リサーチ

2020.06.01

ビジネスパーソンを悩ませる「カスタマーハラスメント」

急増するカスタマーハラスメントにどう対処するか

近年、顧客や取引先による「カスタマーハラスメント」が増加している。株式会社エス・ピー・ネットワークは2019年5月に『カスタマーハラスメント実態調査』を実施し、企業でクレーム対応を行った経験のある1030人から有効回答を得た。カスタマーハラスメントの現状と、取るべき対策について、調査結果をもとに考察する。

顧客や取引先による悪質なクレームや不当要求、いわゆる「カスタマーハラスメント」の急増は、社会的に問題視され始めている。厚生労働省は今後、カスタマーハラスメントにあたる「悪質なクレーム」について、企業がとるべき対策を指針で明示していく予定だ。
 
株式会社エス・ピー・ネットワークが実施した『カスタマーハラスメント実態調査』では、直近3年間で「カスタマーハラスメントが増えている」と回答した人が55.8%。半数以上のビジネスパーソンたちが、カスタマーハラスメントの増加を実感している。
 
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カスタマーハラスメント対応は、企業やビジネスパーソン個人にどのような影響を及ぼすのだろうか。調査では想定される8つの項目を設定し、それぞれに対する影響の有無を聞いている。
最も多くの人が「影響がある」と答えたのは「ストレスの増加」で93.1%。「体調不良のリスク」については73.2%、「休職のリスク」と「退職のリスク」についても半数以上が「影響がある」と回答しており、カスタマーハラスメントによってビジネスパーソンが受けるダメージの深刻さが読み取れる。
 
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しかし、自身が勤務している企業で、顧客対応全般に関するマニュアルが「作成されている」と回答したのは31.4%、そのマニュアルが「カスタマーハラスメントにも対応している」と回答したのは62.2%だった。つまり、カスタマーハラスメントに対応したマニュアルが整備された環境下で働いている人は、全体の19.5%しかいないということだ。
 
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カスタマーハラスメント対応を行ううえでの課題を聞くと、1位が「対応者個人のスキルアップ」、次いで「対応できる人材の育成」という結果になっており、対応を個人の力量に頼りがちな実態があらわれている。しかし、個人の負担を軽減するためにまず必要なのは、3位以下に挙げられた「対応方針の明確化」や「対応マニュアルの整備」、「不当要求対応ノウハウの整備」等なのではないだろうか。
 
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調査では、多くの人がカスタマーハラスメントに苦慮しており、ストレス増加や意欲の低下、体調不良や休職・退職のリスクも挙げられる一方で、カスタマーハラスメントに対応したマニュアルがある企業は20%にも満たないという実態が浮き彫りになった。
 
カスタマーハラスメントはB to Bでも起こり得るが、圧倒的にB to Cで特に多いと考えられる。一般消費者向けのサービスを提供している企業は、「お客様ファースト」に力を入れるがゆえに、従業員の働きやすさが二の次になってしまうなど、企業理念に共感する従業員自身が無意識に忍耐を重ねるケースも多い。
しかし、一般消費者向けのサービスこそ、従業員のメンタルが直接お客様に影響してしまう。それゆえに、カスタマーハラスメントに対応したマニュアルの整備を前提として、従業員が安心してお客様と向き合える環境をつくることが重要だ。まず企業全体として基本方針やマニュアルに則った対応を行うことが、スキルの底上げやサービスの質の向上につながっていくのではないだろうか。
 
国によるカスタマーハラスメント対策が動き始めているが、従業員の心身の健康を守り、貴重な人材を手放さないためにも、企業側の対策は急務だと言える。マニュアル作成や社内のフォロー体制の構築はもちろん、あまりに不当なクレームを受けたときのために、弁護士、警察、業界団体等の相談機関とつながっておくことも大事である。クレーム対応専門会社の利用も一つの方法だろう。
 
 
【出典】株式会社エス・ピー・ネットワーク 『カスタマーハラスメント実態調査
 
作成/MANA-Biz編集部