組織の力

2021.07.14

働き方改革成功のカギは生産性向上とエンゲージメント

現状を「見える化」して最適な施策で効果をあげる

働き方改革で大切なのは、従業員の生産性(仕事の効率)を高めるのはもちろん、自社へのエンゲージメントを高める取り組みも欠かせないが、自社が抱える課題を正確に把握しなければ適切な施策は打てない。働き方改革における生産性とエンゲージメントが重要である理由や、現状を「見える化」する意義について、コクヨ株式会社ワークスタイルコンサルタントの立花保昭が解説する。

働き方改革の成功に必要なことは?

コンサルタントとして企業の働き方改革をお手伝いさせていただく中で、働き方改革のゴールには大きく分けて2つの方向性があると考えるようになりました。まず1つめは、生産性の向上といった「成果が上がり、それにより企業価値が高まること」です。何をもって成果とするかは企業によって異なりますが、一般的には売上や利益、顧客満足度などが指標になります。

2つめは企業で働く従業員にとって、「今よりも幸せになること」がゴールといえるのではないでしょうか。働き方改革によって残業時間を減らして新たな時間を生み出せば、一歩先を見据えた業務に着手したり、資格取得のための勉強をしたり、心身のリフレッシュの時間をとるなど、働きがいも生産性も高まります。

こうしたゴールに向けて不可欠だと考える2つの要素が、仕事の「生産性」と従業員の「エンゲージメント」です。なぜなら、働き方改革の成果の一つが生産性であり、その生産性向上には従業員エンゲージメントが不可欠だからです。

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生産性とは

「生産性」をひと言で説明すると、「投入した経営資源(時間や労働力)に対して生み出せた成果や価値」です。つまり「生産性向上」とは、より少ない経営資源で大きな成果・価値を出せるようになることをいいます。

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エンゲージメントとは

「エンゲージメント」とは、従業員の会社に対する「愛着」や「思い入れ」「忠誠心」などを指します。自分の会社に対して愛着を感じられるのは、企業理念やビジョンに共感し、一緒に働く仲間や組織と一体となって成長しあえる関係があればこそ。自社へのエンゲージメントが高い従業員は、モチベーション高く仕事に向かうことができます。




生産性と従業員エンゲージメント調査の重要性

生産性とエンゲージメントは、「自分の部署では生産性高く働けていないのではないか」「メンバーのエンゲージメントが低い気がする」といった「なんとなく」の感覚はあっても、その実態は見えにくいものです。そこでお勧めしたいのが、調査サービスなどを利用して、自社の現状を数値として「見える化」することです。現状を調査することの重要性は大きく3つあります。


効果的な施策を打つ

1つめは、状態を正確に把握しなければ課題解決に向けて効果的な施策が打てないからです。いくら生産性やエンゲージメントを向上させる施策を打っても、実態を正確に把握できていなければ、施策が的外れとなり、成果が出ない可能性も高いでしょう。努力を無駄にしないためにも、調査によって現状を見える化する必要があるのです。



納得感を高める

2つめは、経営層から従業員にいたるまで、すべての関係者に働き方改革の必要性を納得してもらうことが重要だからです。漠然とした危機感や課題意識だけで改革を進めても、理解を得ることは難しく、施策を打っても本気で取り組んではくれないでしょう。だからこそ、調査によって課題を見える化することが、有力な説得材料となるのです。



効果を正確に知る

3つめは、改革前の状態と比較して改革の効果や成果を正確にはかることができるからです。一朝一夕にいかないのが働き方改革。だからこそ改革し続けるには原動力が必要で、効果や成果を見える化することが一番です。「なんとなく良くなった」という人それぞれの感覚値ではなく、数字で示すことがモチベーション維持につながります。




調査のポイント

生産性とエンゲージメント調査では、それぞれ「押さえておきたいポイント」があります。このポイントを押さえていれば、調査項目を最小限に絞り込んだ調査でも、現状をあぶり出すことは可能です。


生産性調査のポイント

生産性についての実感値とともに、具体的な作業にかけている時間について聞くのがポイントです。例えば、資料を探すために1週間のうちでどれくらいの時間をかけているかを聞くことで、本来の業務のための準備にいかに多くの時間を使っているかが見えてきます。この準備を効率化できれば、生産性はグッと上がるはずです。

生産性調査の質問項目(一部)
・自分は現在、生産性高く働くことができている
・職場の会議は、ムダのない会議である
・職場での資料作成は、ムダのないプロセスで実施されている



エンゲージメント調査のポイント

従業員エンゲージメントを知りたいとき、「自分が勤めている会社を、就職を希望している他の人に薦めたい」という質問をすれば、その人のエンゲージメント度合いをほぼ正確に押さえることができます。それに加えて、「自分にとって働きがいのある会社である」という質問も、職場の人間関係や物理的な環境を測定するのに有効な質問といえます。

