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2024.01.30

ビジネスを支える経営基盤
ファシリティマネジメントとは?

知っておきたいトレンドワード28:ファシリティマネジメント

企業の経営資源である「人・モノ・カネ・情報」のモノの中には、企業が保有する土地や工場、オフィスビルや設備なども含まれている。こうした資産を経営戦略に基づき最適な形で維持・管理していく「ファシリティマネジメント」について解説する。

ファシリティマネジメントとは

ファシリティマネジメントとはアメリカで生まれた経営管理方式であり、「企業・団体等が組織活動のために、施設とその環境を総合的に企画、管理、活用する経営活動」のことを示します。
土地や施設や設備、備品などの固定資産(=ファシリティ)を無駄なく最適な状態で保有、運営し、維持する経営活動であり、経営基盤の4つの機能分野「人事・ICT・財務・FM(ファシリティマネジメント)」の一つとして経営を支える基盤と位置付けられています。

対象となるのは建物、什器、空調、エレベーター、照明、配管・排水、火災安全システムなどのハード面だけでなく、セキュリティ、清掃、警備、植栽、ヘルプデスクなどソフト面も含まれます。つまりオフィスビルなどの施設のコストを必要最低限にすると同時に、社員が安全・快適で効率よく働ける環境を整えることで、事業成長につなげるための活動なのです。




ファシリティマネジメントと
プロパティマネジメント、施設管理との違い

ファシリティマネジメント(FM)とプロパティマネジメント(PM)、施設管理はどれも似ているようですが、それぞれに違いがあります。

まずプロパティマネジメント(PM)とは、不動産のオーナーから委託を受け、オフィスビルや商業施設などの運営管理を代行する業務のこと。具体的には、入居希望者の契約手続きやクレーム対応、建物の清掃、警備など不動産管理全般が含まれます。
施設管理は施設の管理・保全を目的として、施設管理の担当部署が老朽化した建物や設備の修繕や交換などを行うことです。

それに対してファシリティマネジメントは、今ある施設や設備、環境を維持するだけでなく、経営的観点で最適化・効率化することを目的にしています。壊れたものを元に戻すだけでなく、よりランニングコストや環境負荷の少ないものに取り換える、有効活用できていない不動産や施設を売却して一元化するなど、幅広い視点で最適化を検討し、実行していきます。




日本でファシリティマネジメントが
広がった背景

アメリカでファシリティマネジメントが登場したのは1970年代後半ですが、日本に紹介されたのが1980年代半ば、広がり始めたのはバブル経済以降の1990年代前半です。高度経済成長期に建てられた大規模なオフィスビルや建物が老朽化しはじめましたが、バブル崩壊後はスクラップ&ビルドする建設資金の調達が難しくなり、建物の有効活用や維持管理コストの削減が求められるようになりました。

また、環境への意識の高まりによってオフィスビルにも環境への配慮やエネルギー効率の向上などが求められるようになってきたこと、働き方が多様化し、オフィスに求める機能が変化しつつあることなども影響しています。
こうした背景から、設備や利用環境を戦略的に管理し、将来を見据えたマネジメントが重要視されるようになりました。




ファシリティマネジメントに
取り組むメリット

ファシリティマネジメントに取り組むことは、長期的に多くのメリットを生み出します。具体的な内容を見ていきます。

コスト削減

まず大きいのがコストダウンです。人件費の次にファシリティに関わるコストは大きな割合を占めていると言われています。ファシリティマネジメントによって、施設・設備のランニングコストやライフサイクルコスト(製品や構造物がつくられてから役割を終えるまでに発生するコスト)を最大限抑える工夫をすることは、経営戦略上非常に重要です。一般的な建物のライフサイクルコストのうち約7割が施工後にかかるコストと言われており、ここを長期的な視点で見直すことで、大きなコストダウンが期待できます。


固定資産価値の維持

また、ファシリティマネジメントは施設や設備などの固定資産価値の維持にもつながります。定期的なメンテナンスや修繕、改築などによって価値の低下を最小限に抑えられ、長く使えるようになります。


エンゲージメントの向上と社会的

快適で効率よく働ける環境を提供することは、従業員の満足度や生産性にも大きく影響します。その結果、採用や長期雇用にも効果が期待できます。


サステナビリティへの貢献

ビルの緑化や再生可能エネルギーの利用など、環境保全に配慮した設計になっていることで、CSRや社会貢献にもつながります。大規模なビルであるほどカーボンニュートラルや資源リサイクルなどへの取り組みのインパクトは大きく、ステークホルダーから注目されやすくなります。

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ファシリティマネジメントの実践例

ファシリティマネジメントを実践するにあたって具体的な取り組み例を見ていきます。

定期メンテナンスと予防保全

施設や設備の定期メンテナンスを行うことで劣化や故障を未然に防ぎ、維持コストや資産価値低下を最低限に抑えることができます。また、故障や破損による業務停止や遅延を防ぐことにもつながります。


省エネ化への対応

省エネ化に取り組むことは、ランニングコストの抑制だけでなくSDGsへの貢献にもつながります。具体的には、断熱・除湿効果のある建材への交換や、エアコンや照明等をエネルギー消費効率の高い機器に入れ替える、エネルギー使用量のモニタリング、クールビズの導入等で空調の設定温度を適切に抑えるなどさまざまなアプローチが考えられます。


防災・セキュリティ対応強化

自然災害による資産損失を避けるために、施設の耐震性や耐火性は重要です。必要に応じて耐震補強や防火対象物の定期点検、避難経路の確保や災害時のシミュレーションなどを行っておくことも重要です。
また知的財産の盗難や損失を防ぐため、入退室管理設備やセキュリティカメラの導入、コンピューターのウイルス対策や情報セキュリティ対策方針の規定、オフィスのゾーニングの見直しなど、さまざまな角度からセキュリティ対策を強化する必要があります。


働きやすいオフィス環境づくり

経営方針に合わせてオフィスの機能として何を重視するかを明確にし、コミュニケーションの取りやすさや理想の働き方に対応したオフィス環境を整備することもファシリティマネジメントの一環です。例えばオンライン会議用ブースや体に負担のかからないオフィスチェア等必要な什器の設置、フリーアドレスの導入、国籍や宗教、ジェンダーなど多様性への配慮などが考えられます。

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ファシリティマネジメント実施のポイント

より効果的にファシリティマネジメントを行う際のポイントとして、まずライフサイクルコストを把握することが重要です。施設ごとに固定資産税や光熱費、警備費、清掃費、メンテナンス費、解体や処分費などがそれぞれどの程度かかるのか確認・試算しましょう。

また、ファシリティマネジメントは「経営」「管理」「日常業務」の3つのレベルで検討していくことが重要です。第一に経営の視点で最適なあり方を考え、それを受けてどう適切に管理していくかを検討し、日常業務の合理化や定量化に落とし込んでいくという順番で検討し、推進していきます。

一度やって終わりではなく、PDCAを回していく必要があります。計画(P)を立てて実行(D)し、評価(C)したうえで改善(A)するというサイクルを繰り返しながら継続的に取り組むことで、長期的に施設の価値を維持することができます。




作成/MANA-Biz編集部