リサーチ

2016.06.22

スマートワークの3つの誤解

日系企業が導入に遅れをとる理由とは?

全世界的に進むスマートワーク化。ところがIT先進国である日本の企業が、外資系企業に比べて大幅に遅れをとっている。

ワークスタイル変革の必要性は、今やほとんどの企業が感じている。特にICT技術の著しい発展により、ノートPCやタブレット、スマートフォンなどを使って社外で業務を行うスマートワークは、ダイバーシティ推進や、生産性向上を実現させるとして注目を集めている。
ところが、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社が2015年に行った調査では、日系企業と外資系企業を比較した場合、スマートフォンなどスマートデバイスを使ったメールチェック、スケジュール確認などの軽作業、タブレット・ノートPCを使ったもっと重い社外勤務のいずれにおいても、全社的に認めている割合に大きな差があることが判明した。
 
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例えば軽作業に関する許容度においては、全社的に認めている日系企業はわずか19%なのに対し、外資系企業は67%。タブレット・ノートPCでの社外勤務については、日系企業は8%と1割にも満たないのに対し、外資系企業は60%におよぶ。多様な人材活用と労働時間適正化に対応するために外資系企業がスマートワーク導入に積極的なのは当然としても、なぜ日系企業はここまで遅れを取っているのか。そこには要因として、スマートワークに対する3つの誤解が考えられる。
 
ひとつは、スマートワークでは「業務管理が困難」という点。フェイス・トゥ・フェイスを重んじる日本人にとっては、遠く離れて業務をしている部下の作業内容や進捗を、適切に把握できないと思われがちだ。次に、デバイスの導入やシステム整備など「労働コスト削減額以上にICTコストがかかる」という点。そして、「情報漏洩リスク」である。
 
しかし、これらは大きな誤解だ。まず業務管理については、最近ではプレゼンス(在席や離席)確認 可能なユニファイドコミュニケーション (様々な通信手段を1つのネットワークに統合してコミュニケーションが取れるようにする仕組み)やログ管理システムなどが発達しているので、社内とほぼ同様のコミュニケーション環境を実現することは十分可能。業務内容の明確化や、適切なタイミングでの進捗把握、成果による評価の徹底がカギであり、「近くにいるだけでなんとなく安心」という状況より、ずっときめ細かい管理が可能だ。
次にコストの問題だが、実際にはICT技術によって、労働コストはもちろん組織全体のコスト削減に繋げることができる。従業員の通勤費用、電子化による印刷諸経費などを削減し、離職率改善によって採用や育成費用なども削減できる。また、オフィススペース削減の検討や私物端末を業務利用することなどで、スマートワーク活用のコストも抑えることが可能だ。
情報漏洩リスクについては、ICT技術の活用によっていかに社外で安全に業務可能な環境をつくるかにかかっている。端末にデータを残さずに作業できる技術や、端末の盗難・紛失時にそなえてリモートワイプ(データの遠隔消去)する技術を導入するなど、適切な環境を整備すればよい。むしろ、スマートワークの環境がないために、セキュリティ規則に違反してプライベートアドレスに業務資料を転送するなど、情報漏洩に繋がる行為が行われてしまうかもしれず、逆にスマートワークの導入がセキュリティリスクを低減してくれる可能性もある。
 
このように、スマートワークで考えられる諸問題には既に対処法があり、技術向上にともない導入のハードルは下がってきている。実際に導入した企業の、それらのリスクを乗り越えているという現実が、今後の普及を強く後押しすることとなるだろう。
 
 
 
(出典)『ワークスタイル実態調査』2015 年版(デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)をもとに作成
 

 

作成/MANA-Biz編集部