エンゲージメント調査の質問項目(一部)
・自分にとって働きがいのある会社である
・現在の仕事にやりがいを感じている
・自分は仕事を通じて成長できていると感じる
・自分が勤めている会社を、就職を希望している他の人に勧めたい




調査から見えてくるよくある課題

調査を行う大きなメリットは、「課題が『見える化』できる」ことですが、部署別・職種別などの課題も明確につかむことができます。そして見えてきた課題から、「さらに調査で課題を深掘りする」「解決のために効果的な施策を考える」など、次に着手すべきことが見えてきます。

生産性に関する調査では「残業が多い」「会議が多い・長い」「資料作成に時間が取られる」「メールの作成や処理に時間がかかる」「データを探すのに時間がかかる」などの課題があぶり出されることが多いです。エンゲージメント調査で見えてくることが多いのは、「やりがいが感じられない」「自社を周りの人に勧めたいと思えない」「経営層が自社について発信を行っていない」「上司が部下を守ろうとしていない」といった課題です。

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生産性の向上に有効的な施策

生産性向上というと「仕事のやり方をガラッと変える必要があるのではないか」と考える人もいるかもしれませんが、大切なのは小さな取り組みから始めること。そして一つひとつの取り組みを着実に積み重ねていくことです。


施策1:課題の特定

生産性向上をめざすにあたって大切なのは、「なぜその課題が起こっているのか」を特定することです。例えば「集中できない」という課題一つにしても、「代表電話への対応で業務が中断される」「オフィス内に集中できる場所がない」「メール対応に追われてなかなか業務に取り掛かれない」などさまざまな要因が考えられます。 調査で課題をあぶり出した後は、社内ワークショップなどで根本原因を特定する必要があります。こうしたプロセスを踏むことで、効果的な解決策が導き出せるのです。



施策2:会議改革

課題感のない企業はないと言えるくらい課題が山積しているのが会議。調査からもそのことが見えてきます。「ムダな会議が多い」「活発な議論が行われていない」「会議に時間を取られすぎている」といった課題感です。ただ、課題が多いからこそ効果も実感しやすく、効率化への近道でもあります。例えば「定例会議の回数を減らしてみる」「会議前にアジェンダを準備しておく」といった小さな取り組みが大きな効果を生むこともあります。「うまくいかなければやめればいい」くらいの気楽な気持ちで、まずはトライしてみることが大切です。



施策3:ファイリングとペーパーレス

「必要な資料を探すのに多くの時間を使っている」というのも、調査から見えてくるよくある課題です。コクヨの調査でも、紙文書・データの検索・保管に1日平均20~30分を費やし、1年間に換算すると120時間も「探す」という行動に時間を費やしていることがわかっています。そして、この課題の根本的な原因はファイリングができていないことや紙資料の多さにあることがほとんどです。

この課題への施策としては、紙の書類をできるだけ減らし、必要なものは電子書類に置き換える「ペーパーレス化」が有効です。紙書類の量が減れば、書類を探す時間も必然的に少なくなると考えられます。

近年は、コロナ禍の影響もあってテレワークで働く人が増えていますが、紙書類を電子化しておけば必要なデータにアクセスしやすく効率化につながります。また、電子ファイリングでデータを部署やチームで利活用すれば生産性向上にも有効です。



施策4:型・場・技で課題解決

コクヨでは、仕事の生産性について「型(運用ルール、制度)・場(オフィス、ツール)・技(意識、スキル)」の3つを軸に解決策を提案しています。生産性に関する多くの課題は、3つの要因のいずれか1つ、もしくは複数によって起こります。課題解決に向けた一つの考え方として、型・場・技という視点を持つことが役に立ちます。




従業員のエンゲージメント向上に有効な施策

従業員のエンゲージメントが低いのは「上司に承認されていない」ことに原因があるケースが多いようです。私が今までコンサルティングさせていただいた事例でも、8割は上司の方に何らかの要因がありました。ですから従業員エンゲージメントを向上させるには、上司と部下の関係性を改善するための施策をメインに考えるのがお勧めです。


施策5:1on1

エンゲージメント向上に直結するのが、上司と部下の関係性改善です。そのための施策としてお勧めしたいのが、「1on1」(上司と部下が1対1で行うミーティング)です。

1on1で大切なのは、あくまでも「上司が部下の話を聴く」ことです。部下の目指す姿を一緒に確認し、そのためのロードマップを描く場であるべきです。1on1をすでに実施している企業もありますが、上司が部下に「あの仕事、どこまで進んでる?」と業務の進捗確認をする場になってしまっているケースもみられます。「部下がこの会社で何を達成したいのか」「現状の困りごとは何か」を丁寧に聞き出していくことで、部下は「上司は自分の味方になってくれる」と感じ、自社へのエンゲージメントを高めるでしょう。



