組織の力

2023.09.05

書類削減・電子ファイリングで働き方を変える

JR東日本ビルディングの成功事例に見る、ペーパーレス化の始め方・続け方

柔軟な働き方の実現に向けてペーパーレス化の重要性が高まっているが、オフィスに蓄積された大量の書類を分類・廃棄したり、電子書類を整理・管理したりするのは簡単ではない。本社移転にあわせてオフィスの書類削減と電子ファイリングに取り組んだ、株式会社JR東日本ビルディングの事例を振り返りながら、同社総務部シニアマネージャーで書類削減活動事務局の土屋律子様に、コクヨ株式会社コンサルタントの立花が成功のポイントを伺った。

書類削減の目的・目標値を明確に決めて取り組む

――書類削減に取り組んだ理由は?

土屋:2022年に本社の移転が決まっていたので、そのタイミングにあわせて書類に縛られない働き方にチャレンジしようと書類削減に着手しました。

1_org_172_01.jpg
立花:「何を目的とするか」によって書類削減の進め方も変わります。これまでさまざまな企業様の書類削減をお手伝いしてきた経験では、取り組む目的は「業務効率化」「情報共有の促進」「働き方の見直し」の3つに大きく分けられます。
JR東日本ビルディング様の場合は「働き方の見直し」が第一の目的だったわけですね。

土屋:もちろん「働き方の見直し」以外の2項目も実現したい意向はありました。ただ、本社移転という大きな節目にワークスタイル変革を実現したい思いが強かったのは確かです。今回、書類削減に取り組むにあたってお手伝いくださる企業を複数検討したのですが、コクヨさんは「将来どんな働き方をしたいか」に着眼を置いてご提案くださったので、その考え方に感銘を受けてお願いしようと決めました。

1_org_172_02.jpg

――目標削減量はどのように決定した?

土屋:実は2016年にも本社を移転し、その際は社員のみで取り組んだのですが、「どのくらい減らすか」という目標値を設定するのが難しく、中途半端に終わってしまったのです。そこで今回は、他社様の事例を豊富にご存じのコクヨさんにコンサルティングをお願いし、目安となる数値も提示してもらいながら、社員1人あたりの書類量を2.2fm(※1)に減らすという目標値を設定しました。

(※1)fm(ファイルメーター)とは、オフィスにおける書類量を把握するための単位。A4の書類が床から1メートル積みあがると1fm。

立花:私たちがこれまで書類削減を支援してきた企業様は、1人あたり6~8fmの書類をお持ちの場合が多く、今回もまさにそうでした。そこで、コクヨがご支援した企業様の削減後の平均値である2.2fmをご提案しました。
目標値を決めるときに、企業のトップが「8割削減」などと設定される場合もあります。しかし、現状の書類量を把握しないまま目標値だけ決めても、減らすのにどれだけ負荷がかかりそうかがわからず、社員の方は不安になるだけです。さらに、削減対象は書類だけなのか、それとも文房具や書籍も含むのかによっても取り組み方は変わってきます。
まず「書類量はどれだけあるのか」「削減対象は何か」を決めたうえで着手することを強くお勧めします。

1_org_172_03.jpg




上位役職者を巻き込んで推進する

――書類削減はどんな流れ・スケジュールで進めた?

土屋:まず書類削減前に現状調査をしていただき、改善ポイントの洗い出しと目標値の設定を行いました。その内容をもとに、各部署の推進担当メンバーが中心となって3回に分けて削減に取り組み、最後にもう一度現状調査をしていただき、成果を検証しました。かけた期間は約半年です。

立花:余裕をもったスケジュールを組むのは、書類削減をスムーズに進めるための重要なポイントですね。多くの企業様では部署によって繁忙期が違うため、全社的に短期間で進めようとすると「うちの部署は、その時期は忙しいから無理」といったことが起こりうるのです。でも半年間あれば、余裕のある時期を選んで取り組むことができます。

――推進担当メンバーには、どんな人を選出?

土屋:各部署から、副部長やシニアマネージャーなどを選出してもらいました。担当者が若手だと、自分の部署の社員を巻き込んで削減活動を進めるのが難しいかも、という懸念があったからです。

立花:企業様の書類削減プロジェクトをお手伝いするにあたって、事務局の方から「どんな人を選べばよいですか?」とよくご質問をいただきます。その際には、「できるだけ上位役職の方をアサインしてください」とお勧めしています。若手社員が担当だと、非協力的な上司に働きかけづらいからです。その意味で今回は、とてもよいメンバー選出をなさったと思います。

――そのほかの成功ポイントは?

