リサーチ

2021.05.24

後継者不在は企業の深き悩み

同族承継は限界、黒字企業も廃業の危機?

株式会社帝国データバンクは2020年10月、『全国企業「後継者不在率」動向調査(2020年)』を実施。その結果から後継者決定状況と事業承継動向などについて考察する。

※2020年10月時点の企業概要データベース「COSMOS2」および調査報告書ファイルをもとに、2018年10月~2020年10月の3年間を対象として実施。

調査対象企業の約65.1%が
「後継者不在」と回答

4_res_194_01.jpg少子高齢化による人材不足は年々深刻化している。そのなかで企業にとって重大な課題となっているのが、「後継者がいない」という問題だ。特に中小企業においては近年、後継者が見つからないために事業が黒字でも廃業を選択せざるを得ないケースも増えてきている。日本政策金融公庫の調査によると、60歳以上の経営者のうち半数以上が廃業を予定しており、そのうち約3割が廃業理由として「後継者難」を挙げている。

株式会社帝国データバンクが実施した『全国企業「後継者不在率」動向調査(2020年)』によると、約26万6000社(全国・全業種)のうち約65.1%にあたる約17万社で、「後継者不在」の状況。これは、同調査が開始された2011年以降で最低の数値である。




地域別の後継者不在率
人材は「都市部集中」の様相か

地域別の後継者不在率を見ると、9地域中5地域で、前年よりも数値が上昇している。動向に特徴が見られる地域について解説する。

  • ■関東地方(65.2%)、近畿地方(66.3%)
  • 前年より後継者不在率が低下、かつ数値自体も過去最低。少しずつ後継者不在の状況が改善されていることが読み取れる。
  • ■北海道(72.4%)
  • もともと後継者問題が最も深刻だった地域。不在率は4年連続で低下しているが、数値は依然として全国一の高さ。
  • ■中国地方(70.8%)
  • 後継者不在率が全国で二番目に高い。また、2年連続で上昇。回復傾向にある北海道よりも深刻な状況かもしれない。
  • ■九州地方(62.7%)、四国地方(55.5%)
  • 他地域と比較すると数値自体は低いほうに見えるが、5年連続で後継者不在率が上昇。

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後継者候補は都市部に集中
地方ほど厳しい状況に

後継者不在率と前年比上昇・低下の幅を都道府県別にあらわした地図にも注目したい。

  • ・関東地方、近畿地方以外の地域で、後継者不在率の上昇幅が大きい都道府県が目立つ
  • ・後継者不在率の数値は、上位10県中4県が中国地方で占められているうえ、中国地方の主要都市を擁する広島県を除く4県で前年より上昇している。
  • ・主要都市を要する都道府県では後継者不在率が低下し、周辺地域で上昇するという傾向は、九州地方や東北地方などにも見られる。

以上のことから、後継者となり得る人材が都市部に集中し、地方の企業が苦境に立たされていることが顕著に読み取れる。

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後継者の選定方法に変化
「同族承継」が急減

4_res_194_04.jpg後継者不在の問題を解決するため、後継者の選定方法を改変する企業も増えている。2018年以降の事業承継が判明した全国3万3000社について、先代経験者と後継者の関係性を見てみると、2020年度は「同族承継」が2018年度より10pt下落。34.2%と高い水準にはあるものの、同族承継は急減傾向にあることがわかる。

かわりに上昇が目立っているのが、血縁関係によらない役員などを登用する「内部昇格」。2020年度は最多の「同属承継」と0.1ptしか差がない34.1%に達している。社外の第三者が就任する「外部招聘」にも増加傾向が見られ、国内企業の事業承継は、同族間での事業引継ぎから社内外の第三者人材へと移行している。

近年は若者が家業を継ぐことに対して消極的になっていることや、そもそも少子化で後継ぎがいないケースも多いため、おそらく同族承継は限界を迎えつつある。望む・望まないにかかわらず、今後は同族間での承継にこだわらない形が一般的になってくるだろう。




より多くの企業が
事業を継続できる社会を目指して

国内企業の後継者不在問題は、今後ますます深刻化が予測される。特に地方ではその波がいち早く到来している印象で、特に中小企業の存亡が危ぶまれている状況といえそうだ。

一方で、事業継続のために後継者の選定方法を見直す企業が増え、最近ではM&Aも活発化し、譲渡企業と譲り受け企業のマッチングを行う仕組みなども出てきている。国も救済に動いており、中小企業庁が2017年7月に事業承継支援を集中的に実施する「事業承継5ヶ年計画」の策定を皮切りに、中小企業の経営資源の引継ぎを後押しする目的で開始した「事業承継補助金」の運用など、円滑な事業承継に向けた積極的な支援が進んでいる。

また、新型コロナウイルス感染拡大を機に、地方移住を視野に入れ始めたビジネスパーソンも少なくないため、人材の都市部集中が緩和される可能性も残されている。オンライン化やリモートワークが進めば、離れた地域の企業で取締役を務めるようなスタイルも一般的になってくるかもしれない。

今後は後継者不在に加え、新型コロナウイルスの影響による業績悪化が追い討ちとなって、廃業を決断する企業が増えてくるかもしれない。事業承継支援の活発化や、従来の形にとらわれない承継方法を模索することで、地方の経済や雇用を支える企業たちが、力強く生き残っていくことを願わずにはいられない。


【出典】株式会社帝国データバンク『全国企業「後継者不在率」動向調査(2020年)』
作成/MANA-Biz編集部