仕事のプロ

2022.01.14

フリーアドレス導入に向けて押さえておきたい基礎知識

メリット・デメリットや成功のポイントとは

コロナ禍で働き方が変化している今、注目されているフリーアドレス。導入のメリットがある一方でデメリットへの不安から社員の反発も起こりやすい。導入の効果を見極め、失敗しないために押さえるべきポイントやABWとの違いなど、具体的な疑問への回答もふまえて成功のポイントを紹介する。

フリーアドレスとは

フリーアドレスとは従業員の座席を固定せず、「今日は集中して作業をしたいからブースにこもりたい」「今日はアイデア出しをしたいからプロジェクトチームメンバーの近くに座る」など、業務内容や気分に合わせて自由に席を選ぶスタイルのことをいいます。
1980年代後半に一度、大企業を中心に導入が始まりましたが、当時はICTの技術がそれほど進んでいなかったこともあって定着には至りませんでした。
現在はペーパーレスやクラウド、コミュニケーションツールの発達などのICT技術の進歩とスマートフォンやノートパソコンの普及、働き方改革の影響もあって一気に導入障壁が下がり、導入する企業が増えています。


今なぜ、フリーアドレスなのか

新型コロナウイルス感染拡大の影響で働き方が急速に変化し、多くの企業で出社率が大きく下がりました。アフターコロナでもワークスタイルを完全にはコロナ禍前に戻さず、社員がさまざまな場所で働くスタイルを維持する場合、オフィスの役割もこれまでとは異なり、オフィスにしかない価値を提供することが求められるようになります。オフィスに出社して仕事をする価値を最大化するための一つの手段としてフリーアドレスに注目が集まっているのです。



フリーアドレスの種類

フリーアドレスにはエリアを限定せずに席を選ぶ完全フリーアドレスと、部単位、ユニット単位など特定範囲で実施されるグループアドレスの大きく2種類があります。会社の規模やフリーアドレスの導入目的によって採用が異なってきます。




フリーアドレスのメリット・デメリットと解決策

フリーアドレスにはさまざまなメリットがある一方、デメリットが生じる可能性もあります。


メリット

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①働き方が自律的になる

社員一人ひとりが、その日の仕事内容やスケジュールを考えて働く場所を主体的に決めるようになり、生産性への意識も高まります。


②コミュニケーションが活性化される

固定席では隣り合うことがない人とも距離が縮まり、部署や業務内容、役職に捉われないコミュニケーションによるアイデアの創出も期待できます。


③打ち合わせや会議がやりやすくなる

その場で簡単な打ち合わせができるのもメリットの一つ。ちょっと相談したい、意見が聞きたい時もタイムリーかつ気軽に話せます。


④組織内の人間関係がフラットになる

役職に関係なくフラットに座席を選ぶことで目に見える上下関係が取り払われ、心理的にも組織の風通しのよさにつながります。


⑤部門の壁を越えた協働、協創が生まれる

固定席では接点のなかった他部門の人と交流することで、新しい視点を得られたりサポートし合うきっかけになることも。


⑥社内の情報共有、意思決定がスムーズになる

接点が増えるため良好な関係を築きやすくなり、会議での議論が活発になったり、コンセンサスが取りやすくなることも期待できます。


⑦エリアに複数の機能をもたせ、オフィスを有効活用できる

コミュニケーションエリアや集中スペースなど複数の機能を備えたエリアの設置により、スペースを有効に生かせます。


⑧スペースを効率化し、必要なスペースを拡充できる

在席率を基に適正な席数設定を行うことで、執務スペースを効率化し、余ったスペースを有効活用できます。


⑨組織変更・人数変更に柔軟に対応できる

席と人が結びついていないので、組織変更やメンバーの増減などのレイアウト変更も簡単で臨機応変に対応できます。


⑩書類削減やペーパーレス化にも効果がある

個人の収納スペースが削減されると書類削減は不可欠。持ち運ぶ荷物を最小限にするためにも自然とペーパーレスへ移行していきます。


⑪整理・整頓・清掃・清潔の意識が醸成される

席を共有しあうにはクリアデスクが鉄則。席を移動するタイミングで整理整頓、清掃する習慣が自然と身に着きます。



デメリット

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①いつ、どこに誰がいるかわからなくなる

自席が決まっていないと話したくてもどこにいるかわからないことが起こります。
対策:位置確認ツールの導入やフロアに番地を付けるなどの工夫が必要です。


②部内のコミュニケーションが希薄になる

日常的に空間を共有していないためコミュニケーションが取りづらくなることも。
対策:能動的にコミュニケーションを取りにいく必要があります。


③会社や部門に対する所属意識が低下する

固定席がなくなることで居場所を感じにくい、チームの一員であるという所属意識が低下する恐れも。
対策:業務以外で意図的に会う機会やつながる仕組み(SNSなど)をつくる工夫が必要です。


