組織の力

2023.10.18

国交省航空局安全部の働き方改革〈前編〉

魅力的な労働環境に向けてオフィスを刷新

「働き方改革」というキーワードは今や社会に浸透し、多くの企業・組織が従業員の働きやすさ・働きがいの向上を目指して取り組んでいる。しかし省庁では、例えば職員の労働環境向上のためのオフィスリニューアルを行うにしても、民間企業とは違った視点や工夫が求められる。国土交通省航空局安全部で働き方改革・オフィス改革を担当した藏智彦様に、コンサルティングを通じて支援を行ったコクヨ株式会社コンサルタントの坂本崇博がお話を伺った。
左から)藏智彦様、坂本崇博

よりよい航空行政の実現には
働きがいのある労働環境づくりが不可欠

――職員の働きが向上に取り組んだ理由は?


坂本:今回のオフィス改革は働きがいの向上が出発点になっていますが、そもそもなぜ「働きがい」に注目したのですか?

藏:まず、国交省の職員を含めた働き手の意識変化が挙げられます。ワークライフバランスを重視する傾向が強まり、自分の求める労働環境が満たされなければ、公務員であっても転職する人が増えています。
国交省も含め多くの省庁では国会対応などの業務もあり、場合によっては時間外業務も容認されてきました。民間企業で働き方改革が進む中で、「やりがいはあっても過酷な労働環境では働きたくない」と考えるワーカーや学生が増えてきたことから、採用競争力が下がってきたことは否めません。

坂本:確かに多くの民間企業では労働条件の整備を徹底するようになり、いわゆる「ホワイト」な環境を実現しつつあります。その中で省庁を選ぶ人が減り、優秀な人材を採用できなければ、国民によりよい行政サービスを提供することも将来的に難しくなってきますね。

藏:また、航空行政が近年になって大きく変わり、従来の航空機に加えて、ドローンや空飛ぶクルマにまで行政対象が拡大しています。
例えばドローンは一般の方が家電量販店でも購入できるため、航空局安全部の職員もこれまでとは違った意識で職務に取り組む必要が出てきたのです。

坂本:日本のあらゆる組織でも、技術革新に伴って今までとは違った製品や付加価値を消費者に届けることを求められるようになりました。しかし航空局様では、民間企業や個人が空を利活用するのが当たり前になってきた状況の中で、「空の安全」を提供しなければならないわけですね。

藏:ただでさえ採用競争力が落ちこむ中で、新たな行政ニーズにもしっかりこたえていかなければいけないという状況に、強い危機感を感じておりました。
そこで、私たちは、時代の変化に適応した航空行政サービスを提供できるよう、組織として目指すべき姿を「ビジョン」として明確化し、職員の意識を変えていくとともに、ビジョンの一つの柱に「働きがい溢れる職場」を掲げ、民間企業にも負けないような魅力ある組織の実現に向けた取組を推進していくこととしました。

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――オフィス変革を決めた経緯は?


坂本:「働きがい」にはいろいろな要素がありますが、その中でもオフィス環境に着目したのはなぜですか?

藏:2021年度から働きがい向上の取り組みを始めるにあたって、まず全職員に向けてアンケート調査を実施し、「あなたにとって働きがいを阻害する要因になっているものは何ですか?」と質問しました。集計結果を見ると、オフィス環境に対する不満が圧倒的に高く、「現状のオフィスに満足している」と回答した職員が全体の30%程度にとどまっていたのです。オフィス改革は喫緊の課題だと感じました。

坂本:今回、モデルオフィス構築の取り組みに応募いただいた際、航空局安全部様からは並々ならぬ熱量が感じられて...。オフィス改革の実現には、「現状を変えたい」というパッションが大切なので、ぜひお手伝いさせていただきたいと感じました。
オフィス環境への満足度がかなり低かったとのことですが、その原因はなんだとお考えですか?

藏:航空行政範囲の拡大によって全体の業務量が倍増したため、職員数を増やさなければならず、オフィスが手狭になったことが大きいですね。

坂本:民間企業ならばオフィス増床などを検討するところですが、省庁だからこその難しさがありそうですね。

藏:増床するとなると莫大な費用がかかりますからね。国民のみなさんの貴重な税金を使うわけにもいかないので、できるだけコストをかけずに実現したいと考え、知恵を絞りました。

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オフィス変革で目指したのは
コミュニケーション・心のゆとり・制約人材の働きやすさ

――オフィス変革に際して目指した完成形は?


