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2024.02.28

2024年「合理的配慮」法的義務化でますます求められる「障害の社会モデル」

知っておきたいトレンドワード29:障害の社会モデル

障害者に対する「合理的配慮」が民間事業者も法律で義務化されるにあたり、改めて「障害とは何か」を考えておきたいもの。障害をつくり出す要因は社会環境にあると考える「社会モデル」とは何か、社会に存在する4つの障害やその解消法等について解説する。

障害の社会モデルとは

「障害の社会モデル」とは、障害は個人の心身機能の障害と社会的障壁の相互作用によって創り出されているものであり、社会的障壁を取り除くのは社会の責務であるという考え方です。

2006年に国連で「障害者権利条約」が採択され、障害者の定義として「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある者」と、「社会的障壁」という言葉が採用されました。
また、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて推進された「心のバリアフリー」を体現するためのポイントとして、「ユニバーサルデザイン2020行動計画」では、以下の3点が挙げられています。

(1)障害のある人への社会的障壁を取り除くのは社会の責務であるという「障害の社会モデル」を理解すること。
(2)障害のある人(及びその家族)への差別(不当な差別的取扱い及び合理的配慮の不提供)を行わないよう徹底すること。
(3)自分とは異なる条件を持つ多様な他者とコミュニケーションを取る力を養い、すべての人が抱える困難や痛みを想像し共感する力を培うこと。




障害の社会モデルと個人モデル(医学モデル)との違い

障害の原因に対する捉え方として、「個人モデル(医学モデル)」と「社会モデル」に大別されます。

個人モデル(医学モデル)

個人モデルでは、障害を作り出している原因は「障害者」にあるとしています。足が動かせない、目が見えないなという「個人の心身機能」に原因があるという考え方です。たとえば、車いすの方が高い場所にある物に手が届かないのは「足が悪くて立ち上がれない」ことに原因があり、障害の解消にはリハビリや治療など、個人の努力や医療・福祉領域が取り組むべき課題だと捉えます。


社会モデル

一方社会モデルは、障害をつくり出している要因は「社会の仕組み」にあるとしています。たとえば、先ほどの車いすのケースでは、「車いすで届かないような高いところにものが設置されている」といった、社会の仕組みが障害をつくり出していると考え、社会の側が壁を取り除く努力をしたり、配慮を行うべきだとするものです。

これまでは個人モデルに当てはめて考えるのが主流でしたが、近年さまざまなシーンでバリアフリー化やユニバーサルデザインの採用など、社会モデルの考え方が取り入れられるようになってきています。




社会に存在する4つの障壁(バリア)

では具体的にどういった場面で障害が発生し、合理的配慮が必要になるのでしょうか。障害者が社会の中で直面しているバリアには、大きく分けて以下の4つの種類があります。

物理的バリア

公共交通機関、道路、建物などにおいて、利用者に移動面で困難をもたらす物理的なバリアのこと。たとえば、路上の放置自転車、狭い通路、急こう配の通路、ホームと電車の隙間や段差、建物までの段差、滑りやすい床、路上や点字ブロックの上に停められた自転車などが挙げられます。


制度的バリア

社会のルール、制度によって、障害のある人が能力以前の段階で機会の均等を奪われているバリアのこと。たとえば、学校の入試、就職や資格試験などで障害があることを理由に受験や免許などの付与が制限される、盲導犬や聴導犬を連れた方が飲食店への入店を拒否されることなどが挙げられます。


文化・情報面でのバリア

情報の伝え方が不十分であるために、必要な情報が平等に得られないバリアのこと。たとえば、視覚に頼ったタッチパネル式のみの操作盤、音声のみによるアナウンス、点字・手話通訳のない説明会などが挙げられます。


意識上のバリア

周囲からの心ない言葉、偏見や差別、無関心など、障害のある人を受け入れないバリアのこと。たとえば、精神障害のある人に対する何をするかわからないから怖いといった偏見、障害がある人に対する無理解、奇異な目で見たりかわいそうな存在だと憐れむことなどが挙げられます。




バリアを解消するためにできること

こうした社会的バリアを解消するためにどのような解決策が考えられるでしょうか。4つのバリア別に考えていくと、
物理的バリアには、スロープの設置などのバリアフリー化や設計段階から障壁を生み出さない配慮をすること、ユニバーサルデザインの採用などが挙げられます。制度的バリアには、法律、ルールの見直しと周知など。文化・情報面でのバリアには、手話や点字対応、情報提供の方法の工夫など。意識のバリアには、ポスターや動画等での啓発や理解を促すセミナー、研修の実施などが考えられるでしょう。

いずれも、たとえば視覚に障害がある人は目からの情報収集が困難であるため音声情報や聴覚情報などで伝える必要があるなど、どういったことに困難を感じてどんな配慮が必要なのか知ることが前提となります。相手のしてほしいことやしてほしくないことを理解しようと努めながら、行動を起こすことが重要です。
また、企業の場合は自社の従業員と顧客に対しての両方の側面からバリアの解消に取り組む姿勢が求められます。




障害の社会モデルにもとづく合理的配慮

「合理的配慮」とは障害者が社会の中で出会う障壁を取り除くための調整や変更のことで、2024年4月に施行される「改正障害者差別解消法」によって、民間事業者においても法的に義務化されます。具体的には、障害を理由とした不当な差別的取り扱いを禁止するほか、社会的障壁の除去の申し出があった際は、過重な負担にならない範囲で合理的な配慮をするように努めなければならないと定められました。合理的配慮は思いやりではなく、事業者の義務なのです。

オフィスや働き方(制度)についても同様で、「企業の都合に合わせてつくられている」ため、障害者にとって多くの障壁を生み出してしまっています。どんなことが障壁になり、どんな措置が必要になるかは個々によって異なるため、対話を重ねて個別のニーズを確認・尊重したうえで対応していく必要があります。

また、企業が合理的配慮に基づきそうしたバリアを取り除く対応を行うにあたって、「そもそもバリアがあることが問題だ」という社会モデルの考えに基づいて対応することが必要となります。個別の課題(バリア)に対応することも大切ですが、その課題の根本的原因(企業側の都合)を見直していく姿勢がなければ、本当の意味でのダイバーシティ&インクルージョンの実現は難しいでしょう。



作成/MANA-Biz編集部