④席が固定化される

結局同じ場所に座っていたり、快適な席を確保するための席取りに余計なエネルギーを使うことも。
対策:運用ルールの工夫や導入の目的を浸透させる必要があります。


⑤社員からの反発が強く、社内調整に時間と労力がかかる

マネジメント上の不安などから反発する声は一定数見込まれます。
対策:目的やメリットを根気強く伝える必要があります。


⑥環境とツールに費用がかかる

オフィス空間の構築だけでなくノートパソコンの配布やITインフラの整備など、一定の初期投資が必要です。


フリーアドレスのよくあるQ&A
フリーアドレス導入にまつわる疑問を一気に解決

2_bus_114_top.jpgフリーアドレスのよくある疑問・質問を、Q&A形式で紹介。席の使い方からマネジメントや収納など、フリーアドレス導入前の気になる疑問や不安について、コクヨのワークスタイルコンサルタントがアドバイスします。

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フリーアドレス導入の流れと成功のポイント

フリーアドレスのメリットを最大化し、デメリットを抑えるためにどのような流れで導入すればよいのでしょうか。

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1.オフィスの現状を把握する

フリーアドレス導入前にまず実施したいのが、部署ごとの在席率や機密情報の取り扱いがどれだけあるか、どういったスタイルでオフィスを活用しているかなどの現状把握です。フリーアドレス導入が課題解決につながる手段として適切か、問題なく運用できそうか前もって調査しておくと良いでしょう。



2.オフィスを構築する

2人席やソファー席、カウンターなど人数や用途によって使い分けられる机やイスだけでなく、個人ロッカーや打ち合わせ用の会議室やブースなどオフィスに必要な機能を配置していきます。この時、部門間のコミュニケーションの活性化などの導入目的に合わせて動線を考えることが重要になってきます。



3.ITインフラやツールを整備する

自由に社内を移動して仕事をするためには、持ち運びできるノートパソコンやどこでも繋がるインターネット環境などITインフラの整備は欠かせません。また気軽に相談できるようなチャットツールやスケジューラー、グループで文書をシェアできるクラウド、打ち合わせで資料を投影するモニターなどの活用もペーパーレスにつながり、効果的です。



4.社員の意識を改革する

フリーアドレス成功の最大の鍵は社員の意識改革です。頭では理解していても固定席を失うことで安全地帯が無くなるという不安を感じる社員も多いでしょう。大切なのはフリーアドレスによって何を実現したいのか目的を明確にし、理解と共感を得ることです。



5.運用ルールを作成し社内浸透をはかる

特にフリーアドレスは目的に添った運用を維持する仕組みがないと形骸化する危険性があります。上位職の座る座席は固定するのか、共有物の保管場所とルールなど社員が迷いそうなことはあらかじめ決めておき、説明会などで周知したうえで浸透させることが大切です。



6.見直しと改善でフリーアドレスを継続させる

導入してしばらく経つうちに見えてくる課題や慣れによってルーズになる面も出てきます。定期的に運用ルールを見直し、意見を募ってオフィスの再構築や改善をしていくなど、目的の達成に向けてフリーアドレスを継続させる工夫も必要です。




コロナ禍で求められるフリーアドレスのあり方

コロナ禍においてオフィスでの感染拡大を防ぐための基本方針として安心・安全は鉄則。そのため「距離の確保」「密集・接触の回避」「換気・衛生面への配慮の徹底」「非接触・飛沫の遮断」「対面や接触を避けられる動線」などが前提となります。コロナ禍でのフリーアドレスで特に大切なことは次の3つです。


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ホテリング(出社予約)

会議室予約と同じ要領で事前に出社を申請し、事前に座席を予約するホテリングの制度を取り入れることで、フロアに入る人数を制限できたり、だれがいつオフィスを利用したのかを記録することができます。



