仕事のプロ

2022.01.07

WITHコロナ時代に求められるイノベーションとは?

イノベーション創出にオフィスや場が果たす役割

イノベーションの必要性がより強く求められている昨今。なぜ今重視されているのか?イノベーション創出に適した場やイノベーションが生まれるオフィスについて定義や事例とともに解説する。

イノベーションとは

日本では、産官民を超えて「イノベーション創出」がミッションとして掲げられていますが、イノベーションのとらえ方は人によってまちまちです。まずはイノベーションの定義について押さえておきましょう。

「イノベーション」という言葉を最初に使ったのは、オーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーター氏とされています。シュンペーターは1912年に発表した論文「経済発展の理論」の中で、「新結合」という概念を紹介しています。「既存の知どうしを組み合わせて新しいものをつくる」といった意味です。この概念が、のちにイノベーションと呼ばれるようになりました。

日本では、1950年代に刊行された『経済白書』の中で、「技術革新」という訳語でイノベーションの概念が紹介されました。そのため、近年まで「イノベーション≒技術革新」ととらえる風潮が目立ちました。
しかし現在では、「新しい製品やサービス、もしくはそれらを生むための技術」にとどまらず、「新製品・サービスなどを通じて人々の価値観を変え、ひいては社会に大きな変化を起こすこと」も含めてイノベーションとして認識されています。つまり、「何かを新しくすること」が総称してイノベーションと呼ばれているわけです。




イノベーションの5つの分類

シュンペーター氏は、イノベーションを「何を新しくするか」という観点から5種類に分けて説明しました。

プロダクトイノベーション

新しい製品やサービスを開発すること。


プロセスイノベーション

モノをつくるプロセスに、今まで用いられていなかった生産方式を導入すること。他業界の方式を取り入れるケースも。


マーケットイノベーション

今までとは違うターゲットを獲得し、新たな市場を開拓すること。


サプライチェーンイノベーション

製品をつくるための新たな原料を確保したり、原料を得るための新しいルートを開拓したりすること。


オーガナイゼーションイノベーション

組織の構造を改革すること。企業における社内ベンチャーの立ち上げや、産学間・異業種間などで連携する「オープンイノベーション」なども含みます。




イノベーションの2つのタイプ

イノベーションの概念を別の切り口で捉えたのが、アメリカの経営学者クレイトン・クリステンセン氏です。クリステンセン氏は1997年に発表した著書『イノベーションのジレンマ』の中で、イノベーションは「誰をターゲットとするか」で2つのタイプに分けることができると指摘しています。「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」です。

2_bus_112_01.jpg

持続的イノベーション

現状の製品・サービスなど改良すること。既存顧客のニーズを満たすことを目的としたイノベーション。



破壊的イノベーション

既存顧客以外の人を対象としたイノベーション。新たな発想で今までとは違った製品・サービスなどを提供すること。このイノベーションによって生み出されるのは、シンプルで使い勝手がよく、安上がりなモノ・サービスであるケースが目立ちます。
破壊的なイノベーションによって市場に出た製品・サービスが成長していくと、企業はその製品・サービスのユーザーとなった顧客の満足向上をめざすようになります。つまり、破壊的イノベーションが持続的イノベーションに移行していくわけです。




WITHコロナ時代、今なぜイノベーションが必要なのか

企業として成長し続けるには、イノベーションを起こし続けていくことが重要であることは言うまでもありません。また、少子高齢化やグローバル化が進行しつつある今、限られた労働力の中で成果を上げ、国際社会の中で生き残っていくためにも、イノベーション創出は不可欠です。

さらに、コロナ禍以降は以前に増してイノベーションの必要性が顕在化しています。その一因として、コロナをきっかけに消費者の意識や行動が大きく変わったことが挙げられます。急激な市場動向の変化により新しい商品やサービスが求められ、それらを提供できた企業は業績を伸ばす一方で、事業継続が危ぶまれる企業が出るなど、イノベーションが明暗を分けています。


また、感染症のパンデミックと時期を同じくして、地球環境問題、SDGsへの関心が高まっていることも、イノベーションの必要性を強めています。コクヨが2021年8月に実施したアンケート調査で、「企業成長以外でイノベーションに取り組む目的」として「地域社会貢献のため」や「地球環境のため」と考えるワーカーが多く、そうしたイノベーション創出に取り組むことが社員のモチベーションにつながることがわかってきています。つまり、人材の面でも企業の存続にイノベーションが大変重要であると言えるのです。
4_res_221_06.png




イノベーションが生まれるオフィス

イノベーション創出というと「まったく新しい製品やサービスをゼロから生み出すこと」と考えられがちです。しかし、イノベーションの概念を最初に提唱したとされるシュンペーター氏も、「イノベーションは『既存の知』どうしを新しい組み合わせで結びつけること」だと定義しています。
「既存の知」どうしを結びつけるときに、オフィスが果たす役割は重要です。イノベーション創出につながるオフィス運営のポイントを3つ紹介します。