施策6:スキルアップ研修

従業員エンゲージメントを高めるには、部下が「上司に承認されている」と感じることが必要です。そこで管理職の「承認力」を高めることが大切です。管理職研修などを通じて「部下をほめる」「笑顔をつくる」「傾聴する」などのスキルを学び、部下に好印象を与えられるよう努める必要があります。

また一般社員に向けてもスキルアップのための研修は効果的です。仕事に対する具体的なスキルを磨くことで短時間でより多くの仕事がこなせるようになるため、働きがいが高まりエンゲージメント向上が期待できます。



施策7:従業員満足に訴えかけるオフィスづくり

自社オフィスが「行きたくなる場」であることも、従業員エンゲージメントの向上に効果があります。ある企業では、新社屋にデザイン性の高い社員食堂を設置しました。従業員はそんな空間でおいしい料理を食べられるので、ランチを楽しみに出社する人も多いそうです。

コロナ禍をきっかけにテレワークが当たり前になり、それに伴って従業員エンゲージメントが低下する現象が多くの企業でみられます。そんな今だからこそ、従業員満足に訴えかける施設をオフィスにつくることは、エンゲージメント施策として効果的といえるのではないでしょうか。




成功事例

調査をもとにした「生産性」と「エンゲージメント」の向上施策でどれだけの成果が上がるかは、当然ながら取り組み方や企業文化によって変わります。今回は、ある大手老舗メーカーの事例をご紹介します。コクヨは調査のほか、事例提供やワークショップのファシリテーションをサポートさせていただきました。

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事前課題

この企業では、「1人ひとりが生産性高く働けていない」「職場間でコミュニケーションがとれていない」「従業員のモチベーションが全体的に低い」といった課題感を持っていました。そこで、まずは5000人の従業員に生産性とエンゲージメントに関するアンケートを実施しました。



抽出された課題

調査の結果、生産性とエンゲージメントそれぞれの課題をあぶり出すことができました。なんとなく社内で課題として共有されていたことが、調査によってはっきりと「見える化」されたわけです。

まず生産性においては、「ムダな会議が多い」「ICT活用やペーパーレス化が遅れている」「PCスキルなどのリテラシーが共有できていない」「報連相やセキュリティ・コンプライアンス管理ができていない」といった課題が見つかりました。 エンゲージメントに関しては、「経営ビジョンが社内に浸透していない」「評価方法に納得していない従業員が多い」「職場コミュニケーションが希薄」「目標達成意欲が低い」などの課題が明らかになりました。

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具体的な施策

調査結果を受けて、人事、総務、IT関連の部署が連携してワークショップを行い、課題を整理したうえで改革プランを作成しました。これが、生産性とエンゲージメントを向上させるためのロードマップです。
そして、「従業員の意識改革」「環境整備」「各職場での自主的な改革推進」の3本柱で活動を推進しました。具体的には、会議回数の削減やペーパーレス化、セミナーを通じた生産性向上施策などを実行していきました。



改善効果

1年間取り組んだのちに再度調査したところ、生産性に関する従業員の自社評価は15%アップ、エンゲージメントに関する評価は17%アップしました。また、時間外労働も月平均で4時間減少(年間48時間)しました。対策の効果が確実に現れました。

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まとめ

働き方改革において、「生産性」と「エンゲージメント」はもっとも重視すべき要素です。そしてこの2つにおける課題を調査によって「見える化」することで、働き方改革の成功率は高まります。小さなことからでよいので、調査によって明らかになった課題を解決するための取り組みを続けていきましょう。



生産性×働きがいupプログラム

『働き方改革』を一過性の活動ではなく継続的な活動としていくためには、生産性向上のみに着目するのではなく従業員のエンゲージメントを高め、社員一人ひとりが自分ごととして実践することが大切です。 当サービスでは「生産性向上」と「エンゲージメント」の状況を確認する調査から改革の実施までトータルでサポートさせていただきます。https://www.kokuyo-furniture.co.jp/solution/engagement_up/

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立花 保昭(Tachibana Yasuaki)

コクヨ株式会社ワークスタイルイノベーション部 ワークスタイルコンサルタント/1級ファイリング・デザイナー/オフィスセキュリティコーディネータ
1990年コクヨ入社。出向した総合商社での大手流通業向け中国製品の開発・輸入・販売、コクヨでの開発営業、及び上海でのカタログ通販ビジネス立ち上げ等の経験を生かし、現在は企業向けの働き方改革の制度・仕組みづくり、意識改革・スキルアップ研修などをサポート。

文/横堀夏代