組織の力

2022.03.25

「グリーンビルディング」でESG時代を生き抜く〈後編〉

パンデミックにより生まれたWELL Health-Safety Ratingとは?

地球環境にも人や社会にも配慮したサステナブルなグリーンビルディングが世界的に広がりを見せ、ESG投資が主流になりつつある。COVID-19のパンデミックを機に新たに策定されたWELL Health-Safety Ratingや、WELL認証を取得することの真の価値について、一般社団法人グリーンビルディングジャパン(GBJ)元理事でもあるコクヨの齋藤敦子が解説する。

COVID-19のパンデミックで生まれた
WELL Health-Safety Rating

2020年に新たに公開されたのが、WELL Health-Safety Rating(WELL HSR)です。COVID-19のパンデミックを受け、健康・安全に働いたり過ごしたりができる環境の整備が急がれたため、世界中の600人あまりの専門家の知を結集して極めてスピーディーに作られました。

評価は、「清掃・消毒手順」「緊急事対応プログラム」「健康サービス資源」「空気質・水質の管理」「ステークホルダーの関与とコミュニケーション」「イノベーション」の6分野26項目。必須項目はなく、いずれか15項目を満たせば取得でき、書類審査のみで実地検査が不要なため、従来のWELL認証に比べるとかなり取得しやすい認証となっています。 ほとんどの施設用途で取得可能なため、アメリカではスポーツスタジアムや商業施設なども取得しており、取得件数は世界的に大きく伸びています。
1_org_160_01.png WELL HSRの取得には、感染リスクを低減、感染症拡大による事業中断の防止、従業員や施設利用者への安心感の提供、また、評価項目がそのままチェックリストとして活用できるといったメリットもありますが、もっとも大きなメリットは、感染対策や健康・安全に配慮しているというアピールになること。施設の改修など大きなコストをかけず運用面の整備でクリアできる項目も多く、2〜3か月と短期で取得できるので、企業にとっては大きなチャンスだと言えるでしょう。

1_org_160_02.png 出典:Green Building Japan 2021.11




投資家が見るのはESGやSDGsへの取り組み。
国際基準の認証取得により企業価値が高まる

WELL HSRも含めて、WELL認証の取得には、企業にとってさまざまな価値があります。一つは、従業員の健康を促進し、パフォーマンスを最大限に発揮できるようになるということ。優秀な従業員の確保や離職率の減少、知的生産性やエンゲージメントの向上といった効果も期待できます。
もう一つは、建物の価値が高まるということ。不動産価値が高まることで、テナント募集における優位性やテナント撤去防止にも役立ちます。そして何より大きいのが、国際基準の認証取得により「企業価値が高まる」という効果です。

今や世界の潮流は、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資です。国内外の投資家も金融機関も、企業がESGに基づいた経営を行なっているか否かにより投資・出資をシビアに判断しています。
そして、脱炭素に向けて、企業が事業を通していかにCO2低減に取り組むかも問われています。製造業の場合、工場や流通に重点を置きがちですが、多くの従業員が働くオフィスにおける取組みも必要です。特に、DX(デジタル・トランスフォーメーション)による働き方の進化は、従業員のウェルビーイングの向上により加速すると考えています。グリーンビルディングへの取り組みは、SDGsの17のゴールのうち「3 すべての人に健康と福祉を」「11 住み続けられるまちづくりを」をはじめほとんどのゴールに関係しています。このようなトレンドの中で国際認証を得ているという事実は、社会的にも大きなアピールになります。

さまざまな経営戦略があるなかで、働く場というファシリティ面での取り組みは比較的わかりやすく取り組みやすいため、LEEDやWELL認証は、投資家の支援を受けるための経営戦略の一つとしても、今後さらに注目されることが予想されます。




さらなるグローバル化に向け、
まずは国際基準ベースで考えることから

もちろん認証取得は手段であり目的ではありませんが、今後、外国籍の方が多く入ってくることなどを考えると、あらゆることを国際基準ベースで考えないと厳しくなります。海外企業とのパートナーシップを築く上でも、世界共通の言語と基準が重要です。日本企業も世界のスタンダードに自社を連結させていく、スタンダードづくりに積極的に参加していくことがグローバルで生き残っていく策ともいえます。

先ほど、「(ワーカーのウェルビーイングに投資するという観点で)日本は遅れている」と述べましたが、正確に言うと、「日本は二極化している」のが現状でしょう。高い意識をもって取り組みを進めている企業が増えてきたという実感がある一方で、昭和モードから変わらないような企業もあり、その差が大きくなっているのです。

世界的に気候変動への危機感が高まるなか、日本とアメリカだけが逆に危機感が下がっている(自分ごととして捉えている人の率が減っている)という調査(Pew Research Center 2021)もあり、気候変動という大きなテーマを日常的に捉えにくい現状もあるのではないかと思います。
理屈はわかるけど、共感はできるけど、どこから手をつけていいかわからない、お金がない、いやまだ大丈夫だろう...と、二の足を踏んでいる企業も多いのではないでしょうか。しかし、このままでは、世界の潮流から大きく遅れてしまいます。
WELL認証やWELL HSRは次の一歩を踏み出すためのステップ。認証の評価基準は何が必要なのかという知識を得るためにも有益なので、ぜひ、活用していただきたいと思います。





齋藤 敦子(Saitou Atuko)

コクヨ株式会社 ワークスタイルリサーチ&アドバイザー/一般社団法人 Future Center Alliance Japan理事
設計部にてワークプレイスデザインやコンサルティングに従事した後、働き方と働く環境についての研究およびコンセプト開発を行っている。主にイノベーションプロセスや共創の場、知的生産性などが研究テーマ、講演多数。渋谷ヒカリエのCreative Lounge MOV等、具体的プロジェクトにも携わる。公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会 ワークプレイスの知的生産性研究部会 部会長など兼務。