リサーチ

2021.03.31

日本企業におけるオープンイノベーションの実態は?

新規事業開拓に約70%が課題感あり

オープンイノベーションに取り組む日本企業では、何を目的として、どのような課題感をもっているのか。ベンチャーキャピタルVertex Holdingsが『日本企業のオープンイノベーション取組み状況実態調査』を実施した。
※『日本企業のオープンイノベーション取組み状況実態調査』は2020年7~8月、Ishin GroupのIshin USA, Inc.と、シンガポールを本拠地とするベンチャーキャピタルVertex Holdingsが共同で実施。

オープンイノベーションの概要

オープンイノベーションという言葉がビジネス界隈でよく聞かれるようになった。

〈オープンイノベーションとは〉

企業内部と外部のアイデア・技術、サービスや市場を組み合わせることで、革新的で新しい価値を作り出すイノベーション手法。ビジネスにおいて社外との連携を積極的に取り入れるべきであるという考え方で、2003年にアメリカのヘンリーW・チェスブロウ氏が提唱した。

さらに近年は、世界規模でオープンイノベーションに取り組もうという、グローバルオープンイノベーションの動きも活発化。デジタル化・グローバル化が進んだ現代においては、以前よりも国を超えた連携が容易になり、世界じゅうの企業とスムーズにつながり、新しいイノベーションを図ることができる好環境が整っている。




なぜ企業はオープンイノベーションに取り組むのか

近年はデジタル化・グローバル化によって、あらゆる市場で変化の速度が上がり、製品やサービスの短命化がおきているうえ、企業競争が世界規模になったことで世界中の企業が生き残りをかけて凌ぎを削っている状況だ。

日本の企業は、既存事業を確実に成長させていくことが得意である一方で、急激な変化が苦手だといわれている。しかしグローバル競争のなかで生き残るため、そしてベンチャーなどの新規参入企業が打ち出す斬新なアイデアに対抗するためにも、新規事業開発の重要性や、これまでと同じ方法では殻を破ることができないことを、多くの日本企業が認識し始めた。こうした背景を受けて、外部と融合することでイノベーションを起こしていきたいと考える企業が増え、オープンイノベーションに対する意識が高まっていると考えられる。

『日本企業のオープンイノベーション取組み状況実態調査』によると、オープンイノベーションに取り組む目的は、「既存事業の周辺領域での新規事業立ち上げ」が7割以上で最多。

次いで「会社として未開拓・未知な領域での新規事業立ち上げ」も6割以上だった。保守的といわれる日本企業の経営戦略において、従来であれば最も重視されたであろう「既存事業の業務効率向上」が、オープンイノベーションの主目的だと回答した人は少なく、新規事業に対する関心の高さが際立つ結果だった。

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オープンイノベーション
理想と現実のギャップ

オープンイノベーションの目的を新規事業の創出のため、とする企業が多いことはわかったが、取り組み状況については企業によって差があるようだ。

調査は日本企業でオープンイノベーションに従事する297人を対象に行われているが、オープンイノベーションに従事する社員の人数は「10名以下(32%)」「50名以下(40%)」で、50名以上は3割に満たない。また専任者の割合も半数の企業では「20%未満」と低いなど、意識と現実に大きなギャップのある企業がまだまだ多いことがわかる。

オープンイノベーションの必要性を認識し、そのための組織をつくるも、大幅な人数を割いたり、専任者を多く配置したりするほどの危機感はまだない、または既存事業を差し置いて新規開発にそこまでのパワーは割けない、というのが多くの企業の実態なのかもしれない。

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企業の本気度は
専任者の数でわかる

企業がオープンイノベーションに取り組む姿勢に対し、従事する社員の評価は厳しい。自社の取り組みに対する自己評価を1~5点で聞くと、約7割が課題感を抱えていることがわかった。

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調査では、この「自己評価」と「組織人数/専任者の割合」との関係性を分析しており、その結果が興味深い。

その課題感の背景をさぐると、「専任者の割合」と「自己評価」に一定の関係性があることがわかった。イノベーションを担う組織の人数が多いことと、自己評価の間には明確な関係性が見られなかったが、専任者の割合が高くなるほど、ゆるやかながら右肩上がりに自己評価が高くなったのだ。

イノベーションを担う組織にどれだけ専任者を配置できるかが従事する社員のモチベーションに影響し、社員が本気で取り組むからこそ、自己評価が上がっていると考えられる。すなわち、専任者の数で企業の本気度が試されているとも言える。

この結果から、オープンイノベーションを成功に導くカギの一つは専任者の数にあると推察する。

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世界の時流に乗るべく
日本企業も本格的な取り組みを

オープンイノベーションの考え方自体は17年も前に提唱されたものであるが、少なくとも日本企業における取り組みの実態はまだまだ発展途上であることがわかった。

調査で「スタートアップのソーシング(委託や連携)先企業」を聞くと、1位は日本国内で75.1%、2位の米国が64.0%だったが、3位の東南アジアは大きく数値を落として30.0%。巨大マーケットといわれる中国は9.8%、インドは3.7%と極端に少ない。国境を超えた連携、グローバルオープンイノベーションについては、さらに課題が多いようだ。

しかし製品もサービスもめまぐるしく変化する現代では、企業にとってイノベーションの重要性は非常に高い。オープンイノベーションは、新規事業開拓や経営の多角化など、自社の可能性を広げるための有力な手法であり、着手する価値はじゅうぶんにあるし、意識が急激に高まっている今、積極的に取り組まなければ遅れを取りかねない。

今は新型コロナウイルスの影響で、世界中の企業が存続の活路を見出そうと必死になっている時勢でもあるので、オープンイノベーションは今後さらに活発化していくことが予測され、日本企業もさらに本腰を入れて取り組むべき段階に来ているのではないだろうか。


【出典】TECHBLITZ Vertex Holdings共同調査/Global Open Innovation Insights『日本企業のオープンイノベーション取組み状況実態調査』

作成/MANA-Biz編集部