組織の力

2017.10.30

イノベーションを起こし続ける、研究者集団リバネス〈後編〉

世界の未来を変える知識製造業とは?

株式会社リバネスは、2002年に学生ベンチャーとしてスタートし、次々とイノベーションを起こし、新たな事業の支援や立ち上げを行ってきた。代表取締役CEOの丸幸弘氏は、「イノベーションを起こすには、『考え方』と『環境』が兼ね備わった場が欠かせない」という。『考え方』とは?『環境』とは何か? リバネスだから創り出せるイノベーションの秘密について伺った。

みんなのコミュニケーション流量を収集し、
AIが人事評価

イノベーションを創出するための『QPMIサイクル』や『個のネットワーク組織』などの独自の考え方や仕組みをもつリバネス。人事評価制度についても、上司(人)が部下(人)を評価する従来のやり方とは大きく異なる。それは『リバネスブレイン』という仕組みを構築して、社内におけるコミュニケーション流量を独自のツールを使って収集し、評価する画期的な手法である。

「イノベーションを起こすためには、研究者同士の『コミュニケーション』が必要不可欠。だからリバネスではコミュニケーション流量で評価をしています。一般的な評価は、売上高などの成果や他者評価(上司など)で決まるケースが多いですが、偶発的だったり、好き嫌いで左右されたりと、客観的ではないケースがあるので、この方法をとっています。たとえば、『A君はポジティブワードが多い』『B氏の意見で、プロジェクトが一歩前進した』など、いつ、誰が、どのくらい迅速に、そしてどのように対応したのか、すべてのコミュニケーション情報を収集して数値化。それをもとに評価順位を決め、この順位で給料も決まります」と丸氏。

また丸氏も含め新人に至るまで全社員の順位や給料、その他リバネスの経営に関わる数字なども全て開示し、誰もが見られるようになっているという。理由は、自分の仕事に対する評価を正しく知ることと、経営者と同じ視点でリバネスの経営について考え、学べるように、とのこと。これもリバネス流の"教育"の一つといえる。

このように、客観的な数字(データ)をもとに、システムが総合的に評価しているので、リバネスでは人を管理するという意味での中間管理職は要らないという。「必要なのは、部下のパッションをうまくコントロールしたり、マネタイズを一緒に考えたりして、組織の全体方針と整合するかたちで若手をけん引する『トレーナー』や『メンター』などのミドル層だ」


『考え方』+『環境』を
兼ね備えた場(オフィス)からイノベーションは生まれる

リバネスは、研究者が集う場(オフィス)にも人一倍こだわりを持っている。もちろん、それはイノベーションを生み出すための要因になっているからだ。

「イノベーションを起こすための『最適な場』は単に設備があるだけではダメで、『考え方』と『環境』が兼ね備わっていることが重要なんです。ここでいう『考え方』とは、働く意義や目的のことで、『何のために、何をつくるのか?』ということです。お金のためだけに働くという考えはもう古いんです。世界を変えるため、そして次世代のために働くことが、21世紀に残る働き方です。もう一つ『環境』については、研究者がまだどこにも無いサービスを創り出せるように、個人または組織の力を最大化できるオフィス環境を整えることです。たとえば、社内にはアイデアをすぐに試せる実験室や研究室を完備していたり、依頼するとすぐにプロトタイプなどをつくってもらえる町工場と資本提携を結んでいたりします。このように、リバネスは設立当初から、『考え方』と『環境』にとことんこだわってきました」

さらに丸氏は「『考え方』と『環境』が兼ね備わった場(オフィス)は絶対に無くならない」とも断言する。
「なぜなら、『考え方』と『環境』が兼ね備わった場には人が集まり、ディスカッションも活発になる。そして、そこから新しい知識も生み出される。対面コミュニケーションによってのみ生まれる知識もあります。また対面コミュニケーションで得た知識は、時が経っても記憶に残り、人から人に語り継がれ、子どもや孫など世代を超えて、拡がっていく可能性も秘めている。まさにオフィスは、時空を超える知を生み出す、価値のある場になるのです」



丸 幸弘(Maru Yukihiro)

株式会社リバネス 代表取締役CEO。東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。博士(農学)。2002年に理工学大学生・大学院生のみでリバネスを設立し、日本で初めて最先端科学の出前実験教室をビジネス化した。世界から研究者の知を集めるインフラ「知識プラットフォーム」を通じて、200以上のプロジェクトを進行させる。創業からユーグレナ社の技術顧問をつとめ、30社以上のベンチャー企業の立ち上げに携わる。経済産業省とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)から認定を受けているリアルテックファンドの共同代表も務める。著者には『世界を変えるビジネスは、たった1人の「熱」から生まれる。』(日本実業出版社)、『「勘違いする力」が世界を変える』(リバネス出版)がある。最新刊は、『ミライを変えるモノづくりベンチャーのはじめ方』(実務教育出版)。

文/西谷忠和 撮影/ヤマグチイッキ