リサーチ

2020.04.02

リモートワークで気づいた、幸せの見つけ方〈ライフスタイル編〉

「働く・学ぶ・暮らす」が同居した自宅で、豊かな時間を過ごすには

リモートワーク体験談をもとにメリット・デメリットについてまとめたレポートの第2弾は「ライフスタイル編」。これまでリモートワークを導入している企業のなかには、育児との両立、介護との両立をしているワーカーなど、利用者を限定している企業も多かった。しかし2020年3月に発生した新型コロナウイルスは、全世界でパンデミックを引き起こし、日本でも感染予防として国家レベルで在宅勤務が推奨され、制約の有無にかかわらず多くの人がリモートワークを強いられる状況となっている。仕事を家に持ち込むこと、そのことが精神的にも肉体的にもどのような変化をもたらしたのか、コクヨ株式会社でリモートワークを行った約100名から寄せられたコメントから考察する。

身体が痛すぎる…新たな発見を求めて街を散策しよう
家だろうがオフィスだろうが、パソコンとネットがつながればどこでも集中して仕事ができる。特に在宅勤務であれば、通勤時間も短縮でき、通勤ラッシュのストレスからも解放され、心身ともに健康的! と思いがちだが、実際にリモートワーク(在宅ワーク)を行うと、思わぬところに弊害が出てきているようだ。
 
・通勤やランチなどで毎日平均5000~6000歩は歩いていたのが、終日自宅だと300歩に....堂々と散歩しにいきたい。(30代・女性)
・通勤で運動しないのでムズムズしてスダンディングワークがしたくなります。(20代・男性)
・執務用のイスではないので、腰が痛い。(20代・女性)
 
これらのコメント以外にも「運動不足」という言葉を挙げた人は多かった。自宅では仕事中に動き回ることは少ないうえ、通勤による移動もなくなるため、極端に体を動かす機会が減ってしまう。また、家にある机やイスは仕事用ではないため、長時間の利用は体に負担をかけてしまうようだ。
自宅でじっとしていれば身体的にも精神的にも滅入ってしまう。そういったときは、気分転換も兼ねて散歩やストレッチを取り入れるとよいだろう。
 
 
家事も、買い物も、充実! 仕事と生活の質が同時に上がる
一方で、オフィスへの通勤からは得られなかった生活体験で気持ちが高まる人もいるようだ。
 
・集中して仕事をして、合間に家事の手伝いもできたから家族に喜ばれました。(男性・30代)
・野菜などの品数が揃っている時間にスーパーに行けました。会社帰りのタイミングでは、値引きはいくつかあっても、そもそも良い食材が残っていないんですよね。(20代・男性)
 
平日の近所の様子やスーパーの品ぞろえなど、新たな発見ができる機会も得られる。リモートワーク(在宅ワーク)だからこその楽しみを見つけることで、仕事と生活の質が同時に上げるチャンスにもなるのだ。
 
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写真:iStock

 

 
もっと子どもにカッコいい姿を見せられる! もっと子どものかわいい姿に触れられる!
さらに、リモートワーク(在宅ワーク)もメリットとして一番多かったのが、「子どもとの時間が持てること」だ。まだ明るい時間帯から子どもと会話できることは、子どもの成長を見守る親としてもなによりもうれしい時間となるのだが、その時間は子どもにとっても、有意義な体験になるようだ。
 
・子どもに仕事をしている姿を見せられたのは良かった。パソコン作業だけでなく、リモート会議で会社の人と話している緊張感も伝わった気がします。(40代・男性)
・子どもと同じ空間にいられたことで、頑張って勉強をしている様子が見られました。こちらに余裕があれば、子どもが少し困ったときは助けてあげられますね。(40代・女性)
 
会社員の場合、子どもが親の働く姿を見る機会はめったにないが、リモートワーク(在宅ワーク)によって親の普段と違う一面を子どもに見せることは、一番身近な社会科勉強にもなるのではないだろうか。普段の会話の幅が拡がるうえに、子どもにもわかりやすく仕事の内容を説明することで、仕事の意義の再認識や伝える力の向上にもつながる。
 
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写真:iStock

 

 
「家族」がストレス⁈  いえ、互いの絆を深めるチャンス!
とはいえ、仕事に集中している時、WEB会議をしている時に限って、邪魔が入ってしまうことも…。
 
・テレビ会議中に子どもが鉛筆削りを使ってガリガリ音がなってしまって、我慢できずに「うるさい!」と注意してしまいました。ただ叱るだけじゃなくて、始業前に子どもの文具などの準備を一緒にしてあげるべきでしたね。(40代・男性)
・普段はダイニングで仕事していますが、夫婦で在宅の日にテレビ会議のために自分が部屋を移動しなければいけなかった。場所の取り合いにならないように、その日のお互いの予定について話し合いが必要ですね。(30代・女性)
 
しかし、同じ邪魔でも、心和むお邪魔もあるよう。
 
・猫が寄ってきて思いのほか気が散りました。その対策としてドアを閉めたんですけど、逆にガリガリやられて困ってしまいました。(50代・男性)
・宅配が来て仕事を一時中断…でも、妻が注文した通販商品を受け取れたので感謝されました。しかも再配達が減るのは、社会にとって良いことをしている感じがして、いい気分ですね。(40代・男性)
 
