仕事のプロ

2021.08.27

将来「AIでなくなる仕事」の嘘と本当。10年後もなくならない仕事との違いとは?

労働力不足を補うためにもAIによる生産性向上は不可避

人工知能やロボットに関する技術の発展は、少子高齢化による労働力不足への対策として期待も大きいが、雇用に関する不安の声も聞かれる。AIによって代替され、なくなる仕事とはどのようなものか。逆に10年後もなくならない仕事とはどのような仕事が該当するのか。AIの得手・不得手も踏まえて解説する。

AI・ロボットの発展によって50%の仕事がなくなると言われている

2015年に「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能になる」という試算がオックスフォード大学と野村総研によって発表されたことはあまりにも有名です。またマッキンゼーの調査『未来の日本の働き方』によると、「2030年までに既存業務のうち27%が自動化され、結果1660万人の雇用が代替される可能性がある」と言われています。

しかしそれでも人口減による労働力不足は補いきれず、現在のGDP成長率を維持するためには自動化による2.5倍の生産性向上が必須となるそうです。 AIによって仕事が奪われるとの不安の声もありますが、奪われるというよりも、労働力不足の補完や、新しい仕事とそれに伴う雇用の創出などの付加価値を生み出すために自動化が進んでいくと言えそうです。


なぜAIによって仕事が奪われるのか?

技術の進化は著しく、これまで機械化・自動化は難しいと思われていた業務にも広がりを見せ、人間よりも機械の方がはるかに得意な分野が数多く誕生しています。機械化・自動化することによってヒューマンエラーの心配がなくなる、24時間稼働できる、圧倒的に処理能力が高く膨大なデータを短時間で処理できるなどのメリットを生み出すことができます。
そのため、AIが得意なものは代替させることで生産性を上げるという動きは極めて自然な流れとなっています。



いつの時代も新たなテクノロジー導入による仕事の代替は必然

19世紀における産業革命では製造業に機械が導入されて熟練工が不要になり、自動車の誕生で馬車の御者は自動車の運転手に職を奪われました。20世紀に入ってファックスやパソコン等のオフィスの機械化が進んだことで定型的な作業は激減し、ホワイトカラーが急増しました。
このように新たなテクノロジーの導入で一部の業務は代替されることになっても、そのテクノロジーを使いこなす立場となるか、テクノロジーで新たに生み出された仕事に就くなどのワークシフトはこれまで何度も繰り返されてきました。




AI・ロボットによって「なくなる仕事」

では具体的に技術の進歩によって代替されると予測される仕事にはどのようなものがあるのか、事例を見ていきます。


1.一般事務

入力作業やデータ処理はAIの最も得意とする分野です。紙で受けつけていたものがフォーム入力になるなど工程もデジタル化へシフトしており、ルーティン作業はマニュアル化しやすく人間よりもAIの方が正確に早く遂行できるため、代替される可能性は高いと言えるでしょう。



2.銀行員

FinTechで銀行業務が合理化され、送金や資産運用のアドバイス、融資の審査などはインターネット上で完結するようになりました。人の持つノウハウよりもAIが処理するビッグデータの方が圧倒的な情報量と正確さがあるため、今後さらにAIの活用は進むでしょう。
少なくとも窓口業務や査定、数字や文書のチェック作業などはAIに代替され、クライアントへのニーズのヒヤリングや商品の提案など人間にしかできない業務を担うことになっていくと予想されます。



3.警備員

監視カメラ技術の向上やセンサー技術の進化により、24時間365日一定レベルで監視することが可能になりました。不審者をカメラやセンサーで感知してコントロールセンターに通知させるシステムがすでに多くの設備で導入されています。
また、大型商業施設などでルートをインプットして巡回させる警備ロボットもすでに稼働しています。人間と違って疲れや眠気によって警備の精度が低下する心配もありません。
トラブルを感知することはできても対処はできなかったり、電気系統のトラブルによる停止やロボットが壊されたりするリスクもあるため完全機械化はまだまだ難しそうですが、かなりの割合を機械が代替していくと見られています。

