仕事のプロ

2022.04.25

本業の課題を副業で解決!公務員が設立「一般社団法人KAKEHASHI」の挑戦〈後編〉

副業があるから生まれる本業への相乗効果

一般企業よりも副業へのハードルが高い公務員でもやりたいことを実現できる働き方の選択肢を示した一般社団法人KAKEHASHIの代表理事であり、横須賀市役所の職員でもある高橋正和氏に、具体的な取り組み事例や本業と副業を両立させる働き方の秘訣、今後の展望などについて引き続きお話を伺った。

地元農家と子育て世帯を
"つなげる"野菜のピュレ

横須賀市は大手自動車メーカーの工場を筆頭とした製造業の他、農業や漁業などの一次産業も盛んなだけに、KAKEHASHIの活動範囲も農業や専門技術者採用のサポート、地方創生のためのプロジェクト、子育て支援、教育など幅広い。
太くて大きな「架け橋」を維持するため、ただ事業者同士をつなぐだけでなく、KAKEHASHIでの商品作りと販売も行っている。その一つが横須賀産のカボチャやニンジンを使ったピュレだ。

「一緒に勉強会をする農家さんから、大きく育ちすぎたり傷がついた野菜は、味は変わらないのに適正価格でやり取りされないという悩みを聞いたことがきっかけです。それでなくても価格競争で単価がどんどん下がってしまい、有機肥料たっぷりな土壌でこだわって手間をかけて作っても、なかなか利益を出すことが難しい状況なのだそうです。
また、子育て中のご家庭で離乳食作りに際して野菜をピュレにすることに苦労しているという声も聞きました。そこで両者の課題を解決するため、子育て世帯へのアンケート調査や小児科医へのヒヤリングなどを経て、カボチャやニンジンを適正価格で買い取ってピュレを製造、販売することに。
横須賀市在住で各国大使館御用達のフランス人シェフに監修してもらいました。そうやって誕生した『SUCOYACA Puree』は、ふるさと納税の返礼品としても販売しています。
個人的な考えですが、私は水と食が豊かな場所でないと人は生きていけないと思っているので、農業や漁業がもっと稼げてもっと憧れられるような職になってほしい。だから頑張っている農家さんの応援は特に力を入れています」

また、横須賀市内に本社を持ち国内外で活躍しているLisa's Cake Marketのケーキ作りへの想いに感動してタッグを組み、ケーキに地元食材を使用することで食品ロス防止と地元食材の価値を世界に発信する取り組みなども行っている。
KAKEHASHIがつなぐ条件は、事業規模や形態は問わず、唯一こだわるのは「想い」があるかどうか。熱い想いのある人達の課題解決のためにつなぐ、または価値創造のためにつなぐ。いずれかの形で架け橋となることをめざして活動している。




より安心して暮らしていける街にする
性教育プロジェクト『命育』

本業の市役所で子育て支援の政策に携わりたいと長年考え続けており、私生活では父親でもある高橋氏ならではの課題意識に基づく取り組みが、性教育プロジェクトだ。

「児童虐待やDV(ドメスティックバイオレンス)、育児放棄や望まない妊娠など女性や子どもが被害者になりやすい問題の根本にあるものは何なのか、と考え続けてきた一つの答えとして、正しい性教育がおこわなれてきていないことがあるのではないかと思ったのです。
現在の学校教育では、学習指導要領の範囲内でしか指導してはいけないことになっています。そのため精子と卵子の受精によって妊娠するということは教えられても、どうすれば受精するのかということは教えられません」

2_bus_120_01.jpg 「今はわからないことがあれば子ども自身が検索して調べるということができてしまいますが、性に関する情報は適切ではないものも多いのが現状です。一方で正しい性教育が行われれば性行為の平均年齢が上がるというデータもあります。
『できることをやらずに悲しむ人を増やしてはならない』そんな想いから、これは絶対にやらなければならない。公教育現場でできないのであれば、きちんと学ぶべきだという空気をつくることだけでもやってみようと、保護者向け性教育サイトを運営している『命育』にアプローチし、連携協定を提携しました。
今後は、医師や助産師などの専門家による正しい知識を伝えるため、講演や勉強会などを開催していく予定です。性教育を学ぶことが当たり前だという動きをつくっていくことで、いずれ公教育現場で学ぶようになってくれればと願っています」




