リサーチ

2020.07.02

ペーパーレス&電子化時代に根強く残る「ハンコ文化」に転機

新型コロナウイルス感染拡大・テレワーク推進を受け、政府も動き始める

COVID-19(新型コロナウイルス)感染拡大を受けて、テレワークの推進が加速している。そのなかで「ハンコ文化」の見直しが一気に加速しそうだ。ペーパーロジック株式会社が2019年11月に実施した『「ハンコ決済」に関する意識調査』においても、時代の変化とハンコ文化の共存が難しいことが如実にあらわれていた。

働き方改革の一環として緩やかに推進されていた「テレワーク」が、新型コロナウイルスの感染を抑制するために必須・急務とされ、世の中の様相は一変した。そのなかで、国内に根強く残っている「ハンコ文化」を見直し、日本企業のIT化を促進しようと、国が動き始めている。
 
政府は押印を必要とする行政手続きの慣例を見直す方針を固め、企業間で交わす電子書類が本物であることを証明する民間の認定制度を設ける計画もあるという。 
 
紙ベースのやり取りが前提となる「ハンコ文化」を見直すことで電子化が進み、テレワークの定着の追い風になることが期待されている。
 
従来の日本のビジネスシーンにおいて、ハンコ決済は当たり前のものだった。「重要書類にはハンコがなければならない」という意識は、ビジネスパーソンの意識のなかに根強い。
 
しかし、2019年11月実施の『「ハンコ決済」に関する意識調査』では、ハンコ決済によって「仕事の進みが遅くなる」と感じている人が、8割強にのぼっている。平時でこの数値となると、新型コロナ禍においては、ハンコ決済が業務遂行の大きな足枷になることは想像に難くない。
 
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調査では、75.7%がハンコ決済に業務上の負担を感じていることも明らかになった。書類をプリントアウトする、押印する、提出するために足を運ぶ、責任者が目を通し押印する、書類を戻す…という一連のプロセスは、確かにわずらわしく、電子化時代にそぐわない。また、物理的・時間的な問題だけではなく、「書類の持ち回り」が、ビジネスパーソンの心理的負担にもなっているようだ。
 
新型コロナ禍では、在宅勤務や隔日出勤で上司と顔を合わせる機会がないのに、ハンコ決済が必要でますます仕事が進まない…という問題も発生しているようだ。
 
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「決済プロセスについて、ハンコと電子化のうちどちらを希望しますか?」という質問では、半数以上が「電子化を希望する」と回答した。新型コロナウイルス感染拡大で、なかば強制的にテレワークが進んだ現在においては、ますます電子化のニーズは高まっていることだろう。
 
しかし、調査が実施された2019年11月時点では、ハンコ決済を希望する声も3割以上にのぼっている。自由回答に寄せられたハンコ決済への肯定的意見には、以下のようなものがあった。
 
「伝統的安心感があるし、なじみやすいと思う」
「書類に重みが増す感じが好き」
「デジタル化で印鑑を押す機会がなくなり、ちょっと寂しく思う」
 
ハンコ文化は日本独特の伝統の一つであり、それに対する人々の愛着もあったからこそ、電子化が進む時代においても根強く残り、変えることができなかった慣習だったのだろう。
 
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『「ハンコ決済」に関する意識調査』の結果からは、平時でもハンコ決済を業務上の負担と感じ、デジタル化を望む意見が多いことがわかった。テレワークの遂行が基本方針とされる新型コロナ禍では尚更だ。
 
新型コロナウイルスとの戦いは長丁場が予測され、収束の兆しが見えた後も、長期的な警戒が必要だといわれている。電子化は「非常時の一時的手段」ではなく、今後の感染症対策にとって必須であるし、完全収束した後にも、業務の円滑化という功績を残してくれるだろう。
 
世界に目を向けると、盗難の危険もあるハンコを決済等に用いているのは、日本を含むアジアの数カ国だけだ。ハンコ決済によって生じる物理的・時間的コスト、そして心理的負担は、生産性の向上を妨げているとも考えられる。
 
多くのビジネスパーソンが必要性を感じていながら、伝統として愛着があるだけに難しかった「ハンコ文化の見直し」であるが、新型コロナウイルス感染拡大という緊急事態において、一気に進展する可能性がある。まずは比較的重要度の低い書類からでも、すべての企業や組織が電子化にチャレンジすべき時が来ているのではないだろうか。
 
 
【出典】ペーパーロジック株式会社 『「ハンコ決裁」に関する意識調査
 
作成/MANA-Biz編集部