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4.スーパー・コンビニ店員

電子マネーの浸透やスキャニング技術の向上などにより、無人コンビニなどの試験運用が始まっています。レジ打ちだけでなく在庫管理やイベント・天候などによる売れ筋の変化の把握等もAIの方が正確で素早く、膨大なデータ管理も確実にできます。単純なレジや品出しは機械化され、人数を絞って顧客対応など人がやるべき業務に集中していくことが予想されます。
またECの普及により小売店そのものが減っていき、インターネットでの通販がより一般化し、AIが個人に合わせた商品提案などを行っていくことも想定されます。



5.ホテルのフロントや受付係

受付処理などの単純でパターン化しやすいものは、タッチパネルでの受付など機械化しやすい業務の一つ。すでにロボットがフロントに立つホテルも誕生しています。
また自動精算機の導入により深夜や早朝のチェックアウトにも人手が不要になり、翻訳機の利用で海外からの顧客対応も最低限の言語スキルで事足りるようになってきました。
またAI搭載のタッチスクリーンで建物内の行きたい場所までのナビゲーションや音声認識でのチャット対応も可能となることが予想されるため、人が対応する必要はなくなっていきそうです。



6.タクシー運転手

自動運転技術が進化し、人を感知して止まるなどは一般的な車にもすでに搭載され始めています。今後AI自動走行に向けた技術開発はますます加速し、安全性が担保されて普及が進めば運転の仕事は範囲が限定されていく可能性があります。
高齢者への介助などより手厚いサポートを有人タクシーが担い、駅から病院までなど決まったルートの巡回はAIタクシーが担当するなど、ニーズに合わせて人と機械が分担していくことになるかもしれません。

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7.鉄道運転士・車掌

モノレールなどではすでにATO(自動列車運転装置)が導入されており、決められた軌道の上を走るため自動車より技術的には導入しやすいこともあって、自動運転技術の歴史は古く、かなり進んでいるといえます。
安全確保や天災などの非常時対応のため完全に無人化することは難しいとはいえ、運転士の作業負荷が大幅に軽減されるとこれまで車掌が行ってきた業務を運転士が担うことも十分考えられます。



8.工場勤務者

単純作業はオートメーション化しやすく、疲れることもヒューマンエラーもない機械の得意とする業務です。AI技術の発達により、人工知能を搭載したロボットアームやセンサーによる不良品や異物混入の発見、検品や在庫管理などを自動化することで品質向上やコスト削減、安全性の向上などのメリットを生み出すことができています。
倉庫から商品を取り出すピッキングや検品などの簡単な作業のみならず、熟練技術者の技能をディープラーニングで学習させてデジタル化するなども始まっており、ほぼ無人の工場が誕生する日もそう遠くないかもしれません。



9.建設作業員

画像認識技術やドローンの活用などにより、工事の進捗度合いを判定したり、クレーンや掘削機などの重機にAIを搭載し自動で操縦するなどの技術利用は始まっており、慢性的に人手不足が深刻な問題となっている建設業界も積極的にAI活用に乗り出しています。
また度重なる自然災害により安全性への関心が高まっているため、建物の安全性確認やシミュレーションなどにもAIが利用されています。従業員の高齢化が進む建設現場では技術の導入は急務となっているようです。

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AI・ロボットが発展しても「なくならない仕事」

どれだけ技術が発展しても機械では代替しきれない、人でなければできない仕事ももちろんあります。機械にできないこと、苦手なこととして「判断」「臨機応変な対応」「共感」「0→1を生み出す」などがあります。具体的にどのような仕事が「なくならない仕事」と言えそうか説明していきます。


1.医者

人の命を預かるため責任が大きく、専用の機器を使った繊細で複雑な手作業が求められる医者の仕事は完全機械化は難しく、AIに診断されることに対する患者の心理的抵抗感も大きいため、人の手を完全に離れることは当面なさそうです。
膨大なデータを解析して治療計画を立てるなど、あくまで医者のサポート役としての活用が期待されます。

