ブックレビュー

2022.05.09

漫画『トリリオンゲーム』に共感する、"何をするか"より"誰とするか"にこだわるビジネス

働く人の心に響く本:人生観に影響を与えた一冊

仕事をするうえで大切なのは“何をするかより、誰とするか”。“誰と”にこだわり続けると、“何をするか”も自然と決まっていく。起業するうえで大切なことを学んだ、面白法人カヤックCEOの柳澤大輔氏の人生観に影響を与えた一冊が漫画『トリリオンゲーム』だ。

島根県にある人口2,200人の離島・海士町(あまちょう)で生まれた出版社「海士の風」は、顔の見える関係性を大切に丁寧な本づくりをしています。連載「働く人の心に響く本」では、海士町と共感で繋がり、様々な分野で活躍する"人生の先輩"が選んだ一冊を「海士の風」の出版プロデューサーが紹介します。


漫画だから描ける非現実的なサクセスストーリーが
起業家としての発想を広げてくれる

今回の一冊を紹介いただいたのは、面白法人カヤックCEOの柳澤大輔(やなさわ・だいすけ)さん。2018年・2019年にはビジネス書大賞の審査員を務められるなど、つねに数冊の本を持ち歩くほどの本好き。ビジネス書に限らず様々なジャンルの本を読まれています。

3_boo_001_01.jpgそんな柳澤さんが「自分の価値観に影響を与えた一冊」に選んだのは漫画『トリリオンゲーム』。
物語は、中学時代から腐れ縁の2人が、大学卒業後すぐにベンチャー企業を立ち上げるところから始まります。何をするかは決まっていないのに、1兆ドル(トリリオンドル)稼ぐことを夢みて爆走していく...。主人公は、悪いことも爽やかにやってのける常識破りのハルと、地道にITスキルを身につけていく気弱なガク。この対照的な2人がタッグを組んで、ゲームを制覇するように成長する物語です。

『トリリオンゲーム』(原作:稲垣理一郎、作画:池上遼一 小学館)1~3巻まで発売中

「自分の価値観に影響を与えた一冊」というテーマに対し、なぜこの漫画を選んだのか...、その理由として柳澤さんは次のように語ります。
「ベンチャー企業の成功物語ですが、意外とリアルな要素がある。一方で、ベンチャー企業を運営する身からすると、逆にあり得なさすぎる展開もあって笑えます。実社会ではある種のモラルハザードでもあるルールを一切守らない方法でのしあがっていく太々しさが、漫画なので楽しく読めつつ、知らず知らずのうちに自分の発想を拡げてくれます」




20年経っても変わらないビジョン
"何をするかより誰とするか"

この漫画の中には、柳澤さんの体験に似たエピソードがあります。狭い部屋で畳の上に膝をつき合わせながら、「さて、何から始めよう」と考えるシーンが漫画にあるのですが、『何をするか決まってなかったけど、誰とするかは決まっていた』というカヤックの創業時の状況に似ているのです。
柳澤さん曰く「そもそもカヤックを設立したとき、"何をするか"は一切決まっていませんでした。決まっていたのは、学生時代の友人3人が集まって、『仲間と面白い会社をつくろう』。それだけです。でも、不思議と"誰とするか"にこだわると、"何をするか"も後から自然と決まっていくものだなと経験から学びました」

カヤックという社名は3人の苗字の頭文字「カ(貝畑)、ヤ(柳澤)、ク(久場)」の組み合わせから生まれたそうですが、海好きの3人が「誰と」を大切にしている象徴のようにも感じます。柳澤さんは創業してから20年経った今なお、"何をするかより誰とするか"を会社のビジョンの1つとして大切にしているそうです。

"誰とするか"にこだわるうえで、柳澤さんが大切にしている組織のあり方があります。 「時には助け合い、時には本気でぶつかり、そういった人と人との関係の中にこそ真の成長がある。自分の成長だけではなく、仲間の成長にコミットする。仲間の成長を誰よりもうれしく思える。それこそが、個人が組織に所属することの価値です。だからこそ、カヤックは、仲間にこだわる、そんな組織にしていきます」 この柳澤さんの言葉からも、何よりも人を大切にした経営を心がけていることが伝わってきます。




社会課題へのヒント

柳澤さんはこの本を選ばれたもう一つの理由として、この作品の作り手についても触れています。
「作画担当の池上遼一先生は漫画界の大御所ですが、80歳を目前としながらもコミカルな絵を描き、新境地にチャレンジし続けている。クリエイターとしての姿勢に感動を覚えます。また一方で、原作の稲垣先生は、まだ40代半ば。この一回りも違う世代がタッグを組み、新たな境地を開拓しているところに、今後の高齢化社会のヒントを感じます」

年齢を重ねてもクリエイターとして新たな挑戦を続けている姿。また年齢差を超越して、"誰とするか"を大切にしたことで生まれたこの『トリリオンゲーム』という作品に、自身の体験を重ねつつ、こう在り続けたいという想いを新たにされたのかもしれません。

創業から20年以上に渡り"何をするかより誰とするか"にこだわり続けてきた柳澤さん。彼が80歳になったとき、どんな人と組んでどんな挑戦をされるのでしょう。『トリリオンゲーム』の主人公、そして作者の生き様を、柳澤さんらしくどう表現されるのか、これからも挑戦を楽しみにしたいと思います。


柳澤 大輔(Yanasawa Daisuke)

面白法人カヤック代表取締役CEO。1998年、面白法人カヤック設立。鎌倉に本社を置き、ゲームアプリや広告制作などのコンテンツを数多く発信。SDGsの自分ごと化や関係人口創出に貢献するコミュニティ通貨サービス「まちのコイン」は全国14地域で展開中(2021年11月時点)。さまざまなWeb広告賞で審査員をつとめる他、ユニークな人事制度やワークスタイルなど新しい会社づくりに挑戦中。著書に「鎌倉資本主義」(プレジデント社)、「リビング・シフト 面白法人カヤックが考える未来」(KADOKAWA)ほか。まちづくりに興味のある人が集うオンラインサロン主宰。

萩原 亜沙美(Hagiwara Asami)

海士の風 出版プロデューサー。大学卒業後、京都にまちづくり系NPOを共同で立ち上げ、2010年に海士町へ移住。海士町のスローガン「ないものはない」を念頭に、島にないものを仲間とつくりだす。生きる力と幸福度が高い。

海士の風(あまのかぜ)

辺境の地にありながら、社会課題の先進地として挑戦を続ける島根県隠岐諸島の一つ・海士町(あまちょう)。そんな町に拠点を置く「海士の風」。2019年から「離島から生まれた出版社」として事業を開始。小さな出版社なので、一年間で生み出すのは3タイトル。心から共感し、応援したい著者と「一生の思い出になるぐらいの挑戦」をしていく。

作成/MANA-Biz編集部