リサーチ

2021.05.12

「幸せに働く」ための体験と環境

仕事観の現在地から導くこれからの働き方

働き方が多様化した現在、ポストコロナに向けてこれからの働き方はどうあるべきか。ワーカーが幸せに働くことを促す体験や価値観、それを受け止める環境をあきらかにすべく、約6000名に意識調査を実施。これから組織が注目すべき「幸せに働く」要件について、コクヨ株式会社ワークスタイル研究所の田中康寛が解説する。

「幸せに働く」を構成する11の体験

意識調査をもとに、ワーカーが働く中でどのような時に幸せを感じるかを分析したところ、「対自分(働き方因子)」「対仲間(コミュニケーション因子)」「対組織(エンゲージメント因子)」の3つのカテゴリに分けられることがわかりました。さらにこの3つのカテゴリを細かく見ていくと、11の体験が仕事の充足に影響を与えていることが見えてきました。この11の体験それぞれがどのように仕事の充足につながるのか、詳細を見ていきましょう。

4_res_197_01.png


「対自分」で働くを満足させる体験

まず自分自身と対峙したときの体験として、次の5つを得られると充足を感じやすいという結果が出ました。

  1. ① セルフマネジメント:自分の意思で仕事をコントロールできる
  2. ② 現業の喜び:いま仕事を通して喜びを感じられる
  3. ③ 自分らしさへの自信:仕事やキャリアなどの意思決定する際、自分の感性や強い思いを信じられる
  4. ④ 精神的・社会的な健康:過度なストレスなく働けて、かつ社会とのつながりを実感できる
  5. ⑤ 適切な評価と対価:自身の能力や成果に対して、想定通り・想定以上の評価が得られる



「対仲間」でコミュニケーションを満足させる体験

次に仲間と対峙したときの体験、つまりコミュニケーションに関連する体験としては、次の4つがあります。

  1. ⑥ 心理的安全性:チームメンバーと恐れなく話しあえ、助けあえる
  2. ⑦ 人脈拡張性:社内外の幅広い人と出会えて、関係性を築ける
  3. ⑧ 相互影響する関係性:チームメンバーと学びあい、高めあい、敬いあって、互いによい影響を与えあえる
  4. ⑨ リーダーからのやる気の伝導性:リーダーとともに働くと強いモチベーションを得られる



「対組織」でエンゲージメントを満足させる体験

最後に組織と対峙したときの体験、言い換えるとエンゲージメントに関連する体験は、次の2つがあります。

  1. ⑩ 所属の誇らしさ:所属する組織で働くことに誇りや意義を感じられる(プラス要素を増やす体験)
  2. ⑪ 組織の正しさ:経営層や同僚から誠実さや正しさ、多様性を感じられる(マイナス要素をなくす体験)


これらの11の体験を増やすことで、ワーカー一人ひとりの幸福感を高めることができます。自社の組織やチームの中で、不足している体験、足りている体験は何かを議論し、足りない要素があれば重点的に工夫していくことで、より幸福感を得やすい職場づくりにつながると考えられます。




ワーカーの仕事観を構成する
7つの要素

一方で、働くうえで何に価値を見出すかは人それぞれ違います。また、新型コロナウイルス感染拡大の前後でそういった仕事観が変化した人も少なくないと思われます。では現在ワーカーはどのような仕事観を持っているのか、そもそも「仕事観」とはどんな要素で成り立っているのかを見ていきます。

今回の意識調査によって、「仕事観」は次の7つの要素で構成されていることがわかりました。

  1. ① 働くことの愛好性:仕事の立ち位置。仕事あっての生活か、生活あっての仕事と考えるか
  2. ② 働き方のパーソナライズ志向:自分自身で働き方をカスタムしたいか、組織に委ねたいか
  3. ③ 上昇志向:出世や報酬といったインセンティブを重視するか、あまり気にしないか
  4. ④ オンリーワン志向:自分の意思を重視するか、周囲の空気と馴染むことを重視するか
  5. ⑤ 個人志向:個人活動が好きか、集団活動が好きか
  6. ⑥ コミュニケーション積極性:話すことに対して能動的か、受動的か
  7. ⑦ 安定志向:慣れ親しんだ状況が続くような日常性が好きか、新しい出来事に遭遇する非日常性が好きか

これらのどの要素に強く価値を置くかという視点で類似した人を分類すると、7つのタイプに分けられます。これらを「行動基準」と「集団との関係性」の2軸でマッピングすると、図のように分けることができます。