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2.看護師・介護士

看護師も介護士も臨機応変な対応が求められる仕事です。常に患者や利用者の状態を把握し、ちょっとした変化にも気づいて判断し、対処する必要があります。また温もりのある「人」が寄り添うからこそできる共感や励ましなど、精神的なケアを担うことも期待されるため、ロボットや機械には代替できない仕事であるといえます。
今後高齢化が進むと人手不足が懸念されるため、業務の一部をAIがサポートする、ロボットが介助作業を補うなど部分的な補助は拡大していくと思われますが、看護師や介護士の仕事がなくなる可能性は低いでしょう。



3.保育士

子どもの動きは予測不能で目が離せないため、保育士も臨機応変な対応が求められます。
また保護者と離れて過ごす子どもに安心感を与えることや、時にしつけや教育が必要な場面もあります。動きも複雑でマニュアル化しにくいため、機械化には向いていない仕事であり、命に係わる場合もあるため機械に任せることに対して心理的抵抗感も強いと考えられます。
ゲームの相手や会計などのデータ処理、清掃など一部を補うことはできても、人が保育するという在り方は当面変わらないだろうと思われます。



4.教員

教師の仕事はただ知識を教えるだけでなく、生徒それぞれの良い面を引き出したり、人間関係や社会との関わりにおいて大切なことを教えたり、進路など目標を一緒に考えてモチベーションを上げるなど、人間形成に関わる重要な役割を担います。
機械の苦手とするコミュニケーションが日々の業務に必須であり、日々変化する生徒の状況や気持ちを踏まえた対応はパターン化も難しいため、AIが代替する可能性は低いと思われます。
今後オンライン授業やタブレット端末を活用したデジタル学習などが進めば、動画の視聴状況別の正答率など膨大なデータが蓄積できるため、より個々の状況に応じた授業にするために役立てることはできるようになっていくでしょう。

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5.営業・コンサルタント

問い合わせに対して24時間自動応答するAI搭載のチャットボットの精度はどんどん上がっており、また購入履歴や属性などを解析したリコメンド機能も一般的に活用されるなど、単純な御用聞きとしての営業職の役割はAIに代替されていっています。
しかしクライアントの抱える課題を発見して解決のために提案する、要望に応じてカスタマイズするなど、「相談に乗る」力と「提案する」力はまだまだ人間の方が優れています。
お客様の表情や会話などからニーズをくみ取って提案する、状況に合わせたフォローをするなど、きめ細やかなサポートができて信頼される営業職であれば、当面AIに仕事を奪われることはないでしょう。



6.カウンセラー

クライアントの本音を引き出し、感情を理解することはAIが苦手とする分野です。人が言葉にしていることと本当の思いは別であることも多く、カウンセリングには高度なコミュニケーションスキルが必要となります。
AIがどれだけ言語処理能力が高くても、人が相談したい、話を聞いてもらいたいと思う相手は人であり、代替されにくい仕事ではありそうです。
データに基づいた的確なアドバイスを手軽にもらいたいという場合はチャットボットのようなツールで十分、というケースもあるかもしれませんが、時に共感し、励まし、自分の体験を共有しながら一緒に解決のための道を模索してくれる存在は、先の見えない時代だからこそよりニーズが増えていくのではないでしょうか。



7.データサイエンティスト

意思決定の局面においてデータを活用して合理的な判断を行うためのサポートをするデータサイエンティストは、ビジネスとITの両方の知識が求められる専門職です。
つまりAIが集めてくる膨大なビッグデータを解析し、その中から価値ある情報を読み解いて活用する役割であり、発想力や創造力、提案力が必須となります。バラバラに集められたデータを構造化し、意味を与えて戦略的に活用することはAIにはできません。
シンギュラリティが起きた後であれば実現できるかもしれませんが、当面データをクリエイティブに活用して0から1を生み出すのは人間の役割になりそうです。



8.クリエイター

AIは0から新しい価値を生み出すことは不得手です。プログラムされた通りに筆を動かしたり演奏したりすることはできても、独自のコンセプトを打ち出すことや感情を自然に例えるなどのアイデアを持ち、感性に訴える表現をすることは機械にはまだまだ難しいでしょう。
新しいものや価値を生み出すクリエイティブな発想や創造力は人間特有のセンスであり、既存のものを組み合わせることはできても、素材もない状態から想像することは機械にはできない仕事だといえそうです。

