組織の力

2018.12.17

ウォルマート傘下における西友の変革〈前編〉

成功のカギを握るのはカルチャーの共有と浸透

小売業世界最大手の米企業ウォルマートと2002年に業務提携し、2008年に同社の完全子会社(ウォルマート・ジャパン)となった合同会社西友(以下、西友)。この10年間の経営改革により、収益は改善し、組織・体制も社内の雰囲気も大きく変わった。外資系企業の傘下に入ったものの企業文化の統合に苦戦する日本企業が多いなか、西友はどのようにして変革を行ってきたのか。同社人財部バイス・プレジデントの黒川華恵さんに伺った。

EDLP(毎日低価格)を軸に、
ビジネスモデルを変える

2002年にウォルマートとの提携をスタートした西友が、業績改善のために真っ先に取り組んだのが、ウォルマートの経営理念である「EDLP(Every Day Low Price):毎日低価格」の推進だった。

「ウォルマートの方針は『EDLP(Every Day Low Price)』といって、毎日低価格で提供することを目指しています。特売は、商品の選択から価格交渉、荷受けの整備や店舗レイアウト変更まで、大きなコストがかかり、売り上げにも波ができてしまいます。ですので、まず最初に特売を止めました。そして、チラシのボリュームも大幅に削減。それらを削減した原資をさらに価格に投資することで、商品を毎日低価格で提供し、多くのお客様の支持を獲得。売り上げも安定しました。また、お客様が自らレジで精算できる『スグレジ』の導入や、陳列の手間が省ける什器を積極的に採用するなど、店舗の業務効率化やテクノロジーの導入も同時に進めてきました」と黒川さんは言う。



両企業に根づくカルチャーが、
良好な関係構築と経営統合の礎となる

一方、「お客様に最高のサービスを提供する」というのは、西友として絶対に譲れない部分だった。また、ウォルマートはアメリカ企業のなかでも株主への還元意識が強い企業であり、かつ、「お客さまのために尽くす」を『私たちのバリューと行動』の一つに掲げていることもあり、お客様本位の精神は元来から西友と一致していた。
「両社の根っこにあるカルチャーが合致していたことが、ウォルマートと西友が長く良い関係を築いてこられた最大の要因だと考えています」と、黒川さん。

ウォルマートが掲げる『私たちのバリューと行動』とは、ウォルマート・カルチャーの価値観と行動規範を具現化したものだ。先に挙げた「お客さまのために尽くす」のほか、「すべての人を尊重する」、「常に最高を目指す」、「倫理観をもって行動する」の4つが軸になっている。とくに「すべての人を尊重する」は、西友の変革においても大きな意味のある文言だ。

「"すべての人"というのは、お客様、メーカー、サプライヤー、物流業者...と、いわば社会のすべての人を含んでいるのですが、とくに意識しているのが"アソシエイト"(=経営陣からパートタイム社員まで、ウォルマートで働くすべての人が仲間という意味)です。全国に約32,000人あまりいるアソシエイトのうち、いわゆる正社員は4,800人ほどで、それ以外はパートさんやアルバイト(="メイト社員")です。メイト社員には主婦の方もいれば学生や外国籍の方もいて、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちが集まっています。『すべての人を尊重する』には、いろんな立場の人の意見を聞いて、そのダイバーシティを尊重する、という思いを込めているのです」

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たとえ企業文化や風土が近いとはいえ、経営統合によるコスト削減や業務の効率化といった変革に対し、社内で反発は起こらなかったのだろうか。
「西友では、店舗の見直しや組織の最適化、コスト管理や業務の効率化などの変革を行いました。また、現場では、いわゆる"横文字"の表現が浸透しにくいなどの壁もありましたが、そのほかは大きな反発もなく比較的スムーズに変化が受け入れられています」

「従来の西友には余裕があり、チームワークを重んじてお互いの業務のやり方を尊重し合うがために厳しいフィードバックをしないカルチャーがありました。アソシエイトの方々も素直で前向きでおおらかな人が多く、悪く言えばのんびりしているところがあったんです。でも、コスト削減や効率化も、お客様のためになるのであればと、受け入れてくれた感じがあります。一方、統合後、コンプライアンスの面などは非常に厳しくなりましたので、そうしたルールの浸透については、研修で徹底しました。また、とくに重視したのは、組織を率いるリーダー層に対する『リーダーシップ・トレーニング』で、ウォルマートで最も重要とされる『カルチャー・リーダー育成プログラム』を日本向けにアレンジして導入しました」



合同会社西友

西友は、日本国内で北海道から九州まで幅広いエリアをカバーする店舗網を有し、生鮮食品を含む食料品、衣料品、住居用品などを取り揃えた売場を運営。お客様に対しては「信頼を勝ち取るために、どこにも負けない価格と確かな品質で、毎日必要な商品を届ける、店舗でも、そしてネットでも」の実現に向け、「価格」、「鮮度と品質」、「品揃え」、「利便性」という4つの柱に基づいた価値ある買物の機会を提供している。さらに、親会社である米国ウォルマート社のグローバルなネットワークやスケールメリットを十分に活かしつつ、日本のお客様の嗜好やニーズに合った売場を積極的に展開している。

文/笹原風花 撮影/ヤマグチイッキ