4_res_197_02.png


集団での居心地を大切にし
組織での役割を全うするワーカー

右上の第一象限には、「#1:存在感と立ち位置を吟味する編曲家タイプ」と「#2:プライドを持って組織の役割を全うするオーケストラ奏者タイプ」の2つのタイプが存在します。 細かくみるとそれぞれ違いはありますが、組織文化や組織の方針を大切にし、組織の一員であるという意識が高く、集団になじむことを大切にしながらその中で自分の色も出したい特徴が見られます。



仕事と私生活を柔軟に行き来しながら
チームに貢献するワーカー

左上の第2象限に属するのが「#3:公私の心地よさを追求する音響エンジニアタイプ」です。ここに属するワーカーはワークライフバランスを重視し、馴染みのある業務や自身の専門業務を好みます。公私のバランスを取るためか、仕事を自ら推進する姿勢は相対的に低く、助け合えるチーム環境を求め、自身はチーム内での役割を全うしようとする傾向があります。



自らの探究心で世の中に
影響を与えたいワーカー

左下の第3象限に属する2つのタイプが「#4:自己の世界観を探索する作曲家タイプ」と「#5:自分らしい専門を探究するシンガーソングライタータイプ」です。この象限のワーカーは自らの力で仕事を完結させて成果を出したいという、やや個人主義的な仕事観が強い一方、自分の興味がある分野や専門分野に対して情報感度が高く、そのための対話には積極的なのが特徴的です。



個性を融合して新しい世界を生み出したいワーカー

右下の第4象限には2つのタイプが存在します。1つ目は「#6:協働で仕事を豊かにするバンドマンタイプ」。さまざまな個性を持っている人の架け橋的な存在になることに価値を置くタイプです。2つ目は「#7:自分とチームの最適性を統率するジャズ奏者タイプ」。仕事に積極的で、チームの個性を融和するというよりそれぞれの個性を生かしながら切磋琢磨し、高め合う関係性をチームに求めるタイプです。

これらの4象限、7タイプと照らして、自組織のタイプ構成比を知ることで、人材の現状から組織目標を描きやすくなります。また、ワーカー個人にとっても、自分はどのような仕事観をもっているのか、仕事に何を求めているのか、自己理解を深めることにもつながっていくはずです。




ワーカーが幸せに働くための
働き方・働く場のこれから

最後に、よい体験を誘発し、ワーカーの仕事観を受け止めるためにオフィスに期待される「場」とはどのようなものかも考えていきたいと思います。リモートワークも経験し、元の働き方に完全に戻ることはないだろうと予測される中、どのような働き方がワーカーの充足につながるのか。意識調査を読み解くことで、ポストコロナ時代の幸せに働くことができるワークスタイルとオフィス環境が見えてきました。



職種と充足度の関連性

職種では営業、研究職、専門職に就くワーカーの充足度が高い傾向があります。これらは独自性を求められやすい職種ですが、そのような状況が充足度を高めやすいといえます。組織に与えられた業務をやるだけでなく、個性を求められるような仕事を受けることで充足を得やすくなるといえます。



チーム人数や職務数と充足度の関連性

チームの人数という切り口では、苦楽を共にする仲間が多い環境の方が充足度、とりわけ心理的安全性が高まる傾向があります。孤立させず仲間と感じられる人を増やすことが充足度を高めるために重要といえます。 また、職務数で切り取ると、一つの仕事だけに従事するよりも、兼業・副業を含めて社内外で職務やプロジェクトを掛け持ちする方が充足度は高まりやすいことがわかります。



家庭環境と充足度の関連性

さらに家庭環境においては、私生活が充実している程仕事の充足度も高まりやすいことがわかります。たとえば、子どもの成長を日々感じられる、家族の愛情を感じられるなどの環境が、仕事へのモチベーションや幸福度にも影響を与えます。そう考えると、組織は業務面だけでなく、福利厚生など生活面のサポートも充実させることで、より幸せな働く環境を生み出せると考えられます。

このように社員の置かれる環境が仕事の充足に強く影響を与えるため、社員のニーズに真摯に目を向け、意図的に環境を変革することが組織の幸せを高めるうえで重要だと言えます。

4_res_197_03.png



田中 康寛(Tanaka Yasuhiro)

コクヨ株式会社 ワークスタイル研究所 / ワークスタイルコンサルタント
2013年コクヨ株式会社入社。オフィス家具の商品企画・マーケティングを担当した後、2016年より働き方の研究・コンサルティング活動に従事。国内外のワークスタイルリサーチ、働く人の価値観調査などに携わっている。

文/中原絵里子