仕事のプロ

2021.03.08

Withコロナ時代だから考えたい「ライフ・シフト」〈後編〉

変化への対応力が人生100年時代をワクワクに変える

人生100年時代を豊かに生きるための「戦略」として提唱されている「ライフ・シフト」。後編では「ライフ・シフト」への関心が高まる背景と「ライフ・シフト」を実現するための具体的なアクションについて、引き続きライフシフト・ジャパン株式会社・代表取締役CEOの大野誠一氏にお聞きした。

これまでの働き方改革は
企業主体の「働かせ方改革」だった

マルチ・ステージモデルで生涯現役を実現するというライフ・シフトの考え方が注目されるようになった背景には、安部政権下で進められた働き方改革があったと大野氏は言う。

「リンダ・グラットンとアンドリュー・スコットの共著『ライフ・シフト 100年時代の人生戦略』は、働き方改革が声高に叫ばれ出した最中に刊行されました。働き方を変えなくてはならないと日本人の関心が高まっていたタイミングと重なり、『ライフ・シフト』が一気に注目されるようになったのです」

「本著は世界中で刊行されていますが、圧倒的に日本で売れているそうです。定年制という日本独自の雇用制度のもと、その先をどうするのかという40~50代の関心を集めたのでしょう」

一方、安部政権時の働き方改革は企業主体で「言ってみれば『働かせ方改革』だった」と大野氏。

「従業員をどう働かせるかを改革してくださいねというのが軸で、長時間労働の削減が最重要テーマだった。個人個人の働き方を変えるというところまでは踏み込めていなかった」と振り返る。




コロナ禍で変化が加速し
個々人が「ライフ・シフト」と真剣に向き合い始めた

そこに起こったのが今回のコロナ禍。今改めて「ライフ・シフト」への関心が高まっていると大野氏は言う。

「コロナ禍に対する捉え方はさまざまでしょうが、私はコロナ禍によって10年くらい時代が前倒しになったと感じています。変わろう、変えようと言ってきたのになかなか変わらなかった仕組みや空気感が、一気に変わっていきました」

「多くの人がテレワークを経験したことで、『毎日会社に行く意味ってなんだろう?』『オフィスってなんのためにあるんだろう?』『成果や生産性ってなんだろう?』『仕事ってなんだろう?』『勤務時間ってなんだろう?』...、という問いから始まり、『どう働くか?』『どう生きるか?』、という本質的な問いと直面し、変化を求めるようになった人が多くいました」

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「特に、教育・仕事・引退の3ステージ型のモデルを信じて会社勤めをしていれば安泰だと思っていた人たちは、一つの組織に依存することの不安定さに危機感を持ったのではないでしょうか」

「『ライフ・シフト』についてはなんとなく知っていたけど、まだまだ旧来のモデルで大丈夫だろう、自分は逃げ切れるだろうと考えていた人たちが、コロナ禍を経て新しいモデルに切り替えないとまずい、新しいことを始めないといけないと、身をもって感じたのだと思います」

「またテレワークをきっかけに、家族や夫婦の関係や、どこでどう暮らすかということについても、いろいろなことを感じたはずです。コロナ禍の影響により『ライフ・シフト』へのニーズや関心は高まっており、個人個人が自立・自律して生きていく力をつけようとする流れは今後もさらに強まると考えています」




大事なのは学び続け、変わり続けること

コロナ禍というパンデミックによる衝撃的な変化に加えて、テクノロジーの進化も人生100年時代の生き方モデルに大きく影響していると大野氏は言う。

「以前は、20歳前後まで勉強すればそこで得たものを活かして社会人として40年くらいは働けるという感覚でした。1980年代頃まではそれで通用していましたが、その後テクノロジーの進化に伴い世の中の変化のスピードがどんどん加速し、今や数年前に学んだことさえ陳腐化してしまうような時代になっています。
つまり、学び続け、変わり続けないとついていけない時代になっているということ。学び続け、変わり続けるために生き方を変えるというのが『ライフ・シフト』の根幹です」

「AIやロボットによって今後は多くの仕事がなくなるという議論もありますが、そのなかで新しい仕事も生まれてくるはずです。学び続けてスキルや知識を身につけ、新しいステージへと踏み出していけば、たとえ今の仕事がAIにとって代わられても、また新しい仕事に就けるのです」




ライフシフターになるための4つの法則

現状に危機感を持っている人、何か変化を起こしたいと感じている人は、具体的にどのようなアクションをとればいいのだろうか。そのきっかけとして、大野氏はライフシフト・ジャパンが提唱する「ライフシフト4つの法則」を紹介する。

■ライフシフト4つの法則

  • 第1法則 5つのステージを通る
  • 第2法則 旅の仲間と交わる
  • 第3法則 自分の価値軸に気づく
  • 第4法則 変身資産を活かす



大野 誠一(Ohno Seiichi)

ライフシフト・ジャパン株式会社代表取締役CEO。1982年リクルート入社。『ガテン』『とらばーゆ』『アントレ』『ダ・ヴィンチ』の編集長を歴任。2001年パナソニックに転身し、2006年アクトビラを設立、代表取締役社長に就任。退任後、フリーランス時代を経て2011年ローソンHMVエンタテイメント取締役常務執行役員、2012年ハッツアンリミテッド副社長執行役員(現職)、2017年ライフシフト・ジャパンを設立。「人生100年時代」のマルチ・ステージ型ライフデザインを提供している。

ライフシフト・ジャパン株式会社
組織から個人として自立・自律した人生の主人公となり、100年ライフを楽しむ人たちをサポートすることを目的に、2017年10月に設立。ロールモデルとなるライフシフターの発掘・紹介・プロモーション、ワークショップや研修の開催、ライフデザイン支援のためのサービス・コンテンツの開発・提供、コンサルティングなどを行う。ライフシフト・ジャパンのホームページでは、ライフシフター約100名へのインタビューを掲載している。

文/笹原風花