2_bus_112_02.jpg

部門を超えて交わる

同じ企業内で異なる部門に属するメンバーが交わることで、それぞれのメンバーが持つ知識が結びつき、新しいアイデアが生まれやすくなります。そのためには、部門を超えたメンバーが接点を持つ機会が求められます。 多様なメンバーが交流をもつための1つの方法として、「ABW(Activity Based Working)」という働き方が挙げられます。ABWは本来、場所と時間を自由に選んで働けるワークスタイルを指します。ただし、企業の中には、場所をオフィス内に限定した「狭義のABW」を採用しているところもあります。
いろいろな部門の人がオフィス内のさまざまな場所で仕事をしていれば、当然ながら交流をする機会も増え、イノベーションにつながるアイデアが生まれる可能性も出てきます。



人材の多様性を高める

企業内に似た価値観の人ばかりが集まっていては、新しい発想が出にくく、結果としてイノベーションにつながる製品・サービスは創出されません。逆に、従来は自社にいなかったタイプの人材を惹きつける仕掛けをつくれれば、イノベーションが生まれる土壌ができます。どのような人材を採用したいかを検討したうえで、例えば「健康経営に配慮したオフィス」など自社が求める人材にアピールする環境を整えていくことで、多様な人材が企業に集まりやすくなります。
また採用後も、自社のカルチャーを体現する施設をオフィス内につくったり、メンバー同士が交流を深められる仕掛けを準備すれば、人材の定着が見込めます。



異文化とつながる

イノベーションにつながる新鮮な発想を得るには、自社と異なる文化をもつ社外の人から意見やアイデアをもらうことも助けになります。そこで、自社オフィスに社外人材が出入りできる場をつくったり、組織の枠を超えてさまざまな人が集まるコワーキングスペースを借りたりして、オープンイノベーションを目指す企業も出てきています。
コロナ禍によってこうした動きはいったん停滞しましたが、今後は再び「異文化とつながる」企業の動きが活性化すると予測できます。




イノベーションが生まれる場

コロナ禍によって消費者の価値観が変化したことと相まって、SDGsなど世界規模の社会課題が注目されるようになり、根本的な課題解決につながるイノベーションが求められています。このようなタイプのイノベーションは、1つの企業が単独で取り組もうとしても限界があり、組織や産官民の垣根を越えて協業で取り組むことが必要です。つまり、多様な人を巻き込んだオープンイノベーションの必要性が高まっているのです。
オープンイノベーションを起こすには、異なる属性の人が交われる場が必要です。


2_bus_112_03.jpg

オープンイノベーションの3つの場

イノベーション創出を目指し、組織を超えた多様な人材が集まって共創活動を行う代表的な場として、次の3つが挙げられます。

フューチャーセンター

1社だけで解決が難しい社会課題などのソリューション創出に向けて、産学官民を超えた関係者が集まって対話しながら仮説をつくり、イノベーションの種を探すための場。


イノベーションセンター

企業が自社の技術や資金を活用し、顧客など外部人材との共創によって製品・サービスなどをつくって、イノベーションを生み出すための場。


リビングラボ

市民や大学、行政が主体となり、人々が生活する街で社会実験をしながら仮説検証を行って、新しい製品・サービスやビジネスモデルを共創するための場。



事例1:JX金属『SQUARE LAB』

非鉄金属資源の開発・採掘から製造・販売、リサイクルまでを手がけるJX金属株式会社では2021年、本社移転と同時に、オープンイノベーション創出を1つの目的とした施設『SQUARE LAB(スクエアラボ)』を開設しました。「非鉄金属の可能性を追求」というミッションに向けて、顧客やグループ従業員、スタートアップ企業、大学、研究機関、行政など、社外の組織・個人との共創活動を行っています。



事例2:資生堂『S/PARK』

国内トップシェアを誇る化粧品メーカーである株式会社資生堂では、多様な知の融合を実現できる研究所『資生堂グローバルイノベーションセンター』を設立しました。ビジネスパートナーとコラボレーションができる共創フロアがあり、外部研究機関と共同研究ができる実験室のほか、学会や新製品発表会が開催できる500人規模のホールを備えています。
なお同施設内には、「美のひらめきと出会う場所」をテーマとした複合体験施設『S/PARK(エスパーク)』も設置され、一般に開放されています。訪れた人は研究員のカウンセリングやスキンケアサービスを受けたり、カフェやヨガスタジオを利用したりできます。研究員にとっても、顧客と接することでイノベーションのきっかけを得られる可能性があります。




まとめ

「イノベーション」は100年以上も前に生まれた概念ですが、時代の変化とともに、求められるイノベーションの質も変わってきています。
企業成長だけでなく、より根本的な社会課題の解決を目指して、社外との共創活動を積極的に行っている企業もみられます。他社の事例も参考にしながら、まずはイノベーションを起こす土壌づくりとして、オフィス環境整備や人材採用、社外とつながる仕組みづくりなどから始めてみてはいかがでしょうか。


作成/MANA-Biz編集部