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AIとの共存社会では「考える力」が必要となる

これまで見てきた通り、技術革新の著しい現代においてもAIは万能ではなく、人間にしかできないこともまだまだ多くあります。
AIは膨大なデータからプログラムされた回答を出すことはできますが、臨機応変に判断し活用することはできません。その回答をどのような課題にどう生かすのかを考え、新しい価値を生み出すのは人間の役割です。また、その過程で必要になるのはコミュニケーションです。
一人で考えるのには限界がありますが、議論や協業を通して知識や価値観を混ぜ合わせることで、新しいアイデアの創出やイノベーションを起こすことができます。

人間にしかできない力を生かして新しい仕事を生み出し、その中でまたAIが得意な分野は代替していく。この繰り返しがAIとの共存社会で行われていくと予測されます。




新型コロナの影響を受けて求人が増えた業界・減った業界

求人が大きく変動する要因は技術革新による自動化だけでなく、自然災害や人々の購買行動の変化なども影響しています。現在最も大きな影響となっているのは新型コロナウイルスによる生活様式の変化でしょう。新型コロナウイルス感染拡大によって急激に進められたロボティクスやタッチレスなどのAI技術の活用も加速し、「非接触」化に大きく貢献しました。
一方で「非接触」が長期化する今、リアルで会う「ライブ感覚」の価値が向上しているのは、AIがどれだけ発展しても代替できない感情や体験があることの証明だとも言えるでしょう。
ここでは、新型コロナの影響で求人が減った職種、逆に増えた職種や業界はどのようなものがあったのかご説明します。


新型コロナの影響で求人が減った職種や業界

まず大きな打撃を受けたのは緊急事態宣言やまん延防止等重点措置による外出自粛や酒類の提供禁止の影響が大きい飲食業界、旅行会社や宿泊業、観光産業でしょう。また百貨店やアパレルも緊急事態宣言による休業や、インバウンドの減少、生活必需品ではない商品が主力であることなどから売上に影響が大きいようです。
同様にスポーツやコンサート、イベント、映画等の娯楽関連も休業や人数制限の影響を受けました。自動車業界は移動自粛と工場の稼働日数が大幅に減ったことにより生産工程に遅れが生じたという2種類の影響があったそうです。明るい兆しが見えるまでにはもう少し時間がかかりそうで、求人の回復はしばらく難しいかもしれません。



新型コロナの影響で求人が増えた職種や業界

コロナ禍によりテレワークが増加し需要が増えたIT業界や、オンラインショッピングの需要増により人手不足となっている物流業界、健康維持に対する意識の高まりで医薬品を扱うスーパーやドラッグストアなどの小売や医療・健康領域などは現状求人が増加しています。
新しい生活様式がアフターコロナでもどこまで定着するかはまだ見えませんが、緊急事態にあっても需要が落ちなかった業界は比較的安定しているといえそうです。



まとめ

AIでなくなる可能性がある仕事と10年後もなくならない仕事の違いについてお伝えしてきました。ロボットによる業務自動化の取り組みであるRPAの活用意向は高く、導入に向けてさまざまな企業が人材の確保に乗り出していますが、高度なスキルが求められるため人材育成に課題があるようです。



AI、ロボットの導入で労働力不足の解消や生産性向上に期待が寄せられるものの、機械では対応しきれない業務もまだまだあります。
一方でAI採用システムの導入が一部の会社で始まり、効率化のみならず「面接官の先入観や好みに左右されずフラットに選べる」などのメリットを生み出しているように、人にしかできないと思われてきた業務にAIが参入することで予想外のメリットが生まれるケースもあります。

今後の変化の速度は未知数ですが、AIによってなくなると予測されていてもそうでなくても、常に「人間にしかできない付加価値」をどう生み出していくかを意識しながら、環境変化に対応できるよう「考える」力を駆使しておくことが必要だといえそうです。



作成/MANA-Biz編集部