けとして「飲食可能な場所と飲み物や軽食(菓子)の提供」「就業時間内に仕事外の話をしても許されるスペースの提供」などが挙がってきていることから、ワーカーは「会話をしてもよい」という組織からの意思表示を必要としていることが見て取れます。
また、フリーアドレスワーカーが「部署を越えた1on1」「全社員を対象とした業務外のイベント実施」などを求める数値が固定席ワーカーより高く出ているのは、ただ席をフリーにしただけではコミュニケーションは自然発生しにくいので、きっかけを提供してほしいと感じていることが推測されます。コミュニケーションの活性化をより高めるためには、コミュニケーションの機会をいかに創出していくか、運用面の工夫が必要不可欠といえそうです。

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まとめ

コロナ禍で在宅ワークの機会が増え、対面コミュニケーションが減り、ちょっとした雑談も減ったことで、オフィスに期待する価値として対面でコミュニケーションが取れることへの期待がより高まっています。一方で、ただ近くに座って仕事をするだけではコミュニケーションの活性化にはつながりにくいことも見えてきました。

例えば週に1度はチームメンバーで曜日を決めて出社して一緒に仕事をする、業務外の会話をしても許されると感じられるようなルールを設定する、自然に会話が生まれやすいスペースを確保するなど、ソフトとハード併せて運用を考え、アップデートしていくことが重要です。
フリーアドレスの導入はゴールではなくスタートと捉え、どう運用していくことが組織としての目的とワーカーの期待を実現することにつながるか、PDCAを回していくことが求められることが今回の調査からも見えてきました。

一方でフリーアドレス未経験の固定席ワーカーが不安に感じることは、実際に導入してみるとある程度払拭できることもわかりました。「留まる」「きっかけ」「目的」など今回の調査で見えてきたキーワードも参考に、企業側からもコミュニケーションが生まれる環境づくりをサポートしていくことが、ニューノーマルな働き方の中でもアイデアを生み出しワーカーが心理的安全性を感じられる職場づくりにもつながっていくのではないでしょうか。



調査概要

実施日:2021.10.27-29実施

調査対象:社員数500人以上の民間企業に勤めるワーカー「オフィス全体でフリーアドレス」「グループアドレス(組織単位でフリーアドレス制」「固定席」を均等割

ツール:WEBアンケート

回収数:300件(予備調査5,000件)

【図版出典】Small Survey「フリーアドレスとコミュニケーション」


河内 律子(Kawachi Ritsuko)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
ワーキングマザーの働き方や学びを中心としたダイバーシティマネジメントについての研究をメインに、「イノベーション」「組織力」「クリエイティブ」をキーワードにしたビジネスマンの学びをリサーチ。その知見を活かし、「ダイバーシティ」をテーマとするビジネス研修を手掛ける。

作成/MANA-Biz編集部