リサーチ

2021.09.09

ワクチン接種によって働き方はどう変わる?

テレワークは継続しつつ我慢を強いられている自粛からは解放されたい

2021年5月から本格化した新型コロナウイルス感染症のワクチン接種は、大企業を中心に職域接種も進んでいる。コロナによって働き方は一変したが、ワクチン接種が進めば、ワークスタイルはさらに変化する可能性が高い。ワクチン接種後の働き方について、ワーカーはどう予測を立て、どんな希望を持っているのか。コクヨ株式会社が実施した調査結果から考察する。

ワクチンの接種状況

今回の調査は「ワクチン接種後の働き方」ですが、その予備調査として約4200人のワーカーに、ワクチンの接種状況を質問しました。2021年7月25日時点で、15.9%のワーカーが2回、17.5%が1回接種を終えています。

自治体では高齢者から優先で接種を開始するケースが多いため、現役世代は自治体よりも職域接種を受けた人が多くなっています。

4_res_215_01.png ちなみに厚労省が発表した職域接種の接種実績は、8月29日までに2回目接種が5,798,323回、1回目接種が7,426,698回となっています。商工会議所による中小企業複数社の合同接種も行われるようになり、職域接種を受けるワーカーは今後も増えていくと予想されます。




ワクチン接種によりワーカーの予防意識は低下する?

ワクチン接種後に予測されるワーカーの意識変化を知るため、「ご自身が現在気をつけていることがは、ワクチン接後にどのくらい意識が変わると思いますか?」と質問しました。その結果、「マスクやフェイスシールドの使用」「オフィス内での一定時間での換気」「テレワークの活用」といった感染予防に直結する項目は、「変わらず意識する」と回答した人が5~6割と多数みられました。

一方で、「同僚との業務外の会話を控える」「昼食はレストラン等の店舗利用を控える」などは、「少し意識が低下すると思う」と答えた人が4~5割に達しました。

コロナ禍が長く続き、ワーカーはさまざまな我慢を強いられています。ワクチン接種は、その閉塞状況を変えると期待されています。そのためか、仕事上必ずしも不可欠でない項目に関しては「少し意識を緩めてもよいのではないか」というワーカーの心理が見てとれます。




ワクチン接種により「職場の雰囲気は良くなる」

「ワクチン接種によって、職場の雰囲気は変わると思いますか?」という質問に対しては、「とても良くなると思う」「まあ良くなると思う」と答えた人の合計が、全体の約6割を占めています。逆に考えると、新型コロナの感染拡大以降は「職場の雰囲気が沈んでいた」と感じていた人が過半数いたことになります。

コロナ禍以降、多くのオフィスワーカーは、感染予防のために行動や会話を制限されてきました。また、テレワーク推進により自社へのエンゲージメントを感じづらくなっているワーカーも増加傾向にあるといわれます。こうした状況の中で、「ワクチン接種は行動制限解除につながる明るい材料」と判断した人が多かったようです。

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ワクチン接種後も「テレワークは続けたい」

従業員の多くがワクチン接種を終えた企業においては、働き方に何らかの変化が起こると予想されます。特に変わると考えられるのが出社率です。なぜなら、これまで出社を控えてテレワークを行っていたワーカーの中には、ワクチン接種後にオフィスへの出社回数を増やす人もいると予測できるからです。
また、コロナ禍において在宅勤務を推奨している企業が、コロナ収束後は出社を要請することも考えられます。

そこで、「同僚の多くがワクチン接種を終了した後に、あなたは現在の出社率をどうしたいですか?」、そして「自分の会社は、現在の出社率をどうしたいと考えていると思いますか?」と質問してみました。つまり、ワーカー自身の希望と、ワーカーが予測する会社の意向を調査したわけです。

その結果、ワーカー自身については、「現在の出社率を変えたくない(現状のままテレワーク主体で働きたい)」という人が65.4%と多数みられました。さらに、「現在の出社率よりも低くしたい(もっとテレワークを増やしたい)」人も17.5%いました。ワーカーは、コロナ禍によって急速に拡がったテレワークという働き方に慣れ、今後も続けたいと感じていることがわかります。

企業の意向については、「自社は現在の出社率よりも高めたい(オフィス出社を増やしたい)と思っているのではないか」と予測するワーカーが2割程度みられました。これらの結果からは、「自分自身はテレワークを望んでいるが課題もあり、会社は出社を求めるのではないか」というワーカーの複雑な思いが見てとれます。

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企業が出社率を上げたい理由...

