組織の力

2024.02.16

アルミニウム総合メーカー・UACJが目指す企業文化改革〈前編〉

働き方改革推進の軸として新しい企業文化を醸成

株式会社UACJは、古河スカイ株式会社と住友軽金属工業株式会社の経営統合によって2013年に誕生した、世界有数のアルミニウム総合メーカーだ。グループ企業も含めて約9500人の従業員を有する同社では、2010年代後半から新しい企業理念策定や社員のエンゲージメント向上を通じて企業文化の改革に取り組み続けている。取り組みを推進した同社の斎藤和敬氏(新しい風土をつくる部部長)、熊谷規一郎氏(人事部 人事企画・労政グループ長)、草留大輔氏(人事部 人事ビジネスパートナーグループ長)、最首英一氏(人事部 人事ビジネスパートナーグループ主査)に、コクヨ株式会社コンサルタントの坂本崇博がお話を伺った。
左から)坂本崇博、最首英一氏、熊谷規一郎氏、草留大輔氏、斎藤和敬氏

働き方改革推進のカギは
目指すべき姿を明確に打ち出すこと

――企業文化改革や理念策定に取り組み始めた理由は?


坂本:若手ワーカーの意識変化やビジネス環境の変化が著しい中で、今後多くの企業が企業文化改革に取り組むことが予想されています。そのなかで御社は、2010年代後半から取り組みを開始し、新たな事業創出も実現していらっしゃいます。そもそもどのような経緯から改革に取り組み始めたのですか?

熊谷:UACJでは、2017年度に社長直轄の働き方改革プロジェクトチームを設置し、社員が健康にイキイキと仕事をするための取り組みを始めました。当初は残業削減などを通じて労働時間管理を進めたのですが、「そもそも目指すべき姿を明確にして一人ひとりの意識に訴えかけなければ、働き方も根本的に変わるはずがない」と考えました。
そこで、まずは若手社員に向けたワークショップを開催し、「調整に追われる働き方はやめて、より価値の高い仕事に時間を振り分けていこう」と目指すべき理想の姿を共有しました。

1_org_177_01.jpg 熊谷規一郎氏

草留:当時は役員会議のための予定調整といった付帯業務が多かったですからね。ペーパーレス化も進んでいなくて、今から考えると非効率な業務もたくさんありました。

斎藤:私は異業種からの転職で2018年に経営企画部に異動したのですが、UACJの企業理念に関して、"らしさ"がないことに課題感を感じていました。また、石原社長からは「UACJの事業内容や目指す姿を体現するスローガンが必要」という意見もありました。
そこで、企業理念とスローガンを新たにつくることを決め、まずはUACJらしさを明らかにしようと国内外の社員ヒアリングを行いながら、ポイントをまとめていきました。

坂本:自社の強みを見直すことは、他社との差別化を図るのに役立ちますが、社員のエンゲージメントを高めるうえでも重要です。「どこを目指すべきか」が定まっていれば、働き方改革の必然性も高まり、会社としての求心力も強くなりますね。

斎藤:その通りです。2013年の統合以降、旧古河スカイ、旧住友軽金属だけでなく、UACJの新卒やキャリア採用の社員の人数も厚みを増してきました。
多様な背景をもつメンバーが社内に増えたのはよいことですが、UACJらしさが曖昧になり、会社としての求心力が低下する懸念もありました。そこで、改めて明確な企業理念を打ち出し、その理念に基づく企業文化を醸成する必要があったのです。

1_org_177_02.jpg 斎藤和敬氏




理念・ビジョンや新たな文化は
時間をかけてこそ浸透する

――企業文化変革や理念浸透に向けてどんな活動を実施したのか?


坂本:企業文化の変革に向けて、具体的にどんなことに取り組んだのですか?

熊谷:当時は経営層と一般社員の意識差が大きいことが課題だったので、役員の意識改革に力を入れました。一人ひとりにインタビューしたり、効率的で付加価値の高い働き方を実践しているコクヨのオフィスを役員全員に見学してもらったりしました。
スケジューラーを一般社員に公開する効果や重要性に気づいたり、時間意識を高めたりする役員が多く、大きな成果を感じました。一般社員と役員との距離も確実に縮まったと思います。

草留:階層別研修の様子を見て気になったのは、議論や情報共有の際のコミュニケーションでした。たとえば管理職層向けの研修で少人数に分かれて議論する際も、各グループにホワイトボードを設置しているのに使っている姿が見られず、どのグループも口頭ベースの空中戦のようなコミュニケーションスタイルだったのです。
仕事においても、業務内容が見える化されていないため、管理職の社員を中心に暗黙知・暗黙の了解で物事が進んでいく印象を受けました。若手や中途入社の社員にとっては、不安が多い環境だったと思います。
そこで、管理職向けに「心理的安全性」を高めるためのコミュニケーションをテーマにしたセミナーを実施し、部下との接し方を改めて見直してもらいました。

1_org_177_03.jpg 草留大輔氏

坂本:研修やセミナーという形で日常から離れて時間をとることも、企業文化変革には重要ですね。一方で、新たな理念が完成したのもその頃ではなかったですか?