家族と同居している場合、良くも悪くも、家族との時間や空間の共有に焦点が当たっているようだ。
もし、小学生以上の子どもがいるのなら、適度な物理的距離が必要なのかもしれない。姿が見えているのに、親と話せないのは子どもにとってストレスになりうるので、例えばリビングとダイニングを使い分けたり、視線があえて交わらない位置に座るなど、工夫が必要だろう。また、おもちゃや書籍のような子どもが一人で没頭できるコンテンツを親が提供することも、同じ空間にいながらお互いの独立性を担保する秘訣といえる。
 
一方で、「オン(仕事中)」の姿を子どもに見せたり、子どもが頑張っている姿を見られるのはとても貴重な体験。会社で働いていると見ることのできない、家族のいろいろな側面に出会えることはリモートワークだからこそ実現できる、素晴らしい利点といえる。
家族と一緒に過ごす時間が増えるからこそ、個別の時間と団らんの時間を家族で計画・共有し、お互いにストレスがない時間を過ごすことが、リモートワーク(在宅ワーク)のメリットを家族みんなで享受するカギといえる。
 
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写真:iStock

 

 
楽しいひとり遊び計画を
一方で、ひとり暮らしの人にとっての課題は、やはり孤独である。
 
・連日のリモートワークは孤独です。(40代・男性)
・テレビ会議もない日は、ひとりだと寂しいです。(40代・女性)
・ずっと家にいると、なんだか気分が良くないです。人と話したい欲がどんどん強くなってしまいますね。(30代・女性)
 
オフィスで人と会話できることがこんなにも楽しい行為だったということに、改めて気づかされる人が多いよう。ひとり暮らしだと一日誰とも喋らない…なんてことも。そんな時は、雑談タイムやランチタイムを、チャットやテレビ会議を通して同僚と共有するのも良い。また、個々人の努力だけでなく、組織単位で組織力が低下しない仕組みをつくっていくことが求められる。
 
さらに、ひとりの時間を積極的に楽しむマインドも大切だ。部屋に植物を置いて雰囲気を変えてみたり、料理にこだわってみたり、本や映画に勤しんでみたり。ひとり言で大いに感情表現したり、臭いのきつい食べ物(スルメなど⁈)をつまんだり、オフィスではできない楽しみ方は山ほどある。実は、人間らしさを取り戻す「ひとり遊び」を開発するチャンスなのかもしれない。
 
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写真:iStock

 

 
ワークもライフも最大限楽しむ2つの工夫
リモートワーク(在宅ワーク)で大切なのは、家をオフィスと同じ環境に再現しようとして、ノイズを排除することではないということだ。子どもやペットとの共存を受け入れつつ、アクシデントのように起こる出来事を楽しむマインドセットが必要になってくるのではないだろうか。
 
コクヨ社員の体験から、家族と楽しく共存して働くための工夫を以下の2つにまとめた。
①配慮する
 ‐場所:家族との適度な物理的距離の取り方
 ‐マインドセット:互いの行動を受け入れる寛容さ
②ウェルビーイングな1日を、楽しみながら設計する
 ‐散歩や買い物など身体を動かす活動
 ‐家ならではの楽しみや独自のひとり遊びを
 ‐会社にいる時とは違う集中モードのつくり方(ポモドーロテクニックという仕事や勉強、家事などのタスクを25分間続けた後に5分の休憩を取り、そのサイクルを最大4回続けるという時間管理術もある)
 
 
小さな幸せとともに、生きよう
リモートワークを始める前は、生活の場を「働く」ことが浸食してしまうことが不安だった人もいるだろう。しかし、家族の傍で働くことは、浸食でも何でもなく、お互いを尊重し合いながら、改めて家族を愛するきっかけにつながる機会にもなる。
 
当然、仕事環境の面では、自宅はオフィスに劣る点も多々ある。しかし同時に、環境が働くモチベーションに大きな影響を与えることに気づいた人も多い。
強制的なリモートワーク(在宅ワーク)は、これまで生活の場と思っていた自宅環境や、これまで借り物と思っていたオフィス環境に、真剣に向き合う機会にもなるだろう。
 
今後、これまで「働く」「学ぶ」「暮らす」を別々の環境で行っていた状況が一変して、「働く・学ぶ・暮らす」が重なることで、いっそう多様な生き方があちこちで生まれてくるのではないだろうか。
ピンチをチャンスに変える。まずは身近にある小さな幸せを見つけることで、豊かな時間を過ごそうとマインドを変えていくことが、これからの不確実な社会を生き抜くために必要なことではないだろうか。
 

田中 康寛(Tanaka Yasuhiro)

コクヨ株式会社 ワークスタイル研究所 / ワークスタイルコンサルタント
2013年コクヨ株式会社入社。オフィス家具の商品企画・マーケティングを担当した後、2016年より働き方の研究・コンサルティング活動に従事。国内外のワークスタイルリサーチ、働く人の価値観調査などに携わっている。

江藤 元彦(Eto Motohiko)


コクヨ株式会社 経営推進室 / 新規事業開発
2014年コクヨ株式会社入社。オフィス家具の商品開発を担当しながら、2015年より社内メールマガジン「FORESIGHT」に参加、2016年より同編集長に。2019年より現職にて、未来洞察を軸足に新規事業部門で様々なことに挑戦中。

鈩 優介(Tatara Yusuke)


コクヨ株式会社 経営推進室 / 新規事業開発
2004年コクヨ株式会社入社。建材製品の設計および商品企画に従事。2017年より家具のマーケティングを担当する傍ら、社内メールマガジン「FORESIGHT」編集部にて未来洞察を行う。2019年より新規事業開発部門で活動中。