組織の力

2018.12.17

ウォルマート傘下における西友の変革〈前編〉

成功のカギを握るのはカルチャーの共有と浸透

小売業世界最大手の米企業ウォルマートと2002年に業務提携し、2008年に同社の完全子会社(ウォルマート・ジャパン)となった合同会社西友(以下、西友)。この10年間の経営改革により、収益は改善し、組織・体制も社内の雰囲気も大きく変わった。外資系企業の傘下に入ったものの企業文化の統合に苦戦する日本企業が多いなか、西友はどのようにして変革を行ってきたのか。同社人財部バイス・プレジデントの黒川華恵さんに伺った。

統合10年目、変革は第2ステージへ
ウォルマート・カルチャーのさらなる浸透を図る

2008年以来、10年あまりにわたって行ってきた経営改革の結果、社員の意識や社内の雰囲気も徐々に変化してきた。この先の課題は、いかにボトムアップで動けるかだった。

「人事的な階層が深いと、情報が伝わりにくく伝達に時間がかかります。世の中がスピーディーに変化するなか、常に上司に判断を仰いでいては迅速に意思決定・実行することができず、すぐに置いていかれてしまいます。トップダウンではなくボトムアップで動ける組織に変わるために何が必要かを考えたときに、改めて、本部から店舗の隅々までウォルマート・カルチャーを浸透させることが不可欠だということになったのです」


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統合10年目を迎えた2018年、カルチャーの浸透という課題に対し、いくつかの新たな取り組みがスタートした。中心となるのが、「カルチャー・アンバサダー」の活動だ。第1期のカルチャー・アンバサダーには、全国の店舗・本部からインフルエンサーとなることが期待される12名の社員が選ばれた。アンバサダーらは社員にカルチャーを浸透させるためのアイデアを出し合い、実際のアクションにつなげていった。



セッション、行動宣言、ダンスを通して、
店舗スタッフまでカルチャーを波及

第1期カルチャー・アンバサダーのアクションは、主に3つある。
1つめは、店舗アソシエイトに向けた『カルチャー・セッション』だ。アンバサダーが全国16地区を巡回し、カルチャーの理解と実践を促す。セッションには、全店舗から約800名のアソシエイトが参加した。
2つめは、『カルチャー宣言シート』の作成だ。カルチャー宣言シートとは、店長などが、現場でカルチャーを実践するための行動宣言を記したもの。2月に行われる全社会議「Year Beginning Meeting」で『カルチャー宣言シート』を配布。記入された300枚以上のシートすべてを人財部の責任者が確認し、コメントとサインをする。さらに、シートはフレームに収められ、店舗のバックヤードに掲げておくことになっており、「アソシエイトの意見を引き出しながらハイ・パフォーマンス達成を目指す」などコミュニケーションを重視した宣言が多いという。
「行動宣言が常に目に入る状態をつくることで、アソシエイト一人ひとりがコミットしやすくなります」と黒川さんは述べる。

そして3つめは、『WIN the Future!ダンス』プロジェクトだ。店舗やアンバサダー活動のスローガン『WIN the Future!~Powered by Walmart Culture』をイメージした西友オリジナル曲とダンスをプロと一緒に制作。アソシエイトにカルチャーを浸透させると同時に、ウォルマートで働くことの楽しさ、一体感を感じてもらおうと、現在はアソシエイトが踊る動画を集めて1本のビデオにするというプロジェクトが進行中だ。
また、年に1回、ウォルマートの本社がある米国アーカンソー州で、世界中からウォルマートのアソシエイトが集まる『シェアホルダー・ミーティング』が開催される。そこで各国の伝統や文化を紹介するミーティングがあり、今年は『WIN the Future!ダンス』を披露した。各国のアソシエイトから『日本のパフォーマンスが一番良かった』と評されたという。


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シェアホルダー・ミーティングでのダンス風景

では、なぜダンスだったのか、黒川さんはこう話す。


「もっとも重視したのが、人数が最も多い層であるメイト社員へのカルチャーの浸透です。日々お客様と接する店舗で働くメイト社員は、いわば西友の顔です。その彼らがカルチャーを体現しなければ、お客様にも伝わりません。ですので、メイト社員の方々に深くカルチャーを理解して頂くために"頭と心"で理解を促す企画を立てました。カルチャー・セッションを通して"頭"で理解するのと同時に、直感的に"心"で理解を促すには音楽やダンスが良いのではないかという話にいきつきました。また、他社の好事例も研究して世界的な大手飲食チェーンが、経営理念や戦略を社員に浸透させる手段としてダンスを活用したという事例を参考に企画しました」

アンバサダーが率先するこれらのアクションから、「店舗では確実にカルチャーが根づきつつあります」と黒川さんは語る。
後編では、ウォルマート・カルチャーのさらなる浸透と同時に進めている人事面の改革について紹介する。

合同会社西友

西友は、日本国内で北海道から九州まで幅広いエリアをカバーする店舗網を有し、生鮮食品を含む食料品、衣料品、住居用品などを取り揃えた売場を運営。お客様に対しては「信頼を勝ち取るために、どこにも負けない価格と確かな品質で、毎日必要な商品を届ける、店舗でも、そしてネットでも」の実現に向け、「価格」、「鮮度と品質」、「品揃え」、「利便性」という4つの柱に基づいた価値ある買物の機会を提供している。さらに、親会社である米国ウォルマート社のグローバルなネットワークやスケールメリットを十分に活かしつつ、日本のお客様の嗜好やニーズに合った売場を積極的に展開している。

文/笹原風花 撮影/ヤマグチイッキ