リサーチ

2021.08.04

人事管理で注目のタレントマネジメントシステム

適切な人事配置・人材育成・人事評価を実現

IT化が進むなか、人事管理に用いるタレントマネジメントシステムが注目されている。『タレントマネジメントシステム導入の実態と課題』に関する調査結果から、企業の導入状況や課題などを読み解く。

※『タレントマネジメントシステム導入の実態と課題』に関する調査(2020年9月に株式会社HRBrainが、関東在住の経営・人事担当者(従業員規模30人以上)500人を対象に実施)

タレントマネジメントシステムの概要

タレントマネジメントとは、人材 のタレント(能力、才能)や保有スキル、経験値などの情報をデータ化して一元管理し、戦略的な人事配置や人材育成を行うこと。タレントマネジメントシステムは、データの集約、蓄積、管理、分析までを支援するITツールだ。

タレントマネジメントシステムの導入がもたらす企業への最大のメリットは、人材の適正配置ができること。社員のタレントを把握しデータとして管理することで、適した人材を適した場所・役割に迅速に配置することができるようになる。また、人事評価のプロセスも円滑化する。ワーカー個人にとっても、公平な人事評価が受けられるほか、自分の適性に合った職務に就くことで執務への意欲を高め、キャリアアップの追い風にもなると考えられている。




従業員規模の大きい企業ほど
導入に積極的

調査では、タレントマネジメントシステムを「現在利用している」「過去利用していた」の合計が16%。従業員規模別に現在・過去利用者の合算値をみると、従業員数「1000人以上」の企業が28%と突出して高く、次いで「300-1000人未満(16%)」「30-300(8%)」と、従業員規模が大きくなるほど利用率が上がっている。

従業員規模の大きな企業では、社員数の多さに加え、職種や業務も細分化され複雑であることが多いため、人事管理や評価が難しくコストもかかる。業務効率の観点からも、タレントマネジメントシステム導入に積極的になっていると考えられる。

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システム導入後の課題とは

タレントマネジメントシステムの利用経験者に、システム導入後の課題について聞くと、全体では「業務フローへの組み込み・定着化(34%)」が最も高く、「人事評価の運用がやりづらい(33%)」「データ不足で分析ができない(29%)」と続いた。

また、課題感には従業員規模によって差があり、なかでも「業務フローへの組み込み・定着化」「データ整理(データの事前処理など)」は、従業員数1000人以上の企業より、30人-1000人未満の企業が目立って高い傾向がある。規模の小さい企業では担当する人材の不足や、IT環境が十分でないケースもあり、システムを活用していくこと自体に課題があるようだ。1000人以上もまた、「データ不足で分析ができない」など、運用面の課題を抱えている。

「人事評価の運用がやりづらい」「データの一元管理ができない」といった課題からは、システムを十分に活用できていない状況がうかがえる。入社時の履歴、入社後の業務履歴、評価、健康診断の結果などの人材情報を別々に管理している場合などは、過去の膨大なデータを一つにまとめるのは大変な作業だ。記入項目の違いや類似項目の整理・調整などが進まず、なかなか一元管理ができないため、せっかくのシステムも活かしきれない、という状況もあるだろう。また、自社の目的に沿った運用ができて、社員が使いやすいUI・UXを備えているシステムを見極めなければ、かえって管理がしづらくなるケースもありそうだ。

どんなシステムでも導入後に適切な運用ができてこそ意義がある。運用定着化のための研修実施や、ときには外部からサポートを受けることも一助になるだろう。

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時代と共に変化する
人事評価・管理の体制

新型コロナウイルスによる急遽のリモートワーク導入では、人事評価・管理の課題が浮き彫りになった。リモートでは勤務時間を正確に把握することは難しく、成果は見えても業務のプロセスを細かく見ることはできない。また、コミュニケーションの機会が減少すると、マネジメント層は社員の勤務態度を目にすることができず、人事評価や適性の判断なども難しくなる。たとえチームで仕事をしていても、リモートワークでは一体感が失われ、社員のエンゲージメントの低下や、OJTでの人材育成ができなくなるという弊害もあるようだ。

リモートワークが進んでいけば、社員への支援・対応もより個別化していく必要がある。タレントマネジメントシステムは、こうした遠隔マネジメントの難しさを解決するためのツールにもなり得るだろう。社員のパーソナルデータを集約し分析することで、評価や人事配置はもちろん、個々人に合った育成プランの構築や、パフォーマンスを最大化するための施策を科学的に打ち出すこともできる。

人事評価・管理を「システムに頼る」と考えると、抵抗感を抱く企業やワーカーも少なくないかもしれないが、「頼る」のではなく、「力を借りる」と考えるのが良いだろう。

近年は、職種や業務、企業が求める能力、社会の価値観なども多様化し、人材も個性豊かな時代。人事担当者の経験や勘による人事評価・管理には限界が生じ始めている。タレントマネジメントシステムで社員の情報を可視化することで、より公平な評価や適切な人事管理が実現できるのではないだろうか。


【出典】株式会社HRBrain『タレントマネジメントシステム導入の実態と課題』
作成/MANA-Biz編集部