「自分の会社は、現在の出社率をどうしたいと考えていると思いますか?」という質問とともに、「予測をした理由」も聞きました。ここで注目したいのは、「自分の会社は、現在の出社率よりも高めたいと思っている」と予測したワーカーの回答です。

「自社は出社率を高めたいと考えているのではないか」と回答した理由として、「社員同士の仕事上の会話量が不足しているから」「社員同士の雑談量が不足しているから」「新規事業やプロジェクトの推進スピードが不足しているから」「テレワークでの従業員の生産性が悪いから」を挙げた人が6~8割みられました。これらの回答はワーカーの予測であって、実際に企業側がこのように考えているとは断言できません。

しかし、長期間テレワークを行ったワーカー自身の不安(課題)を示している可能性は高く、テレワークで生じた課題に対してテレワーク推進前の状態に戻す「出社」が一番よい解決策になるだろうと考えていることが読み取れます。

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コロナ前に戻したくないこと

コロナ収束後に向けて、「集団免疫が定着した場合、コロナ前には行っていたことで、もう不要だと思うことはありますか?」という質問もしました。その回答からは、コロナ禍前のようなオフィス中心の働き方とは明らかに違う、新しいワークスタイルのあり方が見えてきます。

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オフィス中心の働き方

今回の質問の選択肢には含まれていませんが、大前提として多くの人が「もう不要」と考えていると推測できるのが、「オフィス中心の働き方」です。

前述した通り、「同僚の多くがワクチン接種を終了した後に、あなたは現在の出社率をどうしたいですか?」という質問に対して、65.4%の人が「現在の出社率を変えたいと思っていない」、17.5%が「現在の出社率よりも低くしたいと思っている(現在よりも多くテレワークを希望)」と回答しています。
ちなみに勤務先における現在の出社率も質問したところ、「1~30%(出社が3割以下)」が約3.5割、「31~50%(出社が全体の半数以下)」が約3割を占めています。つまり少なからぬワーカーが、「このままテレワークの働き方を続けたい」と考えているわけです。

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2020年に入るまで、企業におけるテレワークの実施率は低く、多くのワーカーはオフィス中心の働き方をしていました。そのワークスタイルがコロナ禍によってガラリと変わった今、「オフィスに縛られる必要はない」と感じている人は多数派のようです。



会社主催の集会やイベント

「もう不要だと思うこと」として、「全社朝礼などの大規模集会」「会社のアニバーサリーイベント」「表彰式や昇格祝いなどの式典」など大人数が集まる行事を挙げる人が目立ちました。
大規模な集まりは会場設置の手間や運営費がかかるだけではなく、今回のような感染症拡大のリスクも懸念されます。しかし、企業側にも大規模な集会やイベントを行ってきた理由があり、一足飛びに「やめる」わけにもいかないでしょう。

オンライン開催や動画配信、社内イントラ発表など、社会の変化に併せて発信ツールを変えていくなど、新たな浸透・発信を検討していくことが必要な時期に差し掛かっているのかもしれません。



紙文化

大規模な集まりに加えて、「会議に持ち込む紙資料」「稟議や決裁の紙文書での提出」「報告書など上司に提出する紙書類」なども、「もう不要だと思うこと」に挙げる人が4~5割と多くみられました。テレワーク浸透によって書類を直接受け渡しする機会が減ったことから、いわゆる紙文化に疑問を感じる人は増えたと考えられます。
今回の調査結果は、このようなワーカーの意識が端的に表れたものといえるでしょう。




コロナ前に戻したいこと

一方、「コロナ前の生活に戻したいこと」や「ワクチン接種後にやりたいこと」について質問したところ、「これまで我慢してきたこと」と思われる項目を挙げるワーカーが目立ちました。


リアルなコミュニケーション

「コロナ前の生活に戻したいこと」として3~5割のワーカーが挙げたのは、「夜の飲み会」「部や課の歓送迎会」の2項目でした。さらに、「ご自身のワクチン接種後に一番やりたいことは何ですか?」という質問に対して、「職場仲間との飲み会」と答えた人が全体の11.0%いたことも特筆すべきでしょう。

コロナ禍をきっかけに、ワーカー同士のコミュニケーションはオンライン中心へと切り替わりました。また、オフィスで直接顔を合わせていても、雑談を控えるよう企業から注意喚起されているケースも多々あります。今回の結果からは、「コロナ収束後は気兼ねなしに職場のメンバーとコミュニケーションをとりたい」というワーカーの意向が見てとれます。

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ワクチン接種をきっかけに働き方改革のさらなる推進を

今回の調査全体からは、「職場にワクチン接種者が増えることによってこれまで制限されていた行動が可能になる」と期待するワーカーが多いことが明らかになりました。ただし、「コロナ禍をきっかけに進んだ、テレワークなどの多様な働き方が逆戻りするのではないか」という不安も見てとれました。

「コロナに伴う行動制限が解除されること」と「働き方をコロナ前に戻すこと」は、決してイコールではないはずです。従業員のワクチン接種を一つのきっかけとして、ワーカー個人は行動範囲を少しずつ拡げながら自律的に働き、企業も働き方改革や業務改革を推進していくことが求められています。


調査概要

実施日:2021.7.24-25実施

調査対象:社員数500人以上の民間企業に勤めるワーカーのうち、テレワークを実施しているワーカー

ツール:WEBアンケート

回収数:309件

【図版出典】Small Survey「ワクチン接種後の働き方」


河内 律子(Kawachi Ritsuko)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
ワーキングマザーの働き方や学びを中心としたダイバーシティマネジメントについての研究をメインに、「イノベーション」「組織力」「クリエイティブ」をキーワードにしたビジネスマンの学びをリサーチ。その知見を活かし、「ダイバーシティ」をテーマとするビジネス研修を手掛ける。

作成/MANA-Biz編集部