仕事のプロ

2021.03.05

Withコロナ時代だから考えたい「ライフ・シフト」〈前編〉

「マルチ・ステージ」が人生を豊かにする

「人生100年時代」というキーワードはリンダ・グラットンとアンドリュー・スコットの共著『ライフ・シフト 100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)の刊行により、日本社会に急速に浸透したが、出版から4年を経た今「withコロナ時代だからこそ、ライフ・シフトの視点であらためて生き方を考えるとき」と語るのは、ライフシフト・ジャパン株式会社・代表取締役CEOの大野誠一氏。ライフ・シフトとはどのようなものなのかお聞きした。

人生100年時代は
「どんより」か「ワクワク」か?

「人生100年時代」と聞いてどう思うか? ライフシフト・ジャパンが2018年12月に実施したオンライン調査によると、「ワクワクする」と答えた人が44.5%だったのに対し、「どんよりする」と答えた人は55.5%だった。
世代別に見ると、20代と60代は「ワクワク」が6割以上である一方、働き盛りの世代は「どんより」の割合が高かった。「どんよりをワクワクに変えていくのが、私たちのミッション」と大野氏は言う。

2_bus_098_01.png
「メディアでは長寿社会の3K(金・健康・孤独)を不安要素として注目し、その文脈で人生100年時代というキーワードが用いられることが多いので「長生き=どんより」というイメージが定着しがちなのでしょう。
また、日本には定年制があり「働くのは定年まで」という認識があります。人生100年時代と聞くと定年後も働き続けないといけないのか、辛い仕事を長くやらないといけないのか...とネガティブに考えてしまう人が多いことも大きいと思います。

実は日本は先進国のなかでも60歳を超えても働いている人の比率が高い国です。65歳~69歳では約5割の人が働いていて、70歳~74歳でも3割以上の人が働いています。もちろん経済的な理由で働いている人もいますが、内閣府の調査では『働けるうちはいつまでも働きたい』という人が4割を超えるなど、元気なうちは働きたいという人が多い。

そういう実態がある一方で、70歳、80歳になってもワクワク楽しそうに働いているロールモデルを知る機会が少ないため、働き盛りの世代は希望がもてず、なんとなく『どんより』してしまうのだと思います」

2_bus_098_02.jpg




人生100年時代の人生戦略「ライフ・シフト」とは

この「どんより」を「ワクワク」に変えるヒントとなるのが、「ライフ・シフト」という考え方だ。アンドリュー・スコットとの共著『ライフ・シフト 100年時代の人生戦略』のなかでリンダ・グラットンが提唱した「人生戦略」が、そのベースとなっている。

ちなみに、原書のタイトルは『The 100-Year Life』であり、「ライフ・シフト」というのは日本語への翻訳時につけられたもの。原書の本編中でも使用されておらず、日本人にしか通じない言葉だという。
大野氏に「ライフ・シフト」を理解するうえで重要なポイントを挙げていただいた。




人生は長くなる!(人生100年時代の到来)

日本では、2007年生まれの子どもの半数は107歳まで生きうる(日本以外の先進国も同様に100歳を超える)と試算されている(=人生100年時代)。また平均寿命が延び、2050年までに100歳以上の人口が100万人を突破すると言われている。1963年には100歳以上の人口は153人、2020年は約8万人であることを考えると、今後も急速な勢いで増えていく。

こうした超長寿社会の到来は世の中の仕組みを変えてしまうほどのインパクトがある。社会の仕組みや制度はもちろん、働き方、教育、結婚の時期や相手、子どもを持つタイミングなど、個人の生き方を変えていく必要があるだろう。

2_bus_098_03.png




人生は「3ステージ」から「マルチ・ステージ」へ

従来、一般的に人生は3つのステージで捉えられてきた。0歳~20歳前後までは「教育」、20歳前後〜60歳前後までは「仕事」、そしてその後は「引退」。

しかし、長寿化が進み人生100年時代が到来すると「引退」のステージが長くなる。日本では定年後も65歳まで(2021年からは70歳まで)雇用を継続せねばならないという法律があるが、それだけでは限界がある。

そこでリンダ・グラットンが提唱するのが「マルチ・ステージ」というモデル。20歳前後で社会に出てからは会社勤め、フリーランス、学び直し、副業・兼業、起業、ボランティア...など、さまざまなステージを並行・移行しながら生涯現役であり続けるというモデルである。

2_bus_098_04.png



大野 誠一(Ohno Seiichi)

ライフシフト・ジャパン株式会社代表取締役CEO。1982年リクルート入社。『ガテン』『とらばーゆ』『アントレ』『ダ・ヴィンチ』の編集長を歴任。2001年パナソニックに転身し、2006年アクトビラを設立、代表取締役社長に就任。退任後、フリーランス時代を経て2011年ローソンHMVエンタテイメント取締役常務執行役員、2012年ハッツアンリミテッド副社長執行役員(現職)、2017年ライフシフト・ジャパンを設立。「人生100年時代」のマルチ・ステージ型ライフデザインを提供している。

ライフシフト・ジャパン株式会社
組織から個人として自立・自律した人生の主人公となり、100年ライフを楽しむ人たちをサポートすることを目的に、2017年10月に設立。ロールモデルとなるライフシフターの発掘・紹介・プロモーション、ワークショップや研修の開催、ライフデザイン支援のためのサービス・コンテンツの開発・提供、コンサルティングなどを行う。ライフシフト・ジャパンのホームページでは、ライフシフター約100名へのインタビューを掲載している。

文/笹原風花