リサーチ

2017.06.16

米ワークスタイルに見る生産性改善のヒント

効率的な会議や集中した業務をサポートする環境がカギに

労働生産性を上げることは、多くの企業にとって差し迫った課題だ。公益財団法人日本生産性本部が2016年に行った発表によると、2015年の日本の生産性水準(就業1時間当たりの付加価値)はOECD加盟35カ国中20位。就業者1人当たりの労働生産性も同35カ国中22位と、良い結果とは言い難い。一方アメリカは、時間当たりの労働生産性において5位、就業者1人当たりの労働生産性において3位と、日本との格差が目立つ。日米間のワークスタイルを比較しながら、その解決の糸口を考察してみよう。

三井不動産株式会社と三井デザインテック株式会社は、先進的なオフィスやワークスタイル制度を導入していることで知られるシリコンバレーエリアを中心に、オフィスのあり方や働き方の把握を目的とした意識調査を実施した。
そのデータを見て、まず特徴的なのは、業務全体に占める打ち合わせの割合だ。社内外での打ち合わせが日本の21.5%に対して、アメリカでは28.2%にものぼる。その分、日本ではデスクワーク業務に多くの時間を充てている。また、個人での企画政策といった「創造業務」以外の、定型的な処理業務などに充てる時間が、アメリカが18.7%なのに対して、日本は24.5%と大きな差があることがわかった。
 
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打ち合わせの回数に関して見ると、アメリカのほうが日本よりも多い。日本では1日の平均回数が1.4回であるのに対し、アメリカでは3.8回。なんと3倍近くもの差があるのだ。
 
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1回あたりの打ち合わせの平均時間自体は、日本が46分、アメリカが41分と大きな差は見られないが、アメリカは、30分以下の打ち合わせが53%と過半数を占めている。
また、1回の参加人数の平均は、アメリカの方が多く6.8名/回。それだけ打ち合わせを重視する土壌も備わっているのだろう。
 
ワーカーたちが積極的に会議に参加し、短時間で数多くの打ち合わせを行っているアメリカに対して、日本企業の場合はどうか。開催回数が少ない分、打ち合わせも「会議」として重々しく捉えられがちではないだろうか。さらに「目標が曖昧」、「結論がいつまでも出ない」といった状況に陥って、実際の時間以上に長く感じられる会議を経験された方も多いだろう。
近年、日本企業における「会議の弊害」が叫ばれ、その「回数の多さ」や「時間の長さ」が効率的に労働を進める妨げになっているととらえられがちだ。しかし、このように日米で比較してみると、問題はそこではないことがわかる。つまり「量」より「質」の問題であり、アメリカの企業で、日本以上に数多く打ち合わせが行われているという事実は、それが生産的で、参加者が疲弊しない効率的なものであることに他ならない。
 
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このような風土の醸成には、オフィス環境の果たす役割も大きいと考えられる。
アメリカの企業には、業務効率化のためのスペースがかなり高い割合で備えられている。プレゼンルーム(93.1%)をはじめ、カフェテリア(69.5%)、運動のためのスペース(55.1%)、キッチン(88.9%)など、オフィシャル、プライベートの両面で、社員同士が顔を合わせ、コミュニケーションを取れる設備が多く備えられている点も興味深い。また、集中作業コーナーを備えた企業も多いが、それも普段コミュニケーションを取りやすい環境なだけに、時にはコミュニケーションをシャットアウトすることが必要なのかもしれない。
 
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業務スペースなどを共有し、参加者同士のコミュニティ育成も期待できるコワーキングスペースの利用割合を見ても、アメリカでは41.1%であるのに対し日本では3.8%と、その使用頻度に大きな開きがあるようだ。
 
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生産的な打ち合わせが積極的に行われ、社員同士が密にコミュニケーションを取れる環境でありながらも、個人の作業を行う時はそれに没頭できる――アメリカの先進的な企業のように、創造的な業務を重視しながら、仕事にメリハリをつけやすい職場づくりが、労働生産性を向上させるうえで、日本企業においても早急に必要になってくるだろう。
 
 
(出典)「USオフィスワーカー調査 2016」(三井不動産株式会社/三井デザインテック株式会社)、「労働生産性の国際比較 2016 年版」(公益財団法人日本生産性本部)をもとに作成
 
作成/MANA-Biz編集部