坂本:オフィス環境を変革するにあたっては、明確なイメージを固めて取り組むことが成功のポイントと言われています。思い描いた理想の姿はありますか?

藏:目指したのは、「一人ひとりがやりがいを感じながら働ける職場環境」でした。この具現化に向け、実現させたかったポイントが3つあります。
①コミュニケーションがとりやすい環境
②職員がゆとりをもって働ける空間の醸成
③育児・介護などの事情を抱える職員が働きやすい環境づくり


――ゆとりをもって仕事ができる空間をつくるための具体的な取り組みは?


藏:①の「コミュニケーション」は、職員間・管理職と職員などがコミュニケーションしやすいよう、打ち合わせスペースを増やすのはもちろん、スタンディングで打ち合わせができるコーナーなどをつくりました。


坂本:②の「空間のゆとり」は、増床ができない中で実現するのは難しかったのでは?

藏:そうですね。ただ、リニューアル前は職員20人のデスクが横一列に並ぶ圧迫感のあるレイアウトだったので、一人ひとりがゆったりと仕事ができる環境をつくることは必須でした。

坂本:確かに、そのようなレイアウトでは同じチーム同士でも会話が限られますし、チームを超えたコミュニケーションも難しそうです。

藏:そこで、少しでも座席スペースをとるために、まずはペーパーレスに取り組み始めました。書棚の数を70台から30台に減らすことができました。

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坂本:5割超の削減はすばらしいですね。ほかにもゆとりある空間をつくるための工夫をなさったのですか?

藏:③の「働きやすい環境の実現」とも直結するのですが、コロナ禍をひとつのきっかけとしてテレワークを取り入れたことに伴い、座席数を減らしてフリーアドレスを導入しました。テレワーク導入後はオフィスに空席も目立ってきたので、席数は少なくても支障はないと判断したのです。

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坂本:そのほかにも、オフィスの中央にグリーンを配置し、隣接した皇居の緑を眺めながら仕事ができるよう窓際にカウンター席を設置なさっていますね。

藏:メンタル面でもゆとりをもって働ける環境をつくるために、これまでのオフィスにはない遊び心を加えたいと考えて取り入れました。

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組織としての一体感を高めるためには
明確なビジョンを策定することが不可欠

――フリーアドレスやペーパーレスの取り組みに反対の声は上がらなかったのか?


坂本:フリーアドレスもペーパーレスも、省内では航空局安全部様で初めて実施なさったと伺っています。フリーアドレス化によって各職員様用の引き出しもなくなったわけですが、反対の声はなかったですか?
民間企業のフリーアドレス化をお手伝いしていると、「書類を保管できなくなって困る」といった意見をよく聞きます。

藏:公務員だからかもしれませんが、「組織として一度決めたことは全面的に協力する」という姿勢は職員の間に浸透していました。
また、「一人ひとりがやりがいをもって働ける職場環境」というビジョンに共感してもらえたことも大きかったです。スムーズに変革を推進できて、とてもありがたかったです。

坂本:「組織として決めたことには全面協力する」という一体感は、行政に関わる方々ならではだと感じます。「なぜ変えるのか」を理解・共感してもらうためにも、納得度の高いビジョンを策定して示すことは、働き方改革やオフィス変革に不可欠と言えそうですね。
このノウハウは、省庁様に限らずオフィス改革や制度変更に取り組む担当者のかたは、大いに参考にできるのではないでしょうか。




国土交通省航空局安全部

仕事や観光においてさまざまな地域や国との架け橋となっている空港や飛行機。空の安全を確保し、航空利用者に利便性の高い航空サービスを提供しながら航空分野の発展を担う。

坂本 崇博(Sakamoto Takahiro)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント/働き方改革PJアドバイザー/一般健康管理指導員
2001年コクヨ入社。資料作成や文書管理、アウトソーシング、会議改革など数々の働き方改革ソリューションの立ち上げ、事業化に参画。残業削減、ダイバーシティ、イノベーション、健康経営といったテーマで、企業や自治体を対象に働き方改革の制度・仕組みづくり、意識改革・スキルアップ研修などをサポートするコンサルタント。

文/横堀夏代 撮影/石河正武