リサーチ

2021.03.10

名刺交換減少で企業は年間約21.5億円の損失⁈

オンライン化で見落としがちな「顧客データ」の重要性

ビジネスにおける人脈づくりが「対面」から「オンライン」へ移行したことで、名刺交換を主とした顧客データ管理に甚大な影響が出始めている。2020年9月にSansan株式会社は『企業の商談・人脈・顧客データに関する意識・実態調査』を実施した。

ビジネスのオンラインシフトで変わる
顧客データの管理方法

ビジネスのオンラインシフトは、もう抗えない段階まできている。日本のビジネスシーンは「対面文化」が根強かったが、グローバル化や働き方改革が進むにつれて、オンライン体制強化の必要性が高まっていたが、2020年春以降は新型コロナウイルスが図らずも追い風となった。

ビジネスのオンラインシフトにはさまざまな課題があるが、見落とされがちなのが「顧客データ」の問題だ。これまでは、対面での名刺交換により新規の顧客データを集め、取引履歴なども含めて顧客管理システムなどで管理・活用されていた。

しかし、これからの時代は名刺による紙管理はなくなり、顧客データの完全電子化はもちろんのこと、顧客データを社内で共有できる仕組みがあたりまえになるだろう。

そして、ビジネスの機会が対面からオンラインに移行するにつれ、名刺交換文化が廃れ、オンライン上での"出会い"をデータとして蓄積する、新しい形の顧客データ管理が主流になる。



オンライン商談のポイントは
名刺に頼らない顧客データ収集

『企業の商談・人脈・顧客データに関する意識・実態調査(2020年)』によると、2020年春の緊急事態宣言後にオンライン商談は2.5倍に増加し、76.7%がオンライン商談への移行によってビジネス機会の損失を実感していることがわかった。

ビジネス機会の損失は業績に直結するため、商談のオンライン化は企業にとって非常に重大な問題といえる。

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調査では26.6%のビジネスパーソンが、働き方がオンラインにシフトしたことで顧客データの蓄積・管理・活用が「できなくなった」と回答。これまでの顧客データを収集は名刺交換が主流だったことから、オンライン化で、この最大・最強の機会を失ったことが大きいと考えられる。

しかし、顧客データに対する意識が高いビジネスパーソンが在籍する企業は、そうでない企業と比べて、新型コロナウイルスの影響下にあっても「業績が良い」という回答が1.6倍高く、今後1年間の見通しについても「良くなる」という回答が1.3倍高かった。

顧客データへの意識とは、名刺交換に頼らず、オンライン下でも新しい顧客との出会いの機会に、顧客の情報を何らかの形で残し、管理するという意識にほかならない。そして、こうした工夫が、業績・業績見通と一定のプラス関係性があるようだ。

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顧客データへの意識は
業績に反映される

この結果から、顧客データへの意識の高いビジネスパーソンは、「オンラインでもビジネスの機会を逃していない」という仮説が立つのではないだろうか。

オンラインでのちょっとした交流の履歴を、対面の「名刺交換」と同じように、見込み顧客のデータとして管理・活用する仕組みがあるかどうか。それが、オンラインでビジネスチャンスを逃さないための鍵になるのではないだろうか。



顧客データ管理において
経営者と現場のギャップも課題

働き方がオンラインにシフトし、名刺交換や対面コミュニケーションの機会が減ると、新規顧客の獲得や自社をPRするチャンスなども減少することが懸念されている。

調査では、顧客データの情報源である名刺の交換枚数減少がもたらす影響として、「1企業あたりの平均経済損失額が年間約21.5億円」と推計している。この損失を現実としないためには、対面で得ていたビジネスチャンスをオンラインでも逃すことなく、さらにオンラインならではのチャンスを活かすことが大切だ。

そして顧客データを収集するだけではなく、社員だれもがアクセスしやすい形で蓄積・管理し、必要に応じて活用できる、顧客データ管理の一連の流れをつくることが求められるのではないだろうか。

「オンラインでも顧客データの蓄積・管理・活用をきちんとできているか」の質問に対しては、経営者と現場社員の間に大きなギャップがあった。管理職は半数近くが「できている」と感じているのに対して、現場社員ではわずか10.8%。

この意識の乖離は、経営層がまだ認識していない新たな経営リスクの存在を示唆しており、経営者は現場社員へのヒアリング等を行い、できるだけ早く新時代の顧客管理体制を整える必要がある。

「蓄積・管理」ができていても「活用」が不十分であれば、データを有益な機会につなげることができないため、現場の活用シーンに則した蓄積・管理に加え、有効活用するためのノウハウの構築と、それを丁寧に現場に浸透させるための取り組みが望まれる。

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オンライン時代に合った
顧客データ管理体制の構築を

ビジネスのオンライ化における課題は、セキュリティやコミュニケーション面がフォーカスされることが多いが、顧客データはビジネスチャンスの獲得や人脈の構築において重要であり、企業にとっての財産だ。その管理・活用のあり方次第で、業績に甚大な影響があることは、もっと認識したほうが良い。

対面での名刺交換の機会減少が生み出す大きな損失を埋めるためには、対面とオフライン双方の顧客データを蓄積し、新しい顧客管理・活用の基盤を構築することが重要だ。

この点に気づき、すぐにでも対策を取るかどうかが、企業の将来を左右することは、データが示唆している。経営層には顧客データの管理・活用の仕組みづくりに対する一定の投資が求められるだろうし、ビジネスパーソン個人も、オンライン上での縁を取りこぼさないよう意識を高めていくことが重要なのではないだろうか。

【出典】Sansan株式会社『企業の商談・人脈・顧客データに関する意識・実態調査(2020年)』

作成/MANA-Biz編集部