リサーチ

2021.06.16

副業を「したくてもできない」ワーカー多数

理解促進と環境整備に課題

働き方改革の一環として政府が推進する「副業」には、関心は高いものの実行するワーカーは少ないという実態がある。企業にもワーカーにも浸透していかない要因と、さらなる副業促進に向けて克服すべき課題を、コクヨ株式会社が実施した調査結果をもとに考察する。

政府による副業・兼業の普及推進

働き方改革実行計画をふまえて、厚生労働省が副業・兼業の普及を推進しています。

平成30年1月
・「副業・兼業の促進に関するガイドライン」作成
・モデル就業規則から「他の会社等の業務に従事しないこと」という規定が削除され、副業・兼業についての規定を新設

令和2年9月
・副業・兼業のルールを明確化するため、ガイドラインの改定を実施
・ガイドライン改定にともない、モデル就業規則の副業・兼業部分の記述を改訂

副業・兼業の普及推進は、人生100年時代に求められる多様な働き方の実現を目的としています。政府が示した「副業解禁」によって、これまで副業や兼業を禁止や一律許可制にしていた企業では、就業規則の見直しや環境整備が進められています。




副業に高い関心
メリットは収入増やキャリアアップ

調査では、約85%が副業に関心があると回答し、その理由は、「収入源の増」が圧倒的多数で1位。

政府の副業推進の背景には、多様な人材の活用や100年時代に向けたパラレルキャリア形成など、少子高齢による労働人口減少への対策としての期待が大きくあります。そして、企業にとっては人材確保の点での優位性を、個人にとっては生涯現役で働いたり、仕事以外のやりがいを持つことで人生を楽しむ、といった利点を打ち出しています。しかしその実情は、収入アップが一番の関心事であり、副業の目的は生活費の補填や老後資金の確保などであることが見えてきました。

新型コロナウイルスの影響で給与減や失業への不安が膨らんでいるなかで、金銭面・生活面のリスクヘッジとして副業がクローズアップされている影響もあるでしょう。

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一方で、「新たなスキルの習得」「企業人生後のキャリア」「人的ネットワークの広がり」など、キャリア形成の手段としての期待も高いことがわかります。コロナ禍の在宅ワーク経験から、柔軟な働き方がより現実味をもってイメージできるようになったことで、視野が広がったと考えられます。

副業への期待は人それぞれですが、副業によるメリットが広く浸透していくことで、それを魅力と感じるワーカーは、今後も増えていくと考えられます。




副業に踏み切れない理由

調査では、85%もの人が副業に関心を示している一方で、進行形も含めて副業経験がある人は22.9%、「副業準備中(12.9%)」を含めても35.8%にとどまり、半数近くが「関心はあるが、行動には移していない(48.9%)」と回答しました。関心があっても、なかなか実行に移せない要因は何なのでしょうか。


副業を許可されるまでのハードルが高い

当調査の対象者抽出のために実施した事前調査では、勤務する企業で副業が「認められていない」という回答が62.9%にのぼっていました。政府の推進もあって気運が高まっているとはいえ、まだまだ副業は広く普及しているとはいえません。しかし、要申請などの条件つきも含め、37.1%が副業を許可している点は、副業ニーズに対して門戸を広げ始めている企業が確実にあることを示しています。

一方、企業規模500名以上のワーカーに限定した集計では、「認められていない」の割合が高くなっています。認められていても申請が必要である場合が多く、企業規模が大きいほど、副業の導入が進んでいない実態が読み取れました。

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時間が捻出できない

副業に対する不安・疑問として、もっとも多く挙げられたのは、「時間の捻出方法」でした。本業のフルタイム勤務の傍らで副業をこなすのは、時間的にも体力的にも簡単なことではないため、不安を感じるワーカーが多いようです。



副業の始め方がわからない

多くのワーカーにとって副業へのハードルになっているのが「自分に合った副業の見つけ方」。副業に関心はあるが行動できていない層では、「時間の捻出」への不安と同じレベルで、「見つけ方」への疑問が大きいことが読み取れます。

「副業実現のためのステップとサポート」「社会に通用するスキルの身につけ方」「周囲に副業経験者がなく、質問できない」「副業の進め方・事業に対する相談相手」などからは、副業の始め方自体がわからないワーカーが多い実情が読み取れます。

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本業に及ぼす影響が大きい

副業が本業に及ぼす悪い影響を聞くと、「離職」「上司・同僚との人間関係」「配置転換」がトップ3。時間捻出の難しさとも関連しますが、多くのワーカーは、副業によって本業がおろそかになることを懸念していると考えられます。その結果として、会社内での信頼関係が損なわれることや、配置転換や離職につながる不安が生じているのではないでしょうか。

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企業にもワーカーにもプラスになる
副業の実現に向けて

調査結果からは、副業への関心が高いわりに、実践には至っていないワーカーが多いことがわかりました。関心とは裏腹に必要性を強く感じていないため、積極的な行動に至っていないと考えられます。

また企業側の消極的な姿勢も今回の調査からは見えてきています。実情は予測の域をでませんが、副業を認める必要性やメリットを感じていないことが要因の一つと考えられます。特に少子高齢化による人材不足の影響をあまり受けていない大企業にとっては、副業人材を採用する緊急性もなく、社員の副業ニーズに対する理解も進みづらいのかもしれません。

しかし、新型コロナウイルスの影響で、これまでの働き方や暮らし方が大きく変わってしまったように、事業も企業の存続すらも先行きは不透明です。ワーカー自身もこれまで以上に将来に不安を感じ、副業という選択をする人が増えることも予想されます。企業もまた、ポストコロナ時代の持続的な発展を考えたとき、副業の必要性やメリットを今以上に意識するようになるでしょう。

現状、副業に対する不安や懸念、理解不足など課題は多々あり、また制度などの面からも副業を簡単に導入できない状況も考えられます。また、副業も多様な働き方の一つであり、すべての企業、すべてのワーカーに必要なわけではありません。ただし、企業とワーカーの双方にとってメリットがあるのも確かです。働き方改革の一環として捉え、副業を企業の枠を越えてワーカーの自律性を育て、モチベーションを上げる施策と位置付ければ、その意義も見えてくるかもしれません。副業ありきではなく、その意義を判断したうえで、制度や環境とセットで見直していく必要があるのではないでしょうか。


調査概要

実施日:2021.3.09-10実施

調査対象:社員数500人以上であり、また「副業(複業)」を容認している企業に勤務しているワーカー

ツール:WEBアンケート

回収数:309件
 

【図版出典】Small Survey「副業に対する意識」



河内 律子(Kawachi Ritsuko)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
ワーキングマザーの働き方や学びを中心としたダイバーシティマネジメントについての研究をメインに、「イノベーション」「組織力」「クリエイティブ」をキーワードにしたビジネスマンの学びをリサーチ。その知見を活かし、「ダイバーシティ」をテーマとするビジネス研修を手掛ける。

作成/MANA-Biz編集部