立花:今回のプロジェクトですばらしいと思ったのは、代表取締役社長の石川様が自らペーパーレス化に向けて意欲的に取り組んでくださったことです。書類削減マニュアルに掲載いただいた社長メッセージでも「ペーパーレス化は新たな挑戦の一つです。私も皆さんと一緒に取組んでいきたいと思います」と明言していらっしゃいました。トップが率先して取り組むことが求心力となり、書類削減が進みやすくなります。

土屋:石川社長は新しい働き方に対して非常に意欲的に取り組んでおり、すでに経営会議などもペーパーレスで行っていましたが、モニターを追加設置し役員への個別説明にも紙資料を持ちこまないようにしました。これにより会議等のために紙資料を準備するという習慣がなくなりました。自分がワークスタイルを変革したい思いがあるからこそ、社員にも力強く発信したいと考えたのではないでしょうか。
成功ポイントということでいえば、書類を減らすにあたって、「廃棄」「電子化」のほかに「外部倉庫に保管する」という選択肢を提案していただいたこともよかったと思います。書類を廃棄するかどうか決めるのは難しいので、「とりあえず外部倉庫へ送っておけばいいのか」と気が楽になりました。

立花:外部倉庫がお勧めなのは、履歴が必ず残るからです。1年間で1回も社員が倉庫から取り寄せたり、閲覧したりしなかった場合は「その書類は不要」と判断する基準になります。
一方、自社オフィス保管だと、多くの社員が「自分は書類を閲覧していないけれど、廃棄すると困る人がいるかもしれない」と考えるため、なかなか「廃棄」に至らないのです。書類削減で、もし80%削減を目標とする場合、目安としては「廃棄40%・倉庫30%・電子化10%・オフィス保管20%」をご提案しています。

1_org_172_04.jpg




成功体験と実績をもとにさらなる展開

――書類削減に取り組んだ効果は?

土屋:取り組み前には571.8fmだった書類量を165.5fmにまで減らすことができました。また1人あたりの書類量も、目標だった2.2fmを下回る1.8fmを達成できました。

立花:取り組み後のオフィスで現状を見させていただいたところ、いずれの部署でもデスク上や足元、キャビネットの上などに書類が積み上がっているといったことがまったくなく、リバウンドも起こっていませんでした。

土屋:取り組みの成果として、社員の間にマインドチェンジが起こったことも見逃せません。以前は複数の人が同じ書類をためこんでいたりしたのですが、今は「できるだけ書類を持たない」という意識が浸透しています。モニター増設などもあわせて行ったので、ミーティングを行うにしても1人ひとりに書類を配布する必要がありません。サッと集まってモニターを見ながら話ができるため、「生産性が向上した」という声もよく聞きます。

――書類削減の成功体験をどのように活かす?

土屋:また、コクヨ様にご協力いただいて電子文書の整理にも取り組み、全社で共有しているフォルダの体系やファイル名のつけ方を見直しました。その後各部署でも、それぞれの業務内容にあわせてルールを決め、整理を行ってもらいました。整理完了後のフォルダは、第一階層がとても見やすくなり、「必要な書類が見つからない」といった声がゼロになりました。

立花:さまざまな企業様で電子文書の整理をお手伝いする中で、企業様が抱えている課題は10~15項目に集約されることがわかってきました。そこで今回は、課題チェックシートをお渡しして改善に取り組んでいただきました。

土屋:現在は、新宿本社の書類削減である程度の成果が出せたので、ほかの事業所でも取り組みを展開しています。ただ、今回は移転を伴うものではないので、モチベーションをどのように維持するかが課題です。

立花:平常時に書類削減を行うときは、「業務効率化」などの目的を掲げることが多いのですが、やはり社員の皆様のやる気を保つのが困難な場合も多々あります。そこで、オフィスの移転やリニューアルの際は、ぜひ書類削減や電子文書の整理もあわせて取り組むことをお勧めしたいです。





株式会社JR東日本ビルディング

JR東日本グループの不動産事業を担う企業として2005年設立。「駅・街・人をつなぎ、新たな価値の創造をめざす」を企業理念に、オフィスビル等の貸付業やコンファレンス運営事業のほか、JR東日本と連携したまちづくりなどにも取り組む。

立花 保昭(Tachibana Yasuaki)

コクヨ株式会社ワークスタイルイノベーション部 ワークスタイルコンサルタント/1級ファイリング・デザイナー/オフィスセキュリティコーディネータ
1990年コクヨ入社。出向した総合商社での大手流通業向け中国製品の開発・輸入・販売、コクヨでの開発営業、及び上海でのカタログ通販ビジネス立ち上げ等の経験を生かし、現在は企業向けの働き方改革の制度・仕組みづくり、意識改革・スキルアップ研修などをサポート。

作成/MANA-Biz編集部