仕事のプロ

2021.02.17

スキルを活かしてリモートで働く「ふるさと副業」〈後編〉

地方の老舗企業がスキルフル人材を雇用する

新型コロナウィルスの影響で働き方が大きく変わり、「ふるさと副業」という働き方に注目するビジネスパーソンが増えた2020年。石川県主催の社会人向けインターンシップ交流イベントに参加した株式会社柚餅子総本家中浦屋の中浦政克代表取締役社長と、イベントをきっかけに副業を始めた3人のメンバーに、「ふるさと副業」という働き方のメリットについてお聞きする。

100年企業の和菓子店
オンライン販売の販路拡大に課題

石川県輪島市の株式会社柚餅子総本家中浦屋(以下、中浦屋)は、2020年に創業110年を迎えた老舗の和菓子製造・販売企業。看板商品は輪島の伝統菓子である柚餅子(ゆべし)だが、数年前から「金澤ぷりん」をはじめとする洋菓子の開発・販売も始めている。中浦社長は、近年の課題を次のように語る。

「近年、和菓子のギフト需要が落ちてきたので、菓子ギフトの統計などを検討し、手土産として全国的に人気が高いプリンの製造販売を始めました。幸い売り上げは順調に伸び、一時的に業績が回復しました。ただ、コロナ禍の影響で店を訪れるお客様が減っている今、プリンの店舗販売だけでは補いきれません。Eコマースへの注力は必須でした」

中浦屋では、以前からオンラインショップを運営している。しかし中浦社長は、「商品の魅力をアピールし切れていない」「お客さまにとっての使い勝手が今ひとつ」と感じていたという。

「とはいえ、弊社の社員はECサイト運営の知識やスキルが乏しく、制作会社に依頼するとなるとかなり費用がかかります。そこで、ふるさと副業の制度を活用して、副業としてECサイトの機能向上を担っていただける方に出会えればと考えました」


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首都圏のスキルフル人材が
100年企業で「ふるさと副業」

中浦屋が都市部在住の副業ビジネスパーソンを募るために参加したのは、2020年10月に石川県主催でオンライン開催された『社会人向けインターンシップ交流イベント』だ。中浦屋を含む石川県の企業3社がエントリーし、約140名が応募。当日は45人のビジネスパーソンがディスカッションに参加した。

その後、副業希望者のオンライン面接を経て、中浦屋では5人の副業者を採用。いずれも首都圏の企業に正社員として勤務するビジネスパーソンで、それぞれEコマースや商品ブランディングなどの強みをもっている。5人は『デジマ次世代創造室』という新設部署に所属する形となり、「ECサイトの月間売り上げ150万円」という目標を定めて、半年間と期間を区切ってリモートワークで活動を始めた。




自分の知識とスキルで地元に貢献したい

参加者1

首都圏の企業でEコマースの仕事をしている石川県出身の松岡さん。長年に渡り地元に貢献したい気持ちを持ち続けていた。

2_bus_097_02.png「今回のイベントを知り、Eコマースの知識やスキルを石川県の企業が求めているなら、長年の思いを実現するチャンスだと考えたのです」

松岡さんは、2020年7月に転職している。その際に、今までで一番多くのオファーがさまざまな企業からあったという。背景にはコロナ禍があった。店舗での売り上げ減少などをきっかけにEコマースの強化をはかる企業が多く、まさに松岡さんのもつスキルが必要とされたのだ。

「私がずっと取り組んできたEコマースの仕事が、いろいろな業界で求められていることを実感できました。自分のスキルがもつ価値を再確認し、自信がつくのと同時に、地方にはもっと困っている企業があるのではないかと感じ、私のスキルを役立ててもらえるなら協力したいと思いました」

副業を始めてみて、「これまで以上に市場を俯瞰し、消費者の嗜好を深く考えるようになった」と現時点での自己成長を語る。半年ほどで今回のプロジェクトは終わるが、今後も機会があれば地方企業の副業プロジェクトに参加したいという。

「私に世界を救うことはできないけれど、たった1人の力になることはできるかもしれない。そんな思いを大切に、今後も企業様のお手伝いができればうれしいです」





副業を通じて「第二のふるさと」をつくりたい

参加者2

首都圏のIT企業で自社のブランディング業務を行う清水さんは、2019年から個人事業主としても活動をスタート。全国の企業から依頼を受けて、商品企画やデザインを行っている。

2_bus_097_03.png「2020年にリモートワークが普及したことで、首都圏以外の企業様ともお付き合いが始まりました。中浦屋に興味を持ったのは、伝統菓子を製造販売する企業ということで、ぜひお手伝いしたいと思ったからです。イベントに参加してみて、自分と同じように地域貢献したい人はたくさんいるんだな、とうれしかったですね」

今回のプロジェクトでは、企業と商品のブランディングやデザイン面を担当する。具体的な取り組みはこれから本格化するが、清水さんは早くも石川県に対して愛着を感じ始めているという。

「私は東京出身なので、"ふるさと"に対する憧れはずっとありました。ですから地方の企業様と関わることで、第二の故郷をつくっていきたい思いがあります。移住までは難しくても、週末だけ地方で生活するのも楽しそうだな、と最近は感じています」





株式会社柚餅子総本家中浦屋

1910年に石川県輪島市で創業した老舗菓子メーカー。柚餅子をはじめとする伝統的な和菓子の製造・販売を手がけるが、近年は『金澤ぷりん』『輪島ぷりん』などの洋菓子も人気を博している。http://nakauraya.jp/

文/横堀夏代