出社と在宅勤務のシフト制にする

オフィスへの出社と在宅勤務を併用し、シフト制にすることで出社率のコントロールをし、密になることを避けることができます。特に出張や外出の少ない業務内容の部門では出社率が高くなりやすいため、在宅勤務を取り入れることは効果的です。



利用時間と利用者を特定できる仕組み作り

感染者が発生した際に濃厚接触者を把握するためにも、だれがいつこの座席を利用したのかを把握できる仕組みをあらかじめ用意しておくとよいでしょう。例えば座席を利用する際には机に設置されたQRコードを読み取り、座席番号と日時を記録する方法などがあります。




新時代のワークスタイルABWとは

オフィスのあり方を見直すうえでフリーアドレスと同様に注目を集めているワークスタイルとしてABW(Activity Based Working)があります。


ABWとは

ABWとは働く場所だけでなく働く時間も自ら選択できるワークスタイルのこと。狭義ではオフィス内で好きな場所を選んで働けるスタイルを指す場合もあります。この場合、ソロワークができる集中エリアやミーティングスペースなど、業務内容に合わせて一人ひとりが社内のスペースを選び、必要に応じて場所を移動しながら働きます。
テレワークやリモートワークが当たり前になりつつありますが、働く場所をオフィスに限定せず、業務内容やスケジュールにあわせて自宅やカフェ、コワーキングスペースなどを使い分ける働き方もABWと言えます。

【関連記事】ABWエービーダブリュー



フリーアドレスとABWの違い

どちらも個人の机を決めずに好きな場所で仕事をするシステムですが、フリーアドレスはどちらかといえばスペースや座席などの物理的な側面で効率化をめざし、ABWは、従業員の働き方や行動面に重きを置き、生産性や働きやすさの向上をめざします。


ABWの始め方

ABWの導入にあたっては、業務内容や目的に合わせて多様な働く場所を選べるスペースの構築やツールの整備、ペーパーレスに向けた資料の整備に加えて勤怠管理等のルール・制度の構築や評価制度の見直しなどマネジメント手法の変革も必要です。しかし何より大切なのは導入の目的やメリットを理解してもらい、一人ひとりが自律的な働き方へシフトしていくように促すことです。環境と制度、社員の意識など全体をマネジメントすることでABWを軌道に乗せることができます。



ABWの事例

信金中央金庫では激変する金融業界で新しい価値を提供し続けるため、本店オフィスのリニューアルに先駆けて総合企画部のフロアを改装し、ABWなワークスタイルを導入。役職者もそれ以外の社員も同じ仕様のデスクに座り、好きなタイミングで業務内容に応じて場所を変えながら自由に仕事をするワークスタイルを実践している。

〈記事本編〉信金中央金庫が「チャレンジする組織風土」の醸成に向けて挑んだABW〈後編〉




フリーアドレス、ABWのためのオフィス

フリーアドレスやABWを効果的に運用していくためには、オフィスに業務内容に合わせて快適に働ける場所が用意されていることが必要になります。自社、自部門の業務内容としてソロワーク中心なのか、ミーティングの人数はどれぐらいが多いのか、機密情報の取り扱いや来客の頻度はどの程度かなど、まずはしっかり現状を把握し、ヒヤリングやアンケート調査等を通して社員のニーズや課題を踏まえたうえで、目的に照らしてオフィスを設計していくことが大切です。
しかし、場をつくるだけではコミュニケーションやイノベーションは生まれません。社員同士の関わりを促進するルールや場を生かすマネジメントも同時に考えていくことが大切だといえます。

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まとめ

今回はフリーアドレスのメリットやデメリット、導入のポイントなどの押さえておきたい基礎知識をご紹介しました。
ニューノーマルなワークスタイルとなりつつあるフリーアドレスやABWで大切なのは、何を実現するために導入するのかという目的と期待する効果を明確にし、そのためにメリットをどう生かしながらデメリットに対処するかということ。
単純なオフィス面積の削減によるコストカットのためでは社員の共感は得られず、定着しにくいかもしれません。目的を共有しながら、新しい働き方を支える運用ルールやツールを準備することが重要です。



フリーアドレスのよくあるQ&A
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作成/MANA-Biz編集部