斎藤:2020年2月です。「理念は浸透させることこそ大切」という社長の意向から、社長と社員数名がディスカッションするスタイルで「理念対話会」をスタートしました。ちょうどコロナ禍が始まったころだったので、しばらくはオンライン開催、コロナが落ち着いてからは対面で行っています。
当初は、理念対話会1回につき社員20名を集めたのですが、対話が成り立ちにくいので人数を減らし、現在は6名程度に落ち着いています。4年弱かけて、過半数の社員に向けて理念浸透のための語りかけを行うことができました。
部署・地域によっては部長や製造所長、グループ企業の社長も、石原社長に代わって対話会を開催し、積極的に語りかけています。
また、対話会のスタートと同時期に、「新しい風土をつくる部」も発足させ、これからのUACJに必要な好奇心や挑戦心、未来志向に満ちた風土づくりに着手しました。

最首:私は2023年にキャリア採用で入社しました。UACJの誕生は2013年ですが、経営統合前からの歴史も考えると非常に伝統ある素材メーカーで、古い体質の企業ではないかという先入観がありました。しかし、エンゲージメント向上など社員を大切にする取り組みにも力を入れていることを知り、感動を覚えました。

1_org_177_04.jpg 最首英一氏

坂本:理念・ビジョンの浸透のための取り組みは他社様でもよく聞きますが、御社では少人数とじっくり話す対話会を何回も実施し、じっくりと浸透活動をなさっています。そもそも理念浸透は一朝一夕で実現するものではない、と先を見すえて取り組んでいらっしゃる点がすばらしいですね。



――2010年代後半から取り組んできた改革の成果と今後の課題は?


坂本:2010年代後半から新しい風土づくりや企業文化改革、人材開発に取り組んでいらっしゃるわけですが、現時点での成果をどのようにとらえていらっしゃいますか? 今後の課題もあれば、あわせてお教えください。

斎藤:登山に例えれば6~7合目といったところでしょうか。新しい風土をつくる部では組織風土改革のための取り組みを続けていきますが、今後は私たち主導というよりそれぞれの工場やグループ企業が自走し、それぞれの文化をつくっていけるよう後押ししたいと考えています。

熊谷:働き方改革プロジェクトでは、会議の効率化などの成果を出すことができました。ただ、コロナ禍が落ち着き、新しいビジネスツールが多く出てきた中で、「必ずしも必要とはいえない対面会議が増えてきた」「チャットなどのツールを使いこなせていない」といった課題もみられるようになっています。
さらに、数年前とは若手ワーカーの意識が変化し、ワークライフバランスをより重視する社員が増えて、中堅社員との意識に差があるのも気になっています。改めて今の時代に求められるワークスタイルをとらえ直し、新しい働き方に変えていくことが求められています。

草留:人材開発の視点から言えば、変革はまだまだ道半ばだと感じています。コロナ禍によって効率的な働き方が実現した面もありますが、コミュニケーションの機会が減少したのは気になるところです。同じ部署で働くメンバー同士で本音を共有する場を増やすなど、新しい働き方に向けて舵を切る潮目に来ているのかな、という気がします。

最首:多くの社員は組織・風土改革に対して協力的ですが、まだ拠点間でモチベーションにばらつきがあるのが気になっています。ただ、積極的に取り組まない人にも必ず何らかの理由があるはずなので、消極的な人の声も拾いながら改革を進めていきたいと思います。

後編では、UACJが近年力を入れているエンゲージメント向上の取り組みについて、引き続きお話を伺っていく。




株式会社UACJ

古河スカイ株式会社と住友軽金属工業株式会社の経営統合によって2013年に発足。「素材の力を引き出す技術で、持続可能で豊かな社会の実現に貢献する。」という企業理念のもとに、アルミニウム圧延品(板製品)の生産において、国内外でトップクラスの規模を誇る総合アルミニウムメーカー。

文/横堀夏代 撮影/ヤマグチイッキ