ビジネスに役立つ哲学

2021.11.02

不安について

ビジネスに役立つ哲学10:不安との向き合い方

「不安なことなど一つもない」…と言える人がどれだけいるだろう。何に不安を感じるかは人それぞれだが、多くの人は、日々暮らし働くなかで、大なり小なり不安を抱えているものだ。そんな頻繁に心に現れる不安とどの様に向き合えばいいのだろうか。

「不安との向き合い方」について、フランスの3人の哲学者の「考え方」を紹介しよう。もし、彼らが「不安を感じること」について悩んでいる、現代に生きる私たちにメッセージを送るとしたら、きっとこんな言葉をかけてくれるはずだ。
※「ビジネスに役立つ哲学」の連載では、作家でありモラリストでもある大竹稽氏が、フランスの哲学者になりきって、現代の迷い、悩めるワーカーにメッセージを送ります。


現状と自分に誠実であれ。そうすれば、不安などいつの間にか消えるだろう


3_phi_001_02.png不安には、さまざまな要因がある。もしあなたの不安が、自分が思い描いていたものと、現状とのギャップに起因するなら、私はあなたに伝えなければならない。
「いいじゃないか! ようやく、あなたは夢うつつから抜け出すきっかけを得たのだから」

自分の現状を認めたからこそ、理想とのギャップに悩み始めたのだろう。あなたがどのような夢を持っていたとしても、現状を抜きにして夢に到達することはできない。

そして、現実とのギャップに気づいてしまったら、誰の心にも不安が滑り込んでくるものだ。だから、「不安になるな!あなたらしくない!」なんてアドバイスは、的外れだ。
「不安をなくそう!」という意識だと、あなたはもっと不安に苛まれることだろう。誰もが不安と付き合わなければいけない、まずはここから始めようじゃないか。

さて、次に私たちがすべきことは、「自分を欺くな!」ということだ。
あなたはどうだろうか? 他人から欺かれるたら、非常に腹が立たないだろうか? そんなあなたが、自分を欺くことに無頓着でいられるとしたら、それはなぜだろうか?

自分を欺く者は、現状を認めようとしない。現状を自分以外のもののせいにして、愚痴や不満ばかり垂らしていることだろう。

決っして偽物にはなるな。偽物は自分の不安をごまかす。他人にも自分にもごまかす。
あなたは今、自分に不安があることを認め、それを告白できたのだ。自分を偽らないから出来たのだ。

現状は変えることは出来ない。しかし、あなた自身を変えることはできるし、理想を変えることもできる。まずは、思い描いていた夢など捨ててしまおう。それにしがみついたままではあなたの本当の実力は発揮されないだろう。

現状と自分に誠実であれ。そうすれば、不安などいつの間にか消えていることだろう。(ラ・ロシュフコー)





不安に支配されるな!いったん立ち止まり自分を見つめ直す時間をつくろう


3_phi_001_04.png不安。これはわたしたちの想像力が生み出すものだ。
想像力というものは、二十一世紀日本に暮らすあなたたちにとっては、高めるべき能力とされているかもしれない。

だが、想像力にはマイナスの面もあり、害悪にもなりえる。
想像力は、わたしたちを支配する。小さいことを誇張したり、ありもしないものをあるように見せかけて、わたしたちを混乱さる。想像力は、誤謬と虚偽の女王なのだ。

この想像力が生み出すモンスターの一つが、不安だ。
不安というものは実に厄介だ。形がないゆえに、易々とわたしたちの内に侵入し、内側から支配してくる。
さらに厄介なのは、不安という存在を気づかせることで、さらに不安を助長させてしまう。こうして、わたしたちは不安に支配されてしまう。魂まで......。

では、どうすればよいのか?
きっとあなたは、これまで頑張ってきたのだろう。まずは、そのガムシャラな頑張りを止めてしまおう。つまり、ドントストップ! という状態をストップさせてみるのだ。 そして立ち止まったら、外部からの情報を閉ざし、自分一人で過ごす時間をつくってみよう。その時間は、あなたのためだけにある、最高に豊かな時間になるはずだ。(パスカル )





不安に悩まされるより、今できることを全うし続けることだ


3_phi_001_01.pngあなたの不安の原因が、まだ起こってもいないことにあるなら、わたしはこのようにアドバイスする。
「『きっと苦しむだろう...』と不安に思う者は、すでにその不安によって苦しんでいる」まだ起こってもいないことに、大事な今が侵害されてしまう。それが「不安」の毒素といえるだろう。

例えば、あなたは日々、責任ある仕事に励んでいる。でも...、仕事に失敗するかもしれないという不安、あるいは、目標に到達できないかもしれないという不安、あるいは、給与が少なくて将来が不安...、といった気持ちを持っているかもしれない。

もし、このような不安から、思う存分働けなくなってしまったら、あなたはどうするのだろう。「なんとか不安を払拭したい...」、そう願うだろう。

でも、そこが間違っている。不安はどうしようもないものだ。
不安は、なくそうとしてもなくならない。むしろ、なくそうとすればするほど、あなたは不安によって悩まされることだろう。

失敗するかもしれない...。その可能性もあるだろう。だが同じように成功する可能性もある。将来がどうなるかわからない...。それはそうだ。でも将来のことは誰にもわからない。

そして、この「わからない」ことによる不安も、どうしようもないことなのだ。
「わからない」ことをわかろうとして無理することはない。「わからない」ことは「わからない」ままにしておこう。

私たちができることは、今できることを全うし続けることだ。失敗することより残念なのは、実力が発揮できないまま終わってしまうこと。目標に達成できないことより、目標達成以前に諦めてしまう方が、問題じゃないかな。給与の少なさを打破できるのは、将来のあなたではなく、今のあなたなのだ。

しばしば不安は私たちの足元を掬ってくる。そうならないように、しっかり足元を踏みしめて歩いて行こうじゃないか。(モンテーニュ)




大竹 稽 (Ootake Kei)

教育者、哲学者。1970年愛知県生まれ 旭丘高校から東京大学理科三類に入学。五年後、医学と決別。大手予備校に勤務しながら子供たちと哲学対話を始める。三十代後半で、再度、東京大学大学院に入学し、フランス思想を研究した。専門は、カミュ、サルトル、バタイユら実存の思想家、バルトやデリダらの構造主義者、そしてモンテーニュやパスカルらのモラリスト。編著書『60分でわかるカミュのペスト』『超訳モンテーニュ』『賢者の智慧の書』など多数。東京都港区や浅草で作文教室や哲学教室を開いている。
大竹稽HP https://kei-ohtake.com/
思考塾HP https://shikoujuku.jp/