長く続けていくことが最優先。
無理な働き方はしないのが両立の秘訣

当然ながら副業の活動は、公務員法に規定された職務専念義務や守秘義務などのルールの範囲内で行う必要がある。そのため高橋氏は時差出勤制度を活用して、KAKEHASHIの活動時間を捻出しているという。どうしても必要な時は15分単位で取得できる有給休暇や土日を使うこともあるが、両立の秘訣としてできるだけ夜や休日は家族との時間を取るようにし、無理をしないことを心がけている。

「今日はやりたくないな、と思う時は潔く休むようにしています。いろいろな人とのつながりを広げていくためにもKAKEHASHIを長く続けていくことが大事。そのためにも継続を最優先に、無理をして体や家族に負担をかけたり、安易に流行りに乗ったりはしないと決めています」

公務員の業務は黙々と行う事務作業も多く、人と接する機会も少ない職場もあることから、感謝の気持ちを直接伝えられる機会は少ない。一方KAKEHASHIの仕事は顔の見える関係性の中で想いを伝え合うことができ、感謝されることもある。そこに大きなやりがいがあると高橋氏は言う。




副業での経営者の視点を通して
改めて感じる本業への感謝

高橋氏が副業でKAKEHASHIの活動を通して感じる自身の変化の一つが「本業への感謝」だ。

「本業という土台があるからこそ、副業で安心してチャレンジができています。また、副業でやりたいことができているからこそ、本業も手を抜いてはいけないとより頑張れるし、副業で得た知見を本業にも生かすことができます。
万が一、本業の人事異動で畑違いの仕事をすることになったり周りの出世が気になったりしても、副業という違う立場があり、やりたいことができていればそこで自己肯定感も得られ、本業を違う視点から見ることもできる。本業と副業でバランスを取ることに、そうした相乗効果もあると思っています、特に若手職員には積極的にチャレンジしてほしいと考えています」

そんな高橋氏を市役所の上司や同僚は温かく見守り、「頑張ってるね」と声をかけて応援してくれている。また、市役所内に副業を始めてみたいという動きも少しずつ広がり始めるなど、周囲にもプラスの影響が出てきているようだ。KAKEHASHIの仕事を手伝いたいという人も出てきているという。

「公務員という立場ではできないことも、外に出ればできることもある。例えば私は福祉関連の業務に携わったことはありませんが、つなぐ人を必要としているはずです。市役所の中から、専門知識や経験を活かして同じような活動をする第二、第三のKAKEHASHIが出てきてくれたらいいなと思います」

スピード感や柔軟性を担保するため、KAKEHASHIを大きな組織にするつもりはない。ミクロな部分に手が届く柔軟で身近な形を維持しながら、同じ想いを持つ別の組織が生まれてくれた方が全体最適なのではないかと高橋氏は語った。

「横須賀が良くなっていきさえすれば、KAKEHASHIはいつ辞めてもいいんです。ただ大人として次の世代に横須賀をより良い状態で受け渡す責任がある。公務員としてもKAKEHASHIとしても、未来に向けて自分達からどんどん仕掛けていき、子供達が大人になった時に、今より横須賀が良くなっていれば成功だと考えています」

2_bus_120_02.jpg 横須賀のために想いをつなぐ活動を続ける高橋氏に、一緒に活動する人達からは「KAKEHASHIのように横須賀のことを本気で考える存在が身近にいてくれて嬉しい」「実は今まで市役所の人にあまりいいイメージがなかったけれど、高橋氏と話してイメージが変わった」といった言葉をかけてもらえることが増え、パートナー企業も増えつつある。

今後全国的に急速に人口減が進むことが予測され、それは歳入減にも直結する。高齢化によりますます必要となる社会福祉などの必要な公共サービスの財源不足を防ぎ、想いを持って働く人がますます活躍できる横須賀にするため、横須賀市役所での本業とKAKEHASHIでの副業の両輪での高橋氏の挑戦は続いていく。





一般社団法人KAKEHASHI

2020年5月、横須賀市役所初の副業の法人として職員が設立。「熱い想いを持つ人の想いを繋ぐ架け橋となりその想いを実現して世の中をもっと良くする」というビジョンのもと、公務員と法人の両者の立場の長所を生かして活動を行う。地元特産物の開発、人財ネットワークの構築、教育、社会福祉、人財育成等の事業を行い、自主開発した野菜のピュレの販売をはじめ、人材雇用支援や性教育など幅広い活動を展開する。2021年にリクルート主催の「GOOD ACTIONアワード」入賞。

文/中原絵里子 撮